農家の高齢化、若手どう増やす フランスの新規就農者向け施策「グリーンベルト」

多くの農家が退職を迎える危機に直面する中、フランスでは「グリーンベルト」プロジェクトが若者たちに農業の基盤を築く手助けを行っている。(※本記事は『Reason To Be Cheerful』に2024年10月24日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)


農業に転身する前、ロール・アペステギー氏はフランス・ストラスブールの芸術文化センターで展覧会ツアーの案内を担当しており、彼女のパートナーであるアレクサンドル・シュヴァリエ氏は工学の学位を持ちながらも、大企業で不満を抱きながら働いていた。2019年に2人は人生を大きく変える決断をし、1年間コロンビアでパーマカルチャー的農法について学んだ。帰国後、様々な農場でのボランティア活動を試みたが、なかなか就業機会や研修の場を見つけることができなかった。

そんな中、2人はフランス南西部で若者が次世代の農家として成長できる支援プロジェクト「グリーンベルト」に出会う。このプロジェクトは小規模かつリスクを抑えた支援体制を提供することで、都市住民向けに有機農産物や季節野菜、低炭素な農産物の地産地消ネットワークを築くことを目指している。

空撮の農業用ビニールハウスの外観
アペステギー氏とシュヴァリエ氏は2ヘクタールの農地を賃借している。 Copyright: Peter Yeung

グリーンベルト」は、フランスのポー市で始まったプロジェクトで、新規就農者が利用しやすいよう、都市近郊の2ヘクタールの農地を手頃な価格で貸し出している。このプロジェクトは、都市部からもアクセスしやすい土地の水や電力などのインフラを整備し、冷蔵室・洗浄設備などの設備も整え、若い世代に低コストで農業を始める機会を提供しているのだ。

「グリーンベルトは私たちのニーズにぴったりでした」と、アペステギー氏(30歳)は述べる。彼女とシュヴァリエ氏(28歳)は、2022年2月からポー市の郊外の村、ロンティニョンで農場を運営している。「ここでは農地を見つけるのが非常に難しく、見つけたとしても銀行から融資を受けるのはほぼ不可能だったでしょう」。

就農希望者はプロジェクトの提案書を提出しなければならないが、都市部の卸売市場やレストラン、食料品の定期購入サービスなどの販路も利用できる。さらに「グリーンベルト」の技術アドバイザーから、ロボット化や新しい作物の栽培方法、灌漑の最適化といった最新技術に関するサポートも受けられる。

栽培されている小さな野菜
アペステギー氏とシュヴァリエ氏の農場『Cultivate!』では40種類以上の果物や野菜が栽培されている。 Copyright: Peter Yeung

アペステギー氏とシュヴァリエ氏の農場『Cultivate!』は、毎年夏の繁忙期には実り豊かな農地の景色が広がる。ピレネー山脈を望む農地で、40種類以上の野菜や果物が手作業で栽培されており、例えば、チンゲンサイやフェンネル、リーキ(西洋ネギ)、大根、ビーツ、バジル、さつまいも、きゅうり、スイカなどが含まれる。環境負荷を抑えるため、すべて手作業で行い、廃棄物は肥料として再利用し、主にパーマカルチャーの手法に従っている。

アペステギー氏は「小規模な農業であることが私たちには合っているんです」と話す。彼女とシュヴァリエ氏が農業の道を選んだのは、環境への関心と、自然の中で働くことの魅力からだった。「ここが私のオフィスだなんて、素晴らしいですよ」と彼女は続ける。

このプロジェクトは、地域の農業システムが崩壊の危機に瀕していることに気づいたポー市当局の取り組みから始まった。2019年に市が実施した調査では、地域の農家の約70%が今後10年以内に引退する予定であることが判明したのである。

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