広域連携が地方創生のポイント 人をつなぐ多摩信用金庫の挑戦

多摩信用金庫は、金融サービスをはじめ、経済・文化・生活のあらゆる角度から、地域社会を総合的、積極的にサポートする。「中期経営計画2015」では、「地域と金庫の未来共創」を目指し、取り組みを進める。地域に密着した金融機関ならではの地域活性の仕掛けづくりとは。

日野市に産業支援施設としてオープンした、多摩平の森産業連携センター「PlanT」

30の市町村をまとめる機能

地域に根ざした信用金庫の中でも、多摩地域の横の連携を重視した取り組みに注力する「多摩信用金庫」。そもそも信用金庫とは、協同組織の地域金融機関を指す。出資者は地域で事業を行う方々であるため、株式会社である銀行とは異なり、営利を主たる目的とはしない。

信用金庫の仕事は預金、融資、為替等の金融業務だけではない。地域に暮らし事業を営む人々を支え、地域を繁栄させることで地域経済、地域活性化に貢献することが大きな役割の一つとなる。多摩信用金庫もまた、昭和8年の設立以来、そうした目的と使命感を持って、多摩地域と共に歩んできた。多摩地域は26市3町1村の30市町村に、7つの商工会議所と21の商工会を持つ。人口約420万人、約183万世帯が暮らし、大学やNPOなども多い、比較的豊かな地域といえる。

多摩信用金庫・価値創造事業部である長島剛氏は「この地域に足りないのは、30の自治体や28の商工団体とコミュニケーションを取るような機関だと思います。そこに、我々の役目があるのではないかと考えています」と話す。

長島 剛(多摩信用金庫 価値創造事業部 部長)

多摩信用金庫では、平成22年に締結した多摩市創業支援事業連携協定をはじめとして、調布市、日野市、瑞穂町、昭島市、立川市、西東京市、武蔵野市、福生市と創業支援、中小企業支援、産業活性化、地方創生などに関する連携協定を結んでいる。

「協定を結ぶ時には、形式的な形ではなく、一緒に汗をかいてもらうことを約束しています」

金融機関と市町村で連携協定を結ぶ例は多くあるが、実際は何もしていないといった例は少なくない。その点、多摩地域では全ての協定が地域活性化に活きている点が特徴だ。官民交流の意味も兼ね、いくつかの市役所から若手職員を受け入れる、社員の相互派遣なども行っている。

「市役所から若手社員を受け入れることで、各市町村の特徴などがより分かるようになりました」。こうした交流が、各市町村における事業に生きてくる。

創業支援に注力

いま力を入れている事業の一つに創業支援がある。多摩信用金庫では、ミニブルーム交流カフェという創業支援イベントを多摩地域各地で開催している。講師はプロではなく、実際に事業を興した創業者。リアルな失敗談などを聞くことができると好評だ。

テーマを設定して、市町村を順番に回る。定員は20名と少人数。1時間の講演と1時間の交流タイムがあり、小規模にすることで、実際に創業を考えているプレイヤーが多く集まり、そこから連携が生まれるような仕掛けづくりをしている。集客には市町村の広報紙を利用。

「自治体の広報紙を活用できるという民間の金融機関は稀だと思います」。地域に根差した活動を通して築き上げてきた市町村との信頼関係のたまものだ。また、対象エリアが限定される自治体広報紙の補完的役割を担う媒体として、多摩地域30市町村をカバーする広報紙「広報たまちいき」の発行も行っている。編集を担うのは、大手新聞社を退職し、地元の多摩地域に戻ってきたプロだ。地域に眠る優秀な人材を活かした、地域を繋ぐ事業といえる。

多摩地域30市町村の広報紙「広報たまちいき」を発行

広域連携が地方創生のポイント

地方創生に向けた取り組みでは、平成27年5月に自治体向けに地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」についての勉強会を開催した。同じ内容で、各地で市民やNPO向けの勉強会やワークショップの開催も支援している。そうした勉強会がきっかけで、西東京市では「チーム24分ですむまち」というチームが結成。実際にRESASのデータを活用したまちづくりプランをつくり上げた。

このプランは、西東京市の利点を活かし、「良質なベッドタウンを形成する」というもの。RESASで人の流れを分析した結果、多くの市民が休日に隣接した武蔵野市へ出かけていることが分かった。そこで、このチームは、「西東京市から武蔵野市の吉祥寺地域へ直行するバス“吉祥寺エクスプレス”を運行し、西東京市側のバス停には“ターミナルマルシェ”を出店し、地元の農産物を販売する」というアイデアを提案した。このアイデアは、「地方創生☆政策アイデアコンテスト2015」で最終選考の10選に残り、ビザ・ワールドワイド賞を受賞した。

「市域を越えた政策をなかなか生み出せないのが市役所の問題点。行政界を簡単に越えるのが民間の発想の面白さです。地方創生に向けた情報を民間に広めることの重要性、可能性を感じています」

地方創生において最も重要なのは、市の中で完結させるのではなく、広域連携をしていくことだ。小さな連携を積み重ねていくことが、いずれ、市域を越えた大きな連携を可能にする要素となっていく。地域全体に横串を刺し、一つにまとめあげていく。それが、多摩信用金庫の担う大きな役割だ。

長島 剛(ながしま・つよし)
多摩信用金庫 価値創造事業部 部長
 


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