Netflixが生成AIを導入開始 視聴者とクリエイターを取り残す危険性も指摘される
※本記事は『THE CONVERSATION』に2025年7月28日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています。

NetflixがSFシリーズ『El Eternauta(英題:The Eternaut)』でビル崩壊のシーンを生成AIで作ったことは、単なる技術的節目にとどまらない。エンタテインメントに「本物らしさ」を感じさせるものは何かという、より根源的な心理の緊張関係を浮かび上がらせているからである。
今回のシークエンスは、ストリーミング大手によるテキストから動画を生成するAI(text-to-video)の、最終映像への公式採用としては初の事例である。Netflixによれば、従来の手法よりも作業は10倍のスピードで完了したという。
しかし、この効率化は人間心理に根ざした別の問いを照らし出す。自分が見ている作品にAIが関わっていると知ったとき、私たちは、それがアルゴリズムの手になるものだという事実に、誤情報にだまされたと気づいたときと同じ種類の「認知的不協和」を感じるのだろうか。
従来のCG(コンピュータグラフィックス/CGI)から生成AIへの移行は、物理的な特撮にコンピュータ・グラフィックスが取って代わって以来、視覚効果(VFX)分野で最も大きな変化である。
従来の物理ベースのVFXでは、膨大なアーティストがメッシュベースの3Dモデルを丁寧に作り込み、各要素の形状、ライティング、アニメーションを数週間単位で磨き上げる。グリーンバック合成を使う場合でも、アーティストが3Dモデルからデジタル要素を一つひとつ構築し、シミュレーションを設計する。動きや変化を示すキーフレームも、人の手で逐一打ち込む必要がある。
これに対し、Netflixの生成AIアプローチは根本から発想が違う。シーンをパーツごとに積み上げるのではなく、アーティストが欲しい内容を言葉で記述すると、アルゴリズムが一連の映像をまとめて生成する。手間と時間のかかる「工芸」を、指示と応答の「創作対話」に変えてしまうわけである。ただし、そこで厳しい問いも生じる。これは技術の新段階を見ているのか。それとも、人間の創造性がアルゴリズムの当て推量に置き換えられているにすぎないのか。
『El Eternauta』のビル崩壊シーンは、その変容を端的に示す。従来ならモデリング、リギング、シミュレーションに数カ月を要したであろう工程が、テキストから動画への生成で短期間に仕上がったのである。
この変化を後押しする経済性は、Netflixの創作上の野心をはるかに超える広がりをもつ。
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