道端の「椿」が生んだ新産業 被災地の「成功モデル」を途上国へ
三陸・気仙地域に自生していた椿の油を使い、化粧品を開発。re:terraの取り組みは拡大を続け、地元企業と農園をつくり、雇用の創出も視野に入れる。それは、地域の「豊かさ」を問い直す試みでもある。
「違う世界を見てみたい」
長野の田舎で10代を過ごした渡邉さやか氏は、中学3年生の頃、新聞で見かけた交換留学の制度に、親にも内緒で応募。高校に入学してすぐ、1年間をアメリカで過ごした。
もともと、渡邉氏は初めての海外旅行で11歳の時に訪れたネパールにおいて、自分と同年代のストリートチルドレンを目にし、「豊かさとは何だろう?」と疑問を抱いていた。子どもの頃から社会に対する関心を持っていた渡邉氏にとって、田舎は物足りない場所のように感じられた。そんな渡邉氏に、父親が話した言葉がある。
「世界は広い。世界のどこかで君と気の合う人に出会う。だから、常に世界を広げていきなさい」
その言葉のとおり、自らの世界を広げてきた渡邉氏は今、被災地とカンボジアで新たなビジネスの創出に挑んでいる。
椿の油を化粧品にする発想
渡邉氏は大学・大学院で国際協力を学んだ後、日本IBMでコンサルタントを経験。3.11を経て、被災地での事業開発に乗り出すことを決意し、2011年11月に一般社団法人re:terraを設立した。
当初は、さまざまな事業計画を考えていたが、最終的に残ったのは「椿」だった。三陸・気仙地域には、気仙椿が自生している。しかし、その椿の実は一部が食用油に使われているのみで、産業化されていなかった。渡邉氏は、椿の実から採った油を使って、化粧品をつくることを思い立ったのである。
「大学で国際協力を勉強していた時に、モロッコのアルガンオイルが、もともとは食用油だったものを高級美容オイルにして、成功したことを学びました。それが記憶にあったんです。それに化粧品ならば、食用油よりも商品単価を高くすることができると考えました」
まずは、パートナー探しに動き始めた。渡邉氏は、いろいろなNPOの活動に関わっていたことがあった。その縁もあってハリウッド化粧品の社長と知り合い、協力を取り付けた。
並行して現地でのパートナーを探したが、最初は、候補に考えていた事業者から「大手に頼って事業をしていたら、撤退されたときに地元は困ってしまう。そうした持続性のない事業ならダメだ」と断られた。
「地域の人たちとビジョンを共有し、一緒に何かをやるには時間が必要です。東京と地方では、事業の規模感やスピード感、時間軸が異なります。それを考えないと、うまくいきません。私には、特別なスキルがあるわけではないので、まずは話を聞く。一緒にお酒を飲んだりして、話を聞きます。私、すごくお酒を飲むんですよ(笑)。それに、私は田舎出身なので、その人間関係の機微を肌感覚で理解できることが役に立っているかもしれません」
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