世界で深刻化する食品犯罪、産地偽装問題 AIとブロックチェーンでの対策に期待
(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年4月2日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
数十億ポンド規模の犯罪企業が我々のスーパーマーケットの棚に潜んでいる。食品犯罪は我々の財布だけでなく、公衆衛生にも脅威を与える。それには製品の偽装、低品質な原材料への代替、さらには毒物混入までが含まれるからだ。
食品犯罪の巧妙さは進化しており、すでにこれは世界的な懸念事項になっている。食品に関するサプライチェーンの複雑さ、市場のグローバル化、透明性の欠如が食品セクターの脆弱性を高めている。したがって、最新技術を用いた食品犯罪対策を再考することが不可欠な状況だ。
食品犯罪は現在、世界全体では年間約400億米ドル(約310億ポンド)の損害をもたらしている。英国の食品基準庁は食品犯罪を「食品のサプライチェーンにおける深刻な詐欺および関連犯罪」と定義している。
利益を追求する犯罪者の視点から食品犯罪を考えると、食品犯罪は犯罪者が不正資金を得る手段であり、他の犯罪活動から得た資金をロンダリングする手段でもあることが理解できる。
食品業界は、その高い収益性から犯罪者たちにとって特に魅力的である。最近の研究では、犯罪者が高需要商品に対して採用する2つの主要なアプローチが明らかにされた。
ひとつめは、犯罪者たちは主にボトルウォーターやオリーブオイルなど、比較的低価格な日常消費される食品をターゲットにすることである。これらは多くの消費者が関わり、利益の最大化が見込めるからだ。例えば、2023年のスペインとイタリアにまたがる捜査では、26万リットルものオリーブオイルが押収された。当局は「バージン」や「エクストラバージン」とラベル付けされた、オリーブオイルが低品質なオイルで希釈されていたことを発見した。
もうひとつは、ヨーロッパ中の牛肉製品に馬肉が含まれていた2013年の馬肉スキャンダルの事例だ。その肉は生産コストが通常の4分の1だった。
犯罪者はリテラシの低い「グルメ」志向の消費者を騙し、安価な食品を高級な製品に見せかけて高価格で販売することもある。例えば、安価なトリュフを高価なイタリアのトリュフに見せかける場合などが挙げられる。
残念ながら、こういった複雑な金融犯罪に対する理解はあまり進んでおらず、食品犯罪の検出・防止は困難な課題となっている。
新技術の登場 AIで怪しい流通を検知、ブロックチェーンでトレーサビリティ確保
国際的な不正対策教育機関である公認不正検査士協会は、世界中の組織の91%が、増大する金融犯罪リスクに対応するためにデータ分析技術を使用していると報告した。この技術は、大規模なデータセットの中に隠れたパターンを見つけ出し、犯罪の検出率・防止率を向上させられる可能性がある。
例えば、機械学習はデータを分析して疑わしい活動を特定できる。また、新しい情報が利用可能になると学習しなおすこともできる。食品犯罪においては、リスクが高そうな場所、個人、企業などを特定するために活用できるだろう。
このトピックに関する証拠はそう多くなく、今後は過去の食品犯罪の事例を分析するためのさらなる研究が必要だろう。規制当局、食品生産者、流通業者、小売業者の専門知識を持ち寄り、機械学習を用いて再発する分野やパターンを特定できれば、強力な検出モデルを開発できる可能性がある。
食品業界は重要な転換期を迎えており、研究者たちはブロックチェーン技術が消費者の食品購入時の選択をより良いものにできると示唆している。ブロックチェーンは改ざん不可能な安全な公開台帳のようなものだ。この技術は、スーパーマーケットでも消費者個人でも、食品の出所を簡単・正確に特定できる可能性を提供する。店舗で購入する食品がどこから来たのかを正確に知ることができる、と想像してみてほしい。
オーストラリアでは、近年一部の生産者によってブロックチェーン技術が導入されており、数十億ドル規模の食品やワインの偽装問題に対処することが期待されている。最近の研究によると、ブロックチェーンのデータセキュリティとデータの改ざん防止機能は、食品犯罪に対抗できる可能性を示す、重要な機能であることがわかっている。
業界や産官学の垣根を超えた協力が鍵
新技術が食品犯罪と戦う上で期待できる一方で、克服すべき問題も存在する。例えば、グローバル市場での食品のサプライチェーン全体にブロックチェーンを導入するには、国際標準がまだ無いこと、膨大なデータを扱う難しさなどだ。ブロックチェーン技術は追加の技術を必要とする場合もあり、小規模な食品生産者にとっては高価な投資になってしまう可能性もある。
最終的に、食品犯罪に対抗する鍵は協力にある。警察などの法執行機関、業界の専門家、さまざまな規模の組織、そして学者を集め、各機関からの適切な倫理的監視を受けることが必要である。
そしてどのような犯罪対策も、消費者が食品を購入するのを大幅に難しくしてはならない。手続きがあまりにも煩雑になると、人々はそれを回避する方法を探しはじめ、流通に新たな脆弱性を生み出す可能性があるからだ。
元記事へのリンクはこちら。
- エイドリアン・ゲップ(Adrian Gepp)
- バンガー大学 ビジネススクール データ分析学教授
- ミリンド・ティワリ(Milind Tiwari)
- チャールズ・スタート大学 オーストラリア大学院 金融犯罪学講師