アバターで人類を進化させる AVITAが挑む”制約”の解放と社会実装
「アバターで人類を進化させる」。このビジョンのもと、アバターテクノロジーを活用し、地理的のみならず、障がいや年齢、性別といった様々な”制約”を解放し、誰もが社会とつながり、働ける世界の実現を目指すAVITA株式会社。同社が追求するのは、ロボットやAIによる人間の代替ではなく、テクノロジーによって人間の可能性を引き出す"エンパワーメント"だ。ロボット研究の第一人者である石黒浩氏と社会実装の現場をリードする西口昇吾氏が手を携え、アカデミアの研究成果を社会実装へと導く挑戦が続いている。同社COOの西口氏に、AVITA株式会社の事業構想と取り組みについて話を聞いた。

アバター技術の社会実装への挑戦
── AVITAはどのような背景で設立されたのでしょうか
AVITAは2021年6月に設立されました。代表を務めるのは、大阪大学の石黒浩教授です。石黒教授は、マツコ・デラックスさんのロボット開発や、大阪・関西万博におけるシグネチャーパビリオンのプロデューサーなどでも知られる、ロボット研究 の第一人者です。
石黒教授は25年以上にわたり「人と関わるロボット」の研究に取り組んできました。しかし、アカデミアだけでは社会実装に限界があり、研究成果を真に社会に届けるためには、ビジネスのアプローチが不可欠だという思いを強くしていました。
私自身は、もともと石黒研究室の学生で、その後日本テレビで2018年にVTuber事業を創業し、共同代表を務めていました。VTuberの世界では、居住地や身体的な条件に関わらず、アバターを通じて夢を実現していく人たちを数多く目にしてきました。しかし、エンターテインメント分野以外にアバター技術が広がるにイメージが湧きませんでした。
アバターというテクノロジーは同じでも、非エンタメ領域において展開していくには、全く異なるコンテキストのビジネスを立ち上げる必要がある。そうした考えのもと、AVITAは立ち上がりました。
立ち上げに参加したもう1名は、USBメモリの発明にも関わった世界的なビジネスコンサルタント・濱口秀司さんです。この3人でAVITA株式会社を創業しました。

