2014年9月号

社会イノベーションの起こし方

電力小売自由化が生む「新サービス産業」 7.5兆円の市場を開拓

岩崎辰之(エプコグループCEO)

2
​ ​ ​

2016年に予定される、電力小売の全面自由化。家庭向けに巨大な市場が生まれ、電力データを活用した生活支援サービスなどが登場するとみられる。どのような事業者やサービスに成長のチャンスがあるのだろうか。

「全面自由化によって顕在化する市場は、全国7800万契約、金額にして7.5兆円にもなります。これによって、あらゆるプレーヤーに事業参入の機会が生まれます」。自由化の市場性を強調するのは、エプコグループCEOの岩崎辰之氏。

1990年設立のエプコは、戸建住宅の水回りシステムの設計コンサルティングで成長。新築住宅の設備設計シェアは14%に達する。現在は住宅・家庭分野のノウハウを活かし、住宅用太陽光発電やHEMS(エネルギーマネジメントシステム)の開発や設計などを手がける。

当然、同社も電力小売ビジネスへの参入を目指している。自ら電力小売を行うのではなく、電力小売に参入しようとする事業者へのインフラ提供をビジネス化する考えだ。つまり、電力データなどを収集する情報基盤や、データを解析・加工してサービスに利活用するためのアプリケーション基盤の提供・開発を担う。「将来的にはマーケットシェア20%、1500万契約が目標。さまざまな事業者との協業を考えています」

サービス面の差別化がカギ
自治体にも大きなチャンス

岩崎辰之 エプコグループCEO

岩崎氏は電力小売りビジネスのポイントを次のように指摘する。「小口需要家の家庭は当然、1契約あたりの利益は少ない。単なる電力の販売、安売りでは収益は確保できず、他社との差別化も図れません。重要なのは、電力データなどを活用した独自性の高い生活支援サービスの開発です」

例えば、HEMSデータから高齢者の生活パターン異常を検知して独居老人の異常を早期発見する見守りサービスや、データから住宅内への侵入者を検知し通報するホームセキュリティサービスなどが考えられる。節電に協力する利用者に、店舗や地域で使えるクーポン券を提供するといった付帯サービスもあり得るだろう。

このため、小売に参入しやすい事業者として、一般家庭への販路を持つ企業が考えられる。例えばスーパーやドラッグストアは、クーポン型サービスを作りやすい。家庭の口座を把握している通信事業者やクレジットカード業界も、電力販売と合わせた割引プランなどが可能だ。家電メーカーも、HEMSデータから家電の異常を検知するメンテナンスサービスなどで市場に参入できるだろう。

特に、自治体には市場参入の大きなチャンスがある、と岩崎氏は言う。「すでに水道という生活インフラを販売する自治体が、電力も売るというのは自然な流れです。ドイツでは、個人・民間では手当てできない電気や水道などのインフラの整備・運営をする公的な事業体『シュタットベルケ』が約900存在し、電力小売で20%以上のシェアを持ちます。公営バスや商店街で使えるクーポンの発行などは、地域活性化にも結びつけやすい。自治体財政の補填、雇用の創出、住民サービスの拡充、高齢者見守りの効率化など、事業のメリットは非常に大きいと思います。当社も自治体参入支援事業を準備中です」

すでに電力自由化が始まっている、海外から成功モデルを学ぶことも重要だ。「イギリスでは基本的にすべての小売事業者が、電気とガスを両方販売しています。このように、総合的なエネルギーサービスを提供できる企業連合に勝機があるのではないでしょうか。また、イギリスでは年間250万世帯が電気・ガス料金プランを変更しており、小売価格・サービス比較サイトなど周辺ビジネスも成長しています」

参入障壁に要注意
パートナー選びが重要に

電力小売はさまざまな事業者にチャンスがあるが、生活支援サービスを提供するためのアプリケーションや、電力データを解析・利活用できるシステムを構築するには、高い技術力とノウハウが必要になる。このため、事業者の参入を手助けするITプラットフォームサービスの市場も拡大するだろう。エプコがターゲットを定める市場も、まさにここだ。

また岩崎氏は、「電力自由化には意外なところに参入障壁があります」と言う。「1998年の水道法改正で水道工事が自由化された際、当時約3700あった市町村の水道局ごとに設計仕様や申請書類が異なり、これが参入障壁となっていました。そこで、当社はすべての水道局の業務指針や申請内容をデータベース化して、この市場で大きなシェアを獲得しました。電力自由化でも、電力購入先の変更手続きなどに非常に大きな手間がかかります。このことはまだ認知が広がっていませんが、市場を先読みし、当社は住宅・家庭分野で培ってきた業務ノウハウやシステムを活用し地域の電力会社(営業所)ごとの業務指針をデータベース化しています」

電力小売事業への参入に必要なのは、既存事業の強みを活かした生活支援サービスの発案と、最適な協業パートナー選びと言えそうだ。

自民党・平井卓也衆議院議員想定外の新規参入者に期待

現在の日本はエネルギー自給率が4%という緊急事態。エネルギー資源の大半を海外に依存しており、電気料金の値上げは、企業にとって法人税以上の負担になってきました。電力小売の全面自由化で、事業者間競争によって電気料金を抑制し、消費者・事業者の選択肢を広げることは大変重要です。

特定規模電気事業者の届け出数は2014年7月1日現在で291社、そのうち55社が既存の自由化分野で電力を供給しています。一般家庭部門の自由化で、思わぬ新規参入者が現れるでしょう。

その際に大切なのは、電力とサービスのセットで事業を展開すること。電力自由化ビジネスとはすなわち、新サービス産業の創造に他ならない。特に、一般家庭への販路や、コミュニティを持つ事業者にチャンスが拓けます。具体的には、右図にまとめたような事業者が有望ではないでしょうか。

一方で、スマートメーターのセキュリティの問題や、停電リスクに対する電力供給事業者の責任のあり方も考える必要があります。逆を言えば、こうしたリスクマネジメントにも事業チャンスがあるわけです。(談)

2
​ ​ ​

バックナンバー

社風が変わる、イノベーターが育つ

地方創生・イノベーションにつながるアイデアと思考に注目!

志高い、ビジネスパーソン・行政・NPO職員・起業家が理想の事業を構想し、それを実現していくのに役立つ情報を提供する、実践的メディア。

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

メルマガの設定・解除はいつでも簡単

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら


最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる