レアアース・ショックから15年 双日が語る「あのとき」と安定供給を目指す多角化戦略の今
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年10月30日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に不可欠なレアアース。レアメタルのうちの17元素の総称で、導電性の高さや強磁性といった特性があり、電気自動車のモーターや風力発電機、スマートフォンなど幅広い用途で使われている。そんな重要鉱物の供給網が混乱した、2010年のレアアース・ショックから今年で15年。あのとき、何が起きていたのか。その後、政府や企業は安定供給確保にどう取り組んできたのか。レアアースの安定供給に当事者として携わってきた大手商社・双日(本社:東京)の担当者の振り返りも交えて、今後の政策の方向性を考える。
ショックは「 想定より早く、急激に起きた」
「レアアースの需要が高まる中、中国による輸出管理の強化はいずれ起こるだろうと思われていた。ただ、現実には我々が想定していたよりも早く、急激に起きた――」。双日のレアアース事業の担当者は、2010年のレアアース・ショックをこう振り返る。
2010年9月下旬、中国のレアアース輸出が停滞していることが判明した。「税関手続きの厳格化」が理由とされたが、直前の9月7日には、尖閣諸島沖の日本の領海で、中国漁船による海上保安庁の巡視船への衝突事件が起きていた。また、中国商務部はこの年の7月に、下期のレアアース輸出枠を前年同期比約72%削減すると公表していた。日本政府はあらゆるチャネルを使って中国側と協議を行い、輸出停滞については2か月ほどで解消されたが、日本の産業界がレアアースの確保に奔走したほか、市場価格が高騰するなどの混乱が見られた。
サプライチェーン多角化の重要性
中国はレアアース産業の振興に1960年代から国家戦略として取り組んでおり、レアアース生産量のシェアは、2000年代に90%以上を占めるようになっていた。国際的な市場で、ある国が独占的な地位を獲得すると、一般的に供給量の決定権集中を通じてその国の価格支配力が強まるうえ、安定供給の面でも問題が起きるとされる。双日の社内では2010年当時、サプライチェーンの多角化を進める重要性が既に議論されていたといい、レアアースを使用する産業界からもその実現を求める機運が高まりつつあった。そんな中でレアアース・ショックは起きた。
双日とJOGMECが共同し豪州で権益確保
代替供給源の候補を検討していた双日は2010年11月、オーストラリア・西オーストラリア州のマウント・ウェルド鉱山でレアアース資源の開発を行うライナス社と戦略的提携で基本合意を締結。2011年3月には、当時の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(現・エネルギー・金属鉱物資源機構=JOGMEC)と共同でライナス社に2億5000万米ドル(約200億円)の出融資を決定し、当時の日本の消費量の約3割に相当する年間最大9000トンのレアアース製品を同社が10年間にわたって供給する契約を結んだ。
双日はライナス社のレアアース製品の日本における独占販売と総代理店契約も結び、レアアースの品種と品質、安定供給確保につながったという。JOGMECは、一連の事業スキームを評価し、双日からの資金支援要請に応じた。
ライナス社との契約に至った背景について、双日の担当者は、「サプライチェーン多角化の実現可能性をベトナムやアメリカの新規鉱山開発案件でも検討していたが、マウント・ウェルド鉱山での開発が具体的に進んでいたライナス社の潜在能力の高さが決め手になった」と話す。また、レアアース・ショックからわずか半年で契約締結に至ったことについては、「事業化で想定される様々なハードルを、経済産業省やJOGMECに相談したり、支援を受けたりすることで乗り越えることができた」と振り返った。双日自身、前身となる日商岩井が1960年頃からレアアースを扱ってきた歴史から、日本の産業界に貢献したいという強い思いもあった。
輸入に占める中国の割合の低減実現
ライナス社とのこの契約は、当初の契約期間が過ぎた2025年時点でも有効といい、双日によると、例えば、主に磁石に使われるネオジムでは、日本における使用量の6~7割をライナス社から確保できているという。また、経済産業省によると、レアアース・ショックを機に、ライナス社への出融資で資源開発上流への参画が行われたほか、研磨剤や磁石に使われるレアアースの使用量を減らす研究開発なども実施された。これらの取り組みで、レアアース全体で日本の輸入に占める中国の割合を、2009年の85%から2020年には58%まで減らすことができたという。
重希土類では日本初の権益も
双日とJOGMECは2023年3月、ライナス社に2億豪ドル(約180億円)の追加出資を決定。マウント・ウェルド鉱山由来のレアアースの中でも原子量が大きい「重希土類」に分類されるジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約を、ライナス社と結んだ。日本が重希土類の権益を確保するのはこれが初めてで、「最終的には国内総需要の3割程度の供給量を見込む」(双日)という。ライナス社との2010年の基本合意以来築いてきた信頼関係や取引実績、技術支援などが実を結んだ形だ。
これらのレアアースは、磁石の耐熱性を高める特性があり、内部温度が100℃を超えるようなモーターの磁石に必要とされ、これまでは中国でのみ、生産されていた。ライナス社は追加出資で得た資金で重希土類の生産を進めているほか 、既に供給している軽希土類の生産能力の増強も図る。
また、LPガス事業などを手がける岩谷産業(本社:大阪市)とJOGMECの2025年3月の発表によると、両者は日本国内に設立した特定目的会社を通じ、フランスで重希土類の精錬事業を行うカレマグ社に最大で1億1000万ユーロを出融資することを決定。カレマグ社が生産する重希土類の50%を、日本向けに長期供給する契約を締結した。岩谷産業は1990年代からレアアースを輸入、国内市場に販売しており、今回の契約はレアアースの供給力強化につながるという。
サプライチェーンの不確実性に引き続き備える
レアアースは複数の元素が同一の鉱石に含まれ、分離に技術を要することもあり、経済的に採取可能な国や生産拠点が偏在している。日本のレアアース輸入に占める中国の割合は、レアアース・ショックの頃に比べれば減少したが、中国が輸出管理や関連技術の輸出禁止を強める傾向は続いており、経産省はサプライチェーンの不確実性は依然として高いとみる。
経産省は、レアアースを含む重要鉱物の安定供給確保に向け、「国家備蓄」「原料確保に向けたリサイクルや国内製錬の維持強化・国の主体的な取組を含む上流の開発等による供給源の多角化」について取り組みを強化するとしている。
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