2015年1月号

社会イノベーションの起こし方

官民の垣根を壊す「観光圏」の重要性

月刊事業構想 編集部

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複数の自治体や民間事業者が連携し、魅力ある観光地づくりに取り組む「観光圏」。観光庁が進めるプロジェクトであり、現在10地域が認定されている。交流人口拡大に成果を上げる観光圏は多く、その取り組みに注目が集まっている。

佐世保・小値賀観光圏内の九十九島地区。島国・日本を象徴する景観を武器に、国内外から観光客を集めている

観光の原点に立ち返る

地方創生において、国が大きな期待を寄せるのが〈観光〉による地域づくりだ。新しい人の流れを作ることはもちろん、地域資源の発掘、再発見において観光は大きな役割を果たす。また、地方に仕事を作り、安心して働けるような場を作るという意味でも、観光業に対する期待は大きい。

これからの観光地域づくりにおいて、観光庁が掲げる理念は「住んでよし、訪れてよし」。観光庁観光地域振興課の川瀬弘之課長は「住民自体が自らの地域を良いと思わなければ、本当に良い観光地にはなりません」と話す。地域住民が自らの地域を愛し、誇りをもって暮らしているならば、おのずと観光客も訪れる。これが、観光の原点だ。

観光による地域づくりを考えた場合、単なる観光スポット、観光施設めぐりといった一過性の企画では、地域の活性化は困難だ。観光客がより長く地域に滞在し、土地の人や文化、歴史に触れ、何度も足を運ぶような仕掛け作りが重要となる。

しかし、今までの地域への観光客集めは、自治体はそれぞれの自治体、民間(ホテルやレジャー施設)はそれぞれの事業者が独自で行い、同じ地域でも自治体と民間はあまり連携していなかった。

そこで、国が観光地域づくりにおける新しい柱として育成しているのが「観光圏」である。

観光圏とは、ひとつの自治体ではなく、自然、歴史、文化等で密接に繋がりのある地域(複数自治体および民間事業者)が連携し、一体となった地域として滞在型交流観光を実現していく取り組み。国土交通大臣が地域を認定、様々な補助を行う。

認定の基準となる観光圏整備法は2008年に制定されたが、2013年から認定条件を厳格化、地域独自のブランド色を強めることで、各地の差別化をはかっている。

10月末に東京で開催された「観光圏シンポジウム」では、5つの観光圏の担当者が登壇し、地域活性に関する活発な議論を展開した

地域に求められる「経営力」

現在、新しい基準にもとづき2013年に6地域、2014年に4地域を認定、10地域が観光圏として、国際競争力の高い、魅力的な観光地域づくりに取り組んでいる。

「観光圏に取り組むこれら10地域が、日本の観光力を引き上げる機動力になると考えています」と川瀬氏は話す。観光庁では、2020年の東京オリンピックを見据え、10の観光圏への支援を中心に、日本全体の観光力強化に力を入れる。

観光圏として認定されるには、三つの大きなハードルを乗り越えなければならない。一つ目のハードルは広域連携で、自治体の枠を越えること。二つ目は観光関係者だけでなく、農業や産業、教育関係者など、業界の枠を越え異業種がつながること。そして三つ目は行政と民間が連携することだ。

これらのハードルを越えて「観光地域づくりプラットフォーム」と呼ばれるような官民組織をつくり、事業計画やマーケティング戦略、ワンストップ窓口の構築、品質管理を行っていく。まさに、地域に「経営力」が必要とされているわけだ。

現在、観光圏の10地域は、縦割りの組織を改め、広域、異業種、官民といった横断的な組織を作りあげ、「住んでよし、訪れてよし」の理念に基づいた、ブランド力のある魅力ある地域づくりに挑んでいる。

「海風の国」佐世保・小値賀観光圏の中島大幸氏(右から2人目)は「日本の顔となるブランドを目指す」と意気込む

世界に誇れる地域へ

行政と民間の連携がよくとれている観光圏として、長崎県佐世保市と小値賀町の1市1町で構成された「海風の国」佐世保・小値賀観光圏がある。島国・日本を象徴するような群島自然が広がる九十九島地区や、滞在型観光に対応できる小値賀地区といった資源をつなぎ、観光地として注目を集めている。生活航路として実際に使用している佐世保から小値賀までの航路を“海の旅”ととらえ発信するなど、独創的なプランも多い。

佐世保市では関係部署が集まった「観光圏庁内プロジェクト会議」を毎月開催。「会議を重ねることで、佐世保市の成長戦略の一つに観光を掲げていただき、全市的に観光を推進するという意志統一がはかれました」と、行政と観光協会のパイプ役として事業全体をけん引する同観光圏の中島大幸氏は話す。

観光圏を推進するうえで、標識や電柱の処理、景観や二次交通などインフラに対する要求は必ず出てくる。行政との関係を円滑にすることで、佐世保市ではこうしたインフラに対する議論が進んでいるという。これも、連携の大きな成果の一つと言える。

中島氏は「日本の顔となるブランド観光地をめざすことで持続・発展していく地域の在り方を提案していきたい。観光を手段とし、地域振興という最終目標に向かって行きたいと思います」と話す。

ほかにも、新潟県、群馬県、長野県の3県7市町村で構成する雪国観光圏では、雪国文化を深掘りし、次世代につなげる取り組みに力を入れている。教育委員会、学芸員と観光関係者が月に一度会議を開き、観光圏の雪国文化が東北や北陸とどう違うのかをアカデミックに考察、差別化することで独自の雪国ブランド作りに挑んでいる。教育関係者が観光に関わる例は全国でもほとんどなく、先進事例として注目される。

八ヶ岳観光圏では、民間事業者が連携し、夏場の二次交通としてリゾートバスを走らせている。さらに今年度は、JR東日本、地元バス会社、行政が連携し、新たな協議の場を立ち上げた。冬場のリゾートバスの運行を見据え、共同乗車券やICカードの活用を議論し、バスや鉄道の利用促進をめざす。これらの事業者が同じテーブルで議論を交わすことは極めて困難な取り組みだが、見事に実現した。

高いハードルにあえて挑み、国内だけでなく世界から人が訪れる地域づくりをめざす。こうした観光圏の取り組みが、地方の活性化、地方創生の大きな力となる。


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