日本一のキャンプ場の経営者が語る、自然から「新産業」を創る方法

どこにでもある地域資源「自然」から発想を得て、新事業や産業をつくる。そんな取り組みに挑戦し、次々と成果を生んでいる企業が、北軽井沢に存在する。日本一のオートキャンプ場を運営する有限会社きたもっくだ。
文・中嶋聞多 事業構想大学院大学 事業構想研究所

 

日本一のキャンプ場

北軽井沢(群馬県長野原町)、浅間山の北麓に広がる3万坪のオートキャンプ場「スウィートグラス」は、バブル崩壊の爪痕が残る同地で、ひときわ賑わうキャンプ場である。全国版アウトドア誌の人気キャンプ場ランキングでは過去6年間で4回も1位に輝き、キャンパーにはよく知られた場所だ。年間の来場者は7万人に達する。驚くことに、46棟のコテージやキャビン、遊具はほぼ全てがスタッフの手作り。場内に広がる豊かな森林は、オープン以来20年間で約2000本の木を植え続けた成果だ。自然と同居する居心地の良い空間とは何かを考え続け、理想を追い求めてきた。

スウィートグラスを運営する有限会社きたもっくの福嶋誠代表取締役は、自らの営為を「フィールドビジネス」と呼ぶ。地域の風土にこだわり、その土地ならではの価値創造を実現する事業という意味だ。同社は現在、オートキャンプ場を核に、森林体験型リゾート施設、自然共生型アウトドアパーク、薪ストーブと薪の製造販売事業など次々と新しい事業を生み出して地域活性化を実現している。そして福嶋氏の掲げる理念“ルオム(フィンランド語で自然に従う生き方という意味)”に共感して、全国から多くのエース級人材が北軽井沢に集まってきている。

浅間山の北麓に広がる3万坪のオートキャンプ場「スウィートグラス」

フィールドビジネスとの出会い

千葉県で印刷デザイン会社を経営していた福嶋氏が、妻の明美さんと共に、生まれ育った北軽井沢にUターンしてきたのは1990年のこと。不動産業を営んでいた父親から、広大な牧草地を引き継ぎ、その有効活用を考えることになった。「当初は明確な事業コンセプトはなく、北軽井沢の居心地の良さを沢山の人に集まってもらい、共有したいと漠然と考えていました」。ミュージアム誘致やイベントの企画などさまざまな事業にチャレンジし、行き着いたのがキャンプ場だった。アメリカから招いたログビルダーの協力を得て、5棟のログハウスを建設。1994年にスウィートグラスをオープンした。

福嶋誠 きたもっく代表取締役

それまで日本のキャンプ場は、家族経営的な小規模のものや、公営キャンプ場のようにおよそビジネスとはほど遠いリクレーション施設だった。バブル期のオートキャンプ場ブームは過ぎ去り、福嶋氏は試行錯誤を重ねながらスウィートグラスを経営していた。

転機が訪れたのは2000年、アメリカのオートキャンプ場団体の招待で、現地のキャンプ場経営をつぶさに視察したことだった。「日本のように型にはまったキャンプ場ではなく、その土地々々の個性的な自然に人の手を加えてフィールドとして表現し、価値を生み出していたのです。このようなフィールドビジネスは、日本でも産業化できると確信しました」。このとき参加した経営者たちは、その後10年近くも自主勉強会を開催し、売上や客数等の経営データを公開しあいながら環境整備・イベントなどの改善を重ね、フィールドビジネスのノウハウを深めていく。

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