販売者向けサイトとしてのAmazon TemuやSheinなど新たな競合にどう立ち向かうか

(※本記事は『THE CONVERSATION』に2025年1月9日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

awsのロゴを掲げたビルの外観
Amazonは、第三者販売者向けのウェブサービスを提供することで、オンライン小売業者である以前に、デジタル分野の主要プレイヤーとなっている。
Tony Webster from Minneapolis, Minnesota, United States, CC BY 2.0 

創業以来、Amazonは飛躍的な成長を遂げてきた。1994年にオンライン書店としてスタートした同社は、現在では世界的なeコマースの巨人へと発展している。しかし、その影響力は小売業にとどまらない。Amazonは、テクノロジーインフラ(Amazon Web Services、AWS)、デジタルエンターテインメント(Prime Video、Twitch、Kindle)、物流、オンライン広告といった幅広い分野で市場を支配している。

Amazonの年間売上は、2004年の約70億ドルから2023年には5,740億ドルへと急成長した。2002年に開始されたAWSは、同社の主要な収益源となり、2023年には900億ドルを生み出した。また、広告事業も急成長し、2023年の売上は510億ドルに達している。

同社の従業員数は150万人を超え、米国においてはWalmartに次ぐ第2位の小売企業としての地位を確立した。米国内の商取引全体の6%、eコマース市場の37.6%をAmazonが占めている。

Amazonの年間収益のグラフ
Amazonの年間収益のグラフ。縦軸は/10億ドル(※画像クリックで拡大)

販売者向けサービスプラットフォームとしての進化

Amazonの成功の鍵は、単なるオンラインストアから多機能プラットフォームへと進化したことにある。当初は第三者販売者向けのマーケットプレイスとして機能していたが、その後、販売者向けのサービスを充実させ、収益の大きな柱へと育て上げた。現在のAmazonは、消費者向けの小売業というよりも、販売者向けの高度なツールを提供するプラットフォームへとシフトしている。従来のプラットフォームモデルは外部リソースに依存することが多いが、Amazonは独自の統合型サービスを構築することで、それを覆した。

初期のマーケットプレイスモデルでは、第三者販売者がAmazon上で商品を販売できる仕組みだった。2004年時点では、これらの販売がAmazonの売上の20%を占めていたが、2024年には60%以上に拡大。そのうち約半数の販売者は中国に拠点を置き、Amazonを活用して国際市場に進出している。

2005年には、Amazonはサブスクリプションサービス「Prime」を導入し、無料配送を武器に顧客の囲い込みを強化した。さらに2007年には、「フルフィルメント by Amazon(FBA)」を開始し、販売者が物流業務をAmazonに委託できるようにした。FBAを利用することで、販売者はPrime会員向けの配送ネットワークを活用できるようになり、売上向上が期待できる。この戦略は奏功し、Prime会員数は2021年時点で全世界2億人(米国では1億4,000万人)に達した。現在では、販売者の94%がAmazonの物流サービスを利用しており、Prime会員基盤の魅力がその背景にある。

AmazonはPrimeのサービスを継続的に拡充し、動画配信、音楽ストリーミング、ゲーム、限定プロモーションなどを追加している。米国では年会費139ドルで提供されており、顧客のロイヤルティを高める戦略の中心となっている。

販売者向けサービスの拡大

Amazonは顧客の囲い込みに成功する一方で、販売者に対する影響力も拡大している。2012年にはプラットフォーム内に広告サービスを導入し、販売者は検索結果の上位に商品を表示させるために広告を購入する仕組みが確立された。この戦略は従来の小売業の広告モデルと類似しているが、Amazonの規模で展開されることで、はるかに強力な影響を及ぼしている。

2024年には、Prime Videoにも広告を導入し、Prime会員向けにデフォルトで広告が表示される仕組みを開始した。これにより、販売者はPrime Video上で商品をプロモーションし、売上データを基に広告効果を測定できるようになった。この統合されたプロモーション環境は、Amazonならではの強みとなっている。

Amazonの広告事業は2023年に496億ドルの売上を記録し、さらにAWSとの連携により収益を拡大している。AWSはAmazonのデータインフラを支えるだけでなく、市場データを活用したターゲティング広告の提供を可能にしている。こうしたクラウドコンピューティング、物流、広告を含むサービス事業の売上は、2023年には合計3,190億ドルに達し、直販事業の売上(2,560億ドル)を上回った

競争の激化と規制の課題

現在のAmazonは、高度に統合された多面的なプラットフォームへと進化し、ネットワーク効果を活用して顧客と販売者の両方を囲い込んでいる。同社の強みは、データを駆使したマーケティングと販売戦略にある。検索履歴、購買データ、メディア消費データを統合し、ブランド向けにシームレスなプロモーションと販売の環境を提供することで、競合他社が容易に模倣できない独自のエコシステムを構築している。この戦略は、従来のメディア企業にとって大きな脅威となる。なぜなら、Amazonは広告プラットフォームとしての機能も持ち、消費者の購買行動と直結した広告を提供できるため、従来のメディアが提供する広告モデルとは一線を画しているからだ。

しかし、この支配力の拡大により、Amazonは規制当局の厳しい監視の対象となっている。2023年以降、米連邦取引委員会(FTC)と17の州が、Amazonの市場独占的なビジネス慣行に対し、反トラスト法(独占禁止法)違反の訴訟を起こしている。主な争点は、Amazonが販売者に対し競争を妨げる契約条件を課し、他のプラットフォームでの価格競争を制限している点にある。

また、Amazonは米国内だけでなく、海外市場においても競争のプレッシャーにさらされている。特に、中国発のeコマースプラットフォームが急速に成長しており、Temu(拼多多)、AliExpress(アリババ)、Shein、TikTok Shopといった企業が低価格戦略と積極的なマーケティングでシェアを拡大している。これらの企業は、Amazonのビジネスモデルを研究し、それを最適化した形で西側市場に進出しており、特に若年層の消費者をターゲットに急速に影響力を広げている。

こうした競争環境の変化を受け、Amazonは2024年11月に「Amazon Haul」を立ち上げた。これは、Temuに類似した低価格商品を提供する新たなプラットフォームであり、中国勢の攻勢に対抗する戦略の一環とみられる。Amazonがこれまで築いてきた強固なエコシステムを維持しつつ、新たな消費トレンドに適応しようとする試みの一つである。

Amazonのビジネスモデルは、小売とメディアを融合させ、従来の業界構造に根本的な変革をもたらしている。この統合型モデルに対する規制の枠組みはまだ確立されておらず、欧州委員会もデジタル市場法(DMA)やデジタルサービス法(DSA)といった既存の法制度が、Amazonのような企業に対して十分な規制力を持つのかどうかを慎重に検討している。しかし、Amazonの影響力が今後さらに拡大するにつれ、各国の規制当局は新たな対策を講じる必要に迫られる可能性が高い。

Amazonは、今後も市場を支配し続けることができるのか、それとも競争と規制の圧力の中でビジネスモデルの変革を余儀なくされるのか。世界の小売・広告市場における同社の動向は、今後ますます注目を集めることになるだろう。

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The Conversation

アンリ・イザック(Henri Isaac)
アンリ・イザック(Henri Isaac)
パリ・ドーフィーヌ大学-PSL 経営学部 准教授

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