失敗例も多い「クリエイター×地域」 成功のカギはチーム結成

幅広いスキルを持ったクリエイターのチームが、地域住民と共に観光地マーケティングに取り組む「旅クリ」。人材育成と地域活性を同時に実現するこのプロジェクトを、出版社の宣伝会議は全国展開する。

クリエイターと地域住民が協力しながら観光活性化に取り組む「旅クリ」の参加者たち

宣伝会議は「月刊宣伝会議」や「月刊ブレーン」などのマーケティング・クリエイティブに関する雑誌・書籍を発行し、広告クリエイティブ業界向けの教育講座やセミナーも企画運営している。こうした豊富なクリエイターたちとのネットワークや情報発信力、人材育成のノウハウを総動員し、地域活性化事業に参入した。

長崎県佐世保市の九十九島エリア

クリエイター×地域の課題とは

クリエイターが地域活性化に関わる事例は、これまでも全国で見られるが、成果を挙げているケースはそれほど多くない。そこにはいくつかの課題が存在している。

まず、クリエイターの持つ力を十分に活かしきれていないこと。多くの自治体は、クリエイターをアーティストとして捉え、伝統工芸品や名産品パッケージ等のデザイン刷新や、アートイベントなどを依頼する。しかしクリエイティブやデザインは本来、もっと広範囲な課題を解決できる。例えば地域の魅力を端的に表す「言葉」をつくることもできるし、「魅力はあるのに伝わらない」「何をPRしていいかわからない」といった課題発見の段階から、クリエイターは能力を発揮できる。

また、プロジェクトがクリエイター任せになってしまい、地域にノウハウが移譲されず、プロジェクトが終わると「何も後に残らなかった」という事例も多い。

地域人材とクリエイターの共創

そこで宣伝会議は地域活性化の新しい事業モデルを構築。(1)幅広いスキルを持ったクリエイターでチームをつくること、(2)クリエイターと地域住民が共創する仕組みをつくること、によって上記の課題を解決している。

第一弾として2015年にスタートしたのが、長崎県佐世保市の九十九島を拠点とした観光活性化プロジェクト「旅クリ」だ。

九十九島は、佐世保港外から平戸瀬戸までの約25kmの海域の名称で、大小208の島々から構成される。島の密度は日本一と言われ、自然や食材、文化といった多様な魅力を持っているが、佐世保の観光名所「ハウステンボス」から至近距離であるにも関わらず、九十九島を訪れる人は少ない、眠れる観光資源だった。

そんな九十九島の全国での認知度を高め、観光客を増やすことを目的に、「旅クリ」は3カ年のプロジェクトとしてスタートした。

ポイントは、推進組織としてクリエイターと地域住民が参画する「九十九島プロジェクト研究会」を設置したことだ。

まず、広告・クリエイティブの専門誌「ブレーン」で地域活性化に取り組みたい若手クリエイターを募集。140人の応募から、広告や地域マーケティング、コミュニティ運営、映像制作などに得意領域を持つ9人を選抜した。

さらに、佐世保市に住み九十九島の魅力をよく知るローカルエキスパート(佐世保市職員、観光ガイド、アーティスト、水族館スタッフなど)9人が地元代表として参加する。

この合計18人のメンバーが知恵と経験を持ち寄って、九十九島の観光活性化プランを考える。さらに、研究会には全国のトップクリエイターや事業家が講師として参加する。

プロジェクト全体を統括する座長には、コピーライター・クリエイティブディレクターの小西利行氏が就任。小西氏はサントリー「伊右衛門」のコピーをはじめ、商品のブランディングのみならず、都市開発など国内で数々のプロジェクトを成功に導いてきたクリエイターである。ほかにも、日本のソーシャルビジネスデザインの先駆者である福井崇人氏(電通)、木村健太郎氏(博報堂ケトル)など、組織の枠を超えてクリエイターが参画した。

8カ月にわたる講義やワークショップを通じて、18人のメンバーは地域ブランドの活性や観光資源の開発に関する高いスキルを身に着けていく。当然、そのスキルは地域に残り、持続的に活かされる。

九十九島における「旅クリ」の事業モデル。宣伝会議は今後、同様の人材育成+地域活性化事業を全国展開していく。「旅クリ」は2015年グッドデザイン賞も受賞している

産学官の支援体制を構築

3カ年のプロジェクトの初年度は、九十九島の魅力の発掘・選定と、話題化できるストーリーの開発を推進。特設Webサイト「九十九島の九十九ネタ」(http://tabikuri99.jp/)を立ち上げ、新しい旅や遊びのかたちを提案している。本年度からは映像コンテンツの制作・配信や、全国的なPR活動を展開していく。「旅クリ」は2015年グッドデザイン賞を受賞するなど、新しい地域活性化手法のモデルとして早くも注目を集めている。

宣伝会議は今後、クリエイターと地域住民が参画する、同様の枠組みの地域活性化プロジェクトを全国展開していく方針だ。この際は、国内で唯一、新しい事業を構想する専門人材の育成を目的に設立された専門職大学院である事業構想大学院大学(学校法人日本教育研究団、東京都港区)と連携する。

同大学がこれまで蓄積してきた、事業構想家育成のためのカリキュラムや、一流経営者などの講師ネットワーク、数多くの自治体連携プロジェクトのノウハウなどを活用。クライアント地域とともに、産学官連携による地域活性化人材の育成と、観光振興を推進していく。

「旅クリ」から生まれた「九十九島の九十九ネタ」。エリアの資源を活かした新しい旅や遊びのかたちをプロモーションする

 

お問い合わせ

  1. 株式会社宣伝会議
    担当:吉田、大森
  2. ad-info@sendenkaigi.co.jp

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