劇団四季、宝塚に次ぐ動員力 地域劇団・わらび座の経営ノウハウ
近年、芸術や芸能を用いた地域興しの試みが日本全国で活発に行われているが、そのパイオニア的存在として、年間延べ25万人もの集客に成功している劇団がある。「たざわこ芸術村」を展開する「わらび座」だ。
劇団四季、宝塚歌劇団に次ぐ規模
桜の名所で武家屋敷が有名な角館や、秘湯の宿として日本一の人気を誇る乳頭温泉鶴の湯からも程近い、自然豊かな旧田沢湖町(現在の仙北市)に、3万坪という広大な敷地を有するアートヴィレッジが存在する。それが「たざわこ芸術村」である。
劇団わらび座を運営主体とし、敷地内には「わらび劇場」(年250回公演)はもとより、温泉宿「温泉ゆぽぽ」、「森林工芸館」、「田沢湖ビール」のブルワリーやレストラン、(財)「民族芸術研究所」、「デジタルアートファクトリー」などなど、多様な施設が立ち並ぶ。
そして、約250人の社員が劇団部門・芸術村部門・管理部門に分かれて、運営に当たっている。
1997年に秋田新幹線が開通し、交通アクセスが改善されたとはいえ、このような山間部の小都市(人口約2万9千人)にありながら、年間延べ25万人もの人びとが訪れるというのには驚く。
わらび座は、創設以来60余年にわたりここを拠点としつつも、2006年には愛媛県に「坊ちゃん劇場」もオープン。国内外で年間1200公演を行い、48万人を動員し、日本では劇団四季、宝塚歌劇団に次ぐ規模を誇っている。
劇団四季がブロードウェイの作品を日本の俳優で演じるとするならば、わらび座は、あくまでも東北、とりわけ秋田にこだわり、この地で生きた人びとを題材にしたオリジナル作品が多い。
北海道出身で1983年以来、わらび座の代表取締役を務める小島克昭氏(69)は、「地域興しは、若者・馬鹿者・よそ者がやるとよく言われます」と笑うが、「足元を掘れ、そこに泉が湧く」と、秋田の地域資源に徹底的にこだわってきた。
そして、秋田の歴史性と現代性、地域性とグローバル普遍性をバランスした明確かつイノベーティブな経営姿勢ゆえに、小島氏はわらび座を90年代以降、一地方劇団に留まらない全国レベルの文化事業複合体へと発展させ得たのである。
創業理念と地域のニーズが一致
「わらび座は戦時中、石油会社の幹部技術者として、南方資源地帯に赴任していた原太郎が、終戦からわずか5年でまた戦争(朝鮮戦争)が始まったことに心を痛め、会社を辞め仲間2人と新宿で始めた音楽活動が原点です。彼らは“ニコヨン”と呼ばれた日雇い労働者たちに、アコーディオン片手にフォスターの歌曲やロシア民謡などを聴かせたのです」
民衆の中に入っていき、彼らの目線に立って展開する原氏らの音楽活動は、次第に仲間を増やしていく。翌年、「ポプラ座」と改名して北海道をまわり、1953年にはメンバーの一人が秋田県出身ということで秋田に拠点を置き、「わらび座」として活動を開始する。
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