カシオがデジタルを活用した「自然体験」 携帯電話事業の技術生かす
(※本記事は東京都が運営するオンラインマガジン「TOKYO UPDATES」に2024年8月23日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
東京都水道局とネーミングライツの協定を結び、「CASIOの森」で保全活動に取り組んでいるカシオ計算機株式会社(以下カシオ)は、独自に運営するウェブサイトで自然体験の魅力や楽しさを発信。さらに、公益財団法人東京都公園協会の公式アプリ開発も担っている。
そうした取組の経緯や狙いについて、羽村技術センター開発本部事業イノベーションセンターSW技術開発部の谷治良高(やじよしたか)部長に話を聞いた。
子どもたちの未来のために
カシオが運営するウェブサイト「WILD MIND GO! GO!」のコンセプトは、子どもから大人まで楽しめる、生き物としての力を取り戻す自然体験。立ち上げた経緯を谷治氏はこう語る。
「きっかけの一つは、私自身も関わっていた携帯電話事業からカシオが撤退したこと。お客さまのニーズに沿って作っていればよかった時代は終わり、世の中に必要なものは何かを自分たちで考え、生み出さねばならない時代に変化していました。社会に必要なものを見極める想像力と、チャレンジする力が必要だと痛感したのです」
ちょうどその頃、3人目の子どもが生まれた。子どもたちの未来を考えたとき、自然との共生が必要なのではないかと強く感じるようになり、そのためには自然体験が最適ではないかとの思いに至った。
「カシオでは以前、携帯電話G'zOneに方位磁針や高度計などを搭載したデジタルで自然を感じるアプリを作っていましたが、携帯電話事業の撤退と共に終了。そこでやり残したことが活用できるのではと考えました」
そのアプリのコンセプトは「Feel the earth」。まさに自然との共生、自然体験に生かせる考え方や技術だった。
子どもから大人まで楽しめる仕掛け
実際にウェブサイトを立ち上げるまでには、羽村市や東大和市などの自治体関係者、有識者、大学生に集まってもらい、未来のためにどういった自然体験が必要なのかを議論し、ワークショップを重ねていった。
「たくさんのアイデアが出ましたが、料理というキーワードがヒントになりました。いまは多様性の時代ですし、自然体験といっても面白がり方や楽しみ方は人それぞれ。料理も同じで、人によって好みも量も違うわけです。それならば料理レシピサイトのように、いろいろな自然体験の方法を提案するサイトにすればいいのではないか、そんな発想にたどり着いたのです」
完成したサイトには、海、川、大地、天体など13のテーマごとにさまざまな体験を分類。例えば、海なら「漕ぐ、泳ぐ、潜る。SUP(サップ)をベースにして日本の海を遊び尽くす」と題し、SUPというボードに立って海上散歩を楽しむ方法や魅力などを紹介している。
また、生き物というテーマでは、虫や雑草と畑をシェアする「虫草農法」というやり方で、農薬を使わない野菜づくりを提案。いずれのテーマでも実際に体験した人がレポートを投稿でき、サイト訪問者すべてに共有できる。自分も体験でき、人の体験を知ることでまた新たな気づきも得られる。子どもから大人までそれぞれの好みで楽しめる仕掛けになっているのだ。
虫眼鏡と同じような感覚で
さらにカシオは、東京都公園協会に「TOKYO PARKS PLAY」というアプリを提供している。
「東京学芸大学の小森伸一教授と自然体験やデジタルについて研究し、ウェブで読んでいただくだけではなく、自然体験により親しみやすい入り口のようなものを作れないかと考えたのがきっかけでした。例えば、子どもに虫眼鏡を持たせると、何にでも興味を示していろいろなものをのぞくじゃないですか。同じような仕掛けをアプリでも作ってあげると、もっと身近な自然に興味を持ち楽しめるのでは、と思ったのです。これを小森教授はルーペ効果と呼んでいます」
このアプリは、公園というリアルなフィールドをデジタルでも楽しめるようにと、東京都公園協会が管理する都立公園の各施設やイベント情報、クーポン、デジタルクイズやデジタルガイド、デジタルスタンプラリーの他、デジタル謎解き、デジタル遊具といった公園を楽しむための機能が満載だ。
「自然や公園をガイドすることはもちろん、色、形、香りで自然を感じたり、身体動作で方位や広さを体感してみたりと、物語や謎解きで違う世界を楽しんだりすることができます」
自然との距離感を縮めるために
こうしたウェブサイトやアプリを活用してもらうことで、谷治氏が期待している未来の姿がある。
「WILD MIND GO! GO!は、週末に出かける公園や、家の近所を流れる川や空き地、路地、家の庭先、さらには家の中でさえ自然体験はできるものと再定義します。だからこそ、緑や自然の魅力が本当は身近にあるのだと再認識してもらえればうれしいですね。その中で大人には大人の、子どもには子どもなりの楽しみ方を発見していただく。そうした自然体験の積み重ねにより、多くの人がいま地球で起きていることを自分ごととして感じ、少しでも行動を変えてくれれば」
自然との距離感をもっと縮めたい。それこそが谷治氏の願いだ。
取材・文/吉田修平
画像類提供/カシオ計算機株式会社
元記事へのリンクはこちら
- TOKYO UPDATES