2016年1月号

人間会議

「日本型」多世代共生の仕組み―本郷・ひとつ屋根の下

長谷川 大(街ing 本郷 代表理事)

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空き家の急増、老人介護施設の不足、高齢者の孤立。今の日本が抱える問題を地場から解決しようとしているNPOがある。東京・文京区のNPO法人 街ing本郷は、「シニアと若者が共存する」をスローガンに『ひとつ屋根の下プロジェクト』という取り組みを始めた。商店会や町内会の役員が集まったNPOのリーダーは商店街の魚屋の3代目が務めている。本郷の街でシニアと学生という世代を超えた共生はどのように育まれているのだろう。

地域課題と人をつなげるマッチング

各地域で「シェア」できる住居が注目されている。都内では若者向けだけでなく、超高齢社会問題の対策のひとつとして「高齢者向けのシェアハウス」も増え、孤立する高齢者が人とつながる場にもなっている。

世界ではフランスがホームシェアの先進地と言われ、「多世代共生型シェアハウス」が進む。一人暮らしに不安を感じた高齢者は、学生に空き部屋を安く貸す。学生は低賃料で住める代わりに、高齢者の手助けもする。互いにメリットがある仕組みで、ヨーロッパでは広がりつつある。日本でも同様の取り組みを始める地域が出てきた。

東京・文京区では、「ひとつ屋根の下プロジェクト」という名称で、多世代共生プロジェクトを行っている。活動を進めるのはNPO法人の「街ing 本郷」。『元気ある街づくり』を目指し、本郷地区の商店会や町内会の役員が中心となって立ち上げたNPOだ。代表を務める長谷川大氏は、商店街の魚屋の3代目の店主である。

「本郷を元気にしたい、そう思って立ち上げました。地域に根づき、地域課題の解決を行っています。そうは言っても、ほとんどのメンバーは生業となる本業があります。だから、人と人をつなぐコーディネート『マッチング(街ing)』が中心です」

ひとつ屋根の下プロジェクトの大学生向け案内チラシ

地域防災力向上のための「本郷防災アクション企画」や、本郷の商店街をもり立てる「本郷百貨店」などのプロジェクトから、また公園の掃除、道路に花を植える活動まで、地域で依頼される仕事はさまざま。その依頼をアドバイスできる専門家や、活動してくれるボランティア、学生につなげている。

「商店街や町内会の人は、地域の人間をよく知っている。だからつなげる仕事は得意なんです。その仕組みをつくったことがNPOの大きな成果だと思います」

本郷の5つの商店街が集まって生まれた「本郷百貨店」のプロジェクトが、2015年にグッドデザイン賞を受賞したことも記憶に新しい。「個性溢れる店主というブランドが揃う百貨店」というコンセプトのもと、商品やサービスの紹介はせず、店主自身の想いやお店の背景を中心に紹介し、店主の人柄を伝えて人間味溢れる商店街の魅力を発信する3ヶ月間の個性的なイベントであった。

「ひとつ屋根の下プロジェクト」では高齢者の家の空き部屋に、若者が共生する取り組み。

高齢化する前に助け合える仕組みをつくる

「ひとつ屋根の下プロジェクト」の前身となったのは2011年にスタートした「書生プロジェクト」だった。本郷は古くから多くの文豪が住む街。その土地柄もあり、住み込みの書生という文化は長く根付いていた。街のための活動に参加することを前提に、大家は大学生には部屋を安く貸す。キャンパスの近くに住みたい大学生を応援するプロジェクトだった。大家と学生の双方の間に入って、両者を仲介していた現場で、長谷川氏は高齢者と若者というマッチングのヒントを得た。

「私は40代後半で、商店街ではまだ若い方です。5年後、10年後、商店街の住民たちの高齢化はさらに進みます。今、助け合えるチーム、仕組みをつくっておきたいと思い、ひとつ屋根の下プロジェクトを考えました」

