グリーン成長、脱成長、グリーンニューディール 排出量ネットゼロ達成に有望なのは
「グリーンニューディール(GND)」という考え方は、近年世界各国で大きな注目を集めている。
この考え方の一部は、グローバルサウスの国々やEUで取り入れられている。2019年の「欧州グリーンディール」は、「新たな成長戦略」として、資源効率の良い競争力ある経済の構築を目指している。
アメリカではグリーンニューディールが2019年に試みられたが、共和党の反対により最終的には実現せず、その後大きな進展は見られていない。
カナダでは、2016年のリープマニフェストでグリーンニューディールの概念と政策構造が打ち出された。これには再生可能エネルギー、富の分配、先住民の権利、支援的な社会運動の構築が焦点とされている。しかし、マニフェストの野心的な目標は未だ実現しておらず、カナダには正式なグリーンニューディールが存在しない。
カナダが真に公正な温室効果ガスのネットゼロ移行を目指すなら、この状況を変える必要がある。
グリーンニューディールと競合するビジョン・方針
ネットゼロを達成するためのアプローチは大きく分けて3つある。急進的改革主義(グリーンニューディール)、グリーン成長(現在の戦略)、そして「脱成長(Degrowth)」と呼ばれる考え方だ。
グリーン成長(戦略)
(※編集注:日本の経済産業省を中心に2020年に策定された「グリーン成長戦略」では、「従来は環境対策を制約・コストとする考えであった一方、発想を転換し積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長に繋がっていく」概念であると説明されている )
グリーン成長は、いくつかの重要な理由から不十分である。まず、ネットゼロで豊かな世界を実現するためには、成長と二酸化炭素排出を完全に切り離す必要がある。しかし、これは一部の豊かな国を除き、短・中期的には達成が難しい。
第二に、現在の消費水準を維持したまま、化石燃料から再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力など)や原子力へとエネルギーシステムを変換することはできない。これを行おうとすると、生態系の損傷を引き起こす可能性があり、それを考慮に入れなければならない。
厳しい現実として、消費の削減が唯一の現実的な選択肢である。例えば、電気自動車は、車両をより小さくし、数も少なくする必要がある。
グリーン成長は気候・生態学的な課題に対応できていない。地球環境が安定した状態を保てる限界の範囲である9つのプラネタリーバウンダリーのうち人類は既に6つを超えており、2015年のパリ気候協定で提案された1.5℃の温暖化制限に間に合わない。今すぐ決断して行動を起こす必要がある。
脱成長(Degrowth)
脱成長は、一部の人々によって代替案として見られている。脱成長とは、GDPを廃止し、人間のニーズを満たすことを経済目標に置く革命的なアイデアである。
提案されている対策は、現在において排出量を劇的に削減するが、脱成長は政治的・経済的に実現可能ではない。脱成長は資本主義を問題として捉え、それを「ポスト資本主義」や「ポスト成長」へと転換することを求めている。最大の問題は、そこにどうやって到達するかである。
気候工学(Geo Engineering)
(※編集注:気候工学とは、気候変動の影響を緩和するため、気候を人工的に改変する幅広い手法や技術のこと。大きく分けて太陽光を地球外に反射させる「太陽放射管理(SRM)」、大気中のCO2を何らかの方法で取り除く「二酸化炭素除去」(CDR)の2つの手法が挙げられている)
気候工学もまた、地球の問題を解決する潜在的な解決法として時折挙げられる。しかし、たとえ気候工学が計画通りに機能するとしても、多くの気候科学者が「危険なナンセンス」としてこれを否定するなら、それは地球温暖化の解決法ではなく、一時しのぎにすぎない。なぜなら、温室効果ガス排出量は増加し続けているからである。
技術的な解決策だけに依存するのは危険な賭けである。確かに、有望な技術に多大な投資を続ける必要がある。技術的なブレークスルーが起こるかもしれない。しかし、それに頼ってはいけない。
決して起こらないかもしれないブレークスルーに私たちの運命を委ねてはいけない。
グリーンニューディール
カナダにおける急進的なグリーンニューディールの必要性は説得力があり明白である。グリーンニューディールは、グリーン成長よりもポジティブな生態系変化をもたらす可能性があり、脱成長モデルよりも短期的には実現可能である。
グリーン成長が技術官僚によって開発されたことや、脱成長が主に大学の議論から生まれた知的運動であるのとは異なり、グリーンニューディールは通常、活動家や政治ネットワークから生まれる。この生まれ方は2つの理由で重要である。第一に、グリーンニューディールは、所属する選挙区で政治的に実現可能なものについておおよその見当を持つことができる人々によって立案される。
第二に、グリーンニューディールは理解しやすい。グリーン成長や脱成長に批判的に関与するためには、大学院レベルの訓練が必要だが、急進的なグリーンニューディールは一般的な認識に基づいている。
メッセージは明確である。迅速にグリーンエネルギーへの移行を実現しなければならない。この移行は、化石燃料産業に従事する人を含む全ての人々が将来に希望を持たない限り、実現しない。社会的保護の拡大と公共サービスの充実には環境の変化が伴わなければならない。
より良い未来のためには、国内だけでなく、気候変動の悪影響を不当に受けているグローバルサウスにおける公平性が必要である。そして、おそらく最も困難なことは、より豊かな国でエネルギーと材料の消費を減少させることである。
このグリーンニューディールは、1930年代にアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領が進めた「ニューディール」政策と同様の規模での急進的な変化をもたらす可能性がある。ニューディールはアメリカを大恐慌から救ったが、グリーンニューディールは私たち全員を生態学的崩壊から救う第一歩となるだろう。
立ちはだかる障害
この大規模なプログラムを達成するための政治的・世論的な障害は大きい。各国の政治的分断がこの課題をさらに困難にしている。多くの保守的運動において気候変動の否定が依然として強い中、気候変動を防ぐための行動は多くの人々にとって文化対立の問題となってしまっている。これは、最近のウィスコンシン州ミルウォーキーでの共和党全国大会で目の当たりにされた。
それでも、2つのポイントは強調する価値がある。主流のグリーン成長アプローチは私たちを救うことはできない。そして、脱成長のビジョンは魅力的ではあるが、資本主義を覆すという非現実的なものを伴う。急進的改革主義のグリーンニューディールは、気候的緊急事態に対してグリーン成長よりも実行可能なアプローチであり、脱成長よりも政治的に実現可能性がある。
私たちが望むかどうかにかかわらず、何か急進的なことを行う必要がある。もし(気候変動に関する科学がすでに確立されていた)1980年代に採用されていれば、炭素税のような穏健的な政策措置で十分であったかもしれない。しかし、今や地球温暖化を逆転させるためには、より大規模な行動が必要である。グリーンニューディールは、私たち全員を救うために必要な急進的な行動のひとつとなる可能性がある。
簡単な解決策は存在しないのだ。
元記事へのリンクはこちら。
- リチャード・サンドブルック(Richard Sandbrook)
- トロント大学 政治学 名誉教授