“未来最適化企業”への継承──デバイスが描く建築×環境×技術の進化図

株式会社デバイス 代表取締役 高田恭良氏
株式会社デバイス 代表取締役 高田恭良氏

二代目社長が導く、建築美と環境技術の融合戦略

茨城県水戸市に本社を構える株式会社デバイスは、建材・ガラス加工の専門会社として40年の歴史を重ねてきた。同社のルーツは、現会長の曾祖父が手がけた金物問屋にまで遡る。創業者である高田会長が独立し、外装工事及び関連製品開発会社としてスタート。徐々に建材の設計・施工・開発へと業容を拡大し、やがて建築家と共に空間をつくる「建築ソリューション事業」へと進化した。

同社の強みは、曲面や特殊形状ガラスを含む一点モノの建材製造・施工に応じる技術力にある。妹島和世と西沢立衛による建築家ユニットSANAAなど、国内有数の建築家と長年協働してきた背景には、構想段階から設計に寄り添う開発体制がある。今や建築家から直接構造相談が寄せられる企業として、その名を知られている。

世代交代で変化した視点──“継げなかったもの”をどう継承するか

2024年1月、代表取締役に就任した高田恭良氏は、先代社長の実子であり、自らも設計・施工の現場を経験してきた“現場肌”の経営者だ。副社長就任後は全社統括にも従事し、建築ソリューション部門だけでなく、新たな柱「グリーンフロア事業」を担ってきた。

就任当初から高田氏が意識したのは、“会長(先代)のようにはなれない”ことだったという。

「建築ソリューションや製品開発の分野では、先代が発想力と決断力で牽引してきました。ただ私はそのようなタイプではない。引き継げないものをどう継承するか。だからこそ、これまで暗黙知だった技術やノウハウを体系化し、若手や外部にまで伝えていく仕組みが必要だと考えました」

理念として掲げられてきた「未来最適化企業」というビジョン──その意味も、現社長は自らの言葉に置き換えることで再解釈している。「今この瞬間の行動が、未来の最適解につながっていく」という考え方は、気候変動や人材課題と向き合う中でますますリアルなものになっている。

CO₂排出量80%削減──ダブルスキンの環境技術を自社実証から普及へ 

デバイスの次なる成長ドライバーとして注目されているのが、グリーンフロア事業である。ガラス建材のノウハウを生かし、脱炭素建築に貢献する取り組みとして、自社ビルにダブルスキン構法を導入し、CO₂排出量を最大94%削減する効果を実証。この経験とノウハウを活かして開発した次世代内窓製品「トロポス」の展開を開始し、企業や大学施設への導入も広がっている。

もともと省エネ基準に対する危機意識からスタートしたこの事業は、2006年に茨城大学との共同研究を経て自社ビルに導入されたことから加速した。

「単なるガラス張りではなく、既存建物の外側に新たなガラスパネルを設けて外皮を二重化するダブルスキン技術は、弊社が自社ビルで実証した取り組みです。夏季は日射熱をキャビティ内に閉じ込め、屋外に排熱することで室内への熱侵入を抑制し、冬季は蓄熱効果で暖房負荷を軽減します。空調設備の消費電力を年間で50〜70%削減する大幅な省エネ効果がありました。

この実証を踏まえて、より汎用的かつ導入しやすい形で開発したのが、次世代内窓製品『トロポス』です。トヨタ自動車様との共同検証も実施しており、オフィスやショールーム、大学キャンパスなど多様な建築での採用が進んでいます」

GXリーグ(2024年4月時点で日本のCO₂排出量の5割超を占める企業群が参画する成長志向型カーボンプライシング構想)の排出削減目標や脱炭素関連補助金との連携など、国の脱炭素政策とも親和性が高く、今後の市場拡大も見込まれる分野だ。

自社開発製品が拓く新市場──“内窓に見えない内窓”の開発思想

グリーンフロア事業の中核となる製品が、超極細フレームで設計された内窓「トロポス」だ。従来の内窓製品とは異なり、意匠性と施工性を両立。建築デザインに溶け込みながらも、断熱効果・遮熱効果を高めることに成功している。

当初は、その開発経緯から「インナーガラスユニット」と呼ばれていたが、マーケティング上の伝わりやすさを重視し、「次世代の内窓」として訴求を再設計。社内の広報担当とともにブランディングを進めている。

現在では、野村不動産や豊田工業大学などの施設で採用が進んでおり、「窓際空調機更新時の代替策」として注目されている。

組織を“伝える組織”へ──技術の形式知化と教育体制

高田氏が経営者として注力しているのは、技術やプロセスの「見える化」だ。
「ベテラン社員の頭の中にしかなかった設計・営業・施工の判断基準を、若手にどう伝えるか。私自身が苦労してきた分、それを体系化することが重要だと考えています」

現在は、新入社員への教育マニュアル整備や営業・設計プロセスの標準化に着手している。また、大学と連携した実験データの活用も進めており、製品性能の検証や技術的な裏付け強化につなげている。

社員数は12名。中途採用で若手の営業・施工人材を確保しており、今後も毎年1〜2名の採用を継続する計画だ。

「人を育てるというのは、技術を次代につなげること。いまの社員が“教えること”を通して成長できるよう、時間と仕組みをつくっていきたい」

“環境価値を届ける建材企業”として、脱炭素社会に貢献する

高田社長が掲げる次なる目標は、「窓から始まる環境設計の総合提案」だ。ガラスや建材にとどまらず、空調設備やその運用までを含めたトータルな視点で、快適かつ省エネな窓際の空間づくりを目指している。

「窓際の暑さ寒さは、オフィスワーカーの快適性に直結します。働きやすい環境を整えることは、企業にとっても重要な経営戦略になりつつある。だからこそ、建築の一部としての“ガラス”から、快適性・省エネ・意匠性まで提案できる企業でありたいのです」

気候変動の影響が年々深刻さを増す中、デバイスが掲げる「未来最適化企業」というビジョンは、単なるスローガンではない。茨城発の技術で、自らの子ども世代、その先の社会に向けて建築を通じて未来を最適化する──そんな意思と技術が、全国に広がろうとしている。