人間のリプレイスではなく、エンパワーメントを
── 石黒教授との共通理念はどのようなものでしたか
石黒教授はアンドロイド等の の研究、私はCGアバターの領域に長年携わってきましたが、突き詰めると、私たち2人が共通して関心を抱いているのは「人間」そのものです。アバターで人間を置き換えて、居場所を奪っていくような世界観ではなく、テクノロジーを用いて人間をどこまで“エンパワーメント”できるか。人類の可能性をどう拡張し、進化させられるかという点に、共通のビジョンがありました。
アバター技術を活用すれば、年齢・性別・国籍・身体的条件といった、“生身の制約”から人類を解き放ち、より多様な人々が社会に参加できる未来が実現できます。たとえば、障がいのある方でも当たり前に働ける。高齢者も体力に左右されずに活動できる。こうした未来像は、単なるリモートワークの延長線 ではありません。AIなどの技術と組み合わせることで、新しい雇用や職業そのものを生み出し、先進国の人手不足や、発展途上国の失業といった世界的な課題解決にもつながる、社会的意義があることだと考えました。
バリューベースでの事業構築
── 具体的な事業はどのように構築されたのでしょうか。
AVITAの事業は、「人ができないことでも、アバターならできるのでは?」というバリューベースの視点から組み立てました。たとえば、他人には打ち明けにくい相談も、アバターが相手であれば心理的ハードルが下がることがあります。保険相談のように、センシティブな情報を扱う分野では、特に親和性が高いと考えました。参入分野を検討する際にも、最初から業界や領域を細かく定めるのではなく、「どこに人間の制約が存在し、そこにテクノロジーでどう価値を提供できるか」という観点でアプローチしました。たとえば、「保険業界」といっても、損害保険なのか生命保険なのか、また、保険会社なのか代理店かといった細部までは初期段階では決めず、あくまで社会的な価値創出を起点に事業を構想しました。
ビジョンの共有とアジャイル型提案
――顧客を巻き込んでいく際に注力したことは?
顧客を巻き込むうえで重視したのは、「ビジョンをしっかりと伝えること」でした。私たちが何を成し遂げたいのか、その未来像を明確に示し、共感を得ることが第一歩となります。その未来が訪れたとき、各業界や企業がどのような姿になっているのかを描き、単なる予測ではなく、「私たちはこういう未来をつくりたい」というメッセージを共有するよう努めました。
さらに、私たちはプロダクトを完成させてから営業を始めるのではなく、「プロダクトの前に営業」を実践しました。つまり、「こういうものを開発中ですが、導入をご検討いただけませんか?」と企業に持ちかけ、共感してくださる企業と共にブラッシュアップを進めるアプローチです。打ち合わせの場でリアルタイムにプロトタイプを作成し、その場でフィードバックを受けるようなアジャイル型の提案スタイルを取り入れました。
AIと人間のハイブリッドモデルで世界市場をリード
── グローバル展開での手応えはいかがですか。
大阪・関西万博を契機に、AVITAのアバターが複数の会場で導入されることが決まり、世界中からの問い合わせが急増しています。私もほぼ毎月のように海外出張に出かけており、グローバルな展開が本格化しています。
現在、完全AIによるアバターも各国で展開されていますが、社会実装の面では依然として課題が多い状況です。その背景には、AIの精度が100%ではないですし、ミスをした時にどうするのかという設計ができていないことが挙げられます。そもそも人間でもミスをするという議論はあるのですが、でもやっぱりAIのミスは受け入れられ辛いです。「人間の代替には到底及ばない」という現実があります。だからこそ、AVITAではAIと人間の“ハイブリッドオペレーション” を重視しています。このモデルを実際に展開している国は、世界でも日本を含めて数カ国に限られています。中でも、日本は導入事例・実装スピードともに世界トップクラス。今まさに、日本発のイノベーションが世界に広がっていくチャンスが訪れています。
さらに、私たちは日本企業として初めて、アラブ首長国連邦(UAE)の経済省による中東進出支援プログラムにも採択されました。このプログラムは全世界で90社程度のみが対象となっており、日本からは我々が初めてです。韓国では無人店舗への導入も進んでいます。
また、南米やアフリカといった地域では、人口ピラミッドが若年層に偏り、失業率の高さが社会問題となっています。こうした地域の若者が 時差を利用して、彼らが昼間の間、日本の深夜業務を担うといった、クロスボーダーな雇用創出にもすでに取り組んでいます。
テクノロジーの扱い方にも、国ごとに思想の違いがあります。海外ではテクノロジーそのものに関心が集まる傾向がありますが、日本ではそのテクノロジーによって人間がどう豊かになるのかという哲学的な視点が根強く存在します。例えば「ドラえもん」は、未来的な道具の面白さだけでなく、のび太との人間関係のなかで描かれる成長や絆が、物語の本質を成しています。私たちのアプローチもまた、その“人間中心の思想”に基づいたものだと考えています。
持続可能な地方創生への貢献
── 地域活性化ではどのような取り組みをされていますか。
多くのスタートアップは技術の提供にとどまります。しかし、私たちはビジネスの創出から雇用の創出まで一貫して手がけることにこだわっています。これが、社会実装における決定的な違いだと考えています。
たとえば三重県明和町では、「めいわアバターセンター」という拠点を設立しました。そこでは地元の方々が、アバターを使って遠隔で接客業務をおこなったり、AIのコンテンツ制作に従事したりしています。そして、東京の都心水準の給与で働くことができる仕組みを整えています。
また、淡路島では、パソナグループと連携し、同様のアバターセンターを展開。すでに多数の雇用が生まれています。こうした取り組みでは、単にテクノロジーを提供するだけではなく、「地域に継続的な収益と雇用が生まれる仕組み」を構築することが重要です。
地域活性に取り組むうえで私たちが大切にしているマインドは、自治体の予算だけに依存しない、持続可能なプロジェクトにすること。補助金が切れた後も自走できる仕組みでなければ、真の意味での社会実装とは言えません。
権限委譲と地続きの拡大による組織体制の構築
── 急速な成長の中で組織運営はどのように進めていますか。
AVITAは今後、さらなるグローバル展開と新しいプロダクト開発を予定しています。それに伴い、組織と事業の両輪を拡大していく必要がある中で、意識して進めているのが「権限委譲」です。スピード感を持って成長を続けるためには、私ひとりが判断するのではなく、メンバーにある程度の裁量を任せることが不可欠です。もちろん、大きなリスクがある場合には最終判断と責任を私が担いますが、多少の失敗はリカバリーできるという前提で、現場主導の意思決定を後押ししています。結果として、事業拡大と組織成長を同時に進めながらも、スピーディな動きが保てているのだと思います。
地続き型による新規事業
── 今後挑戦したい分野について教えてください。
私たちは今、よりフィジカルな世界へと踏み込む「ロボットアバター」の開発に力を入れています。ただし、新たな分野へ一気に飛び込むのではなく、既存のサービスや導入実績をベースに、“地続き”で拡張していく戦略を取っています。
たとえば、これまで受付に設置されていたアバターに車輪を付けて移動できるようにすることで、来訪者の案内や簡単な配送が可能になります。病院であれば、受付から病室までの案内、必要な物品の搬送など、業務支援の幅が広がります。すでにアバターを活用している領域での延長線上に、新たな用途や価値を見出す。このアプローチなら、顧客の導入ハードルも下がり、現場との相互理解を深めながら進化していくことができます。今後は、小売業や医療機関、ホテルなど、さまざまな分野での活用を視野に入れ、実用フェーズに向けた展開を進めていく予定です。

- 西口 昇吾(にしぐち・しょうご)氏
- AVITA株式会社 取締役副社長 COO
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