プロジェクトの概要は、文京区に住むシニアの空き部屋を大学生、大学院生が借りて共生するというもの。シニアと大学生が自分たちの生活を送りつつ、夕食・団らんを共にしたり、地域の活動に共に参加したり共通の時間を持つ。2014年度、独立行政法人福祉医療機構・社会福祉振興助成事業の助成金を受けて開始した。2014年にはマッチングを開始し、3組の住居シェアのトライアルが始まった。「共生ルール」や「契約条件」を決める段階まで、街ing本郷が仲介し、互いの同意で決定をする。

70代の女性シニアと男子大学生が共生した事例では、アパートオーナー型で、共生ルールを「ごみ出し」「町会の活動を手伝う」の2つ。女性シニアは「夜、学生が帰ってくるとほっとするような感じがする」と喜びを話した。80代の男性シニアと男子大学院生が、住居同居型で共生した例もある。住居の空き部屋に学生が住まい、「週に2〜3回の食事や団らん」を共生ルールにした。学生は「地域の昔の様子を教えてもらったり、新たな発見が多かった」と話す。

人がいる安心や多世代とのつながりがプラスになる一方で、見ず知らずの人との共生は、壁も多かった。生活時間のずれや、相手の生活音が気になるなど、さまざまな課題が浮上してきた。

食事をする多世代交流イベントでは、若者の5倍のシニアが参加。シニアは若い世代との交流を求めている。

自分から「困っている」とは言わない高齢者

長谷川氏は3つのケースのシニア、学生の双方から意見を聞き、「日本には家族以外の他人を受け入れる文化がないこと」に気づく。高齢者の見守りや手助けの効果より、ひとつ屋根の下に知らない人がいる違和感の方が大きいようだった。

「そもそも、プロジェクトをスタートした当初は、独居のシニアは寂しいだろう、困っているだろうという先入観があり、助けてあげたい気持ちが先走っていました。しかし、実際は、困っているという高齢者は少なかったのです」

長谷川 大(街ing 本郷 代表理事)

海外では困った時は自ら声をあげて助けを求める。高齢者が一人暮らしに不安を感じた時も助けを求めて、若者と同居することが多いようだ。しかし、日本には恥の文化があるせいか、困っていると口に出して言わない。

また学生側の意見としては、介助の必要な高齢者と共生するのは、高齢者の健康面の心配など、荷が重いということだった。

「介護と福祉が必要な方は共生の対象にはしていません。しかし、互いに違和感を抱えている状況では、多世代がひとつ屋根の下に暮らすのは難しいと感じました」

そこで、今年度はターゲットを、助けを必要としているシニアと、「今後助けが必要になる可能性がある」アクティブシニアに範囲拡大。いきなり同居ではなく、お茶会、食事会など多世代交流会を開催した。

「若い世代との交流を楽しんでもらうことが主旨です。恋愛でたとえるなら、付き合う前にデートをするアプローチに切り替えました」食事会を企画すると、高齢者の参加は学生の約5倍。若い世代との交流を求めている高齢者が多いことは明らかだった。その後も、お茶の会、おやつの会と続け、いずれも大盛況。

見ず知らずの者同士がいきなりひとつ屋根の下に住まうのは敷居が高いが、顔なじみになり、気心が知れた相手ならマッチングも成立しやすい。

「交流の場は、引き籠りなど高齢者の孤立を未然に防ぐ、寝たきりのシニアを増やさない、という予防のアプローチもあります」

また住居シェアは、一人暮らしの高齢者を対象としていたが、高齢者とその家族がいる世帯でもニーズがあるとも考えている。たとえば、老介護世帯に学生一人が同居することで家族が助けられることがある。学生自身は介護できなくても、介護する人の話し相手になるだけで、気分転換ができる。ケアをする人こそ、ケアが必要とはよく言われることだが、こうしたヘルプは今後さらに着目されていくべきだろう。

今後、さらに独居高齢者が増えると予測され、空き部屋を活用した「日本型多世代共生」の仕組みは各地で求められていくはずだ。

長谷川 大(はせがわ・だい)
街ing 本郷 代表理事

 

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