AIと人間の摩擦をなくし、架け橋となる ー Michikusa株式会社が描く「余白」の構想

生成AIの急速な普及が進む一方、現場への定着は依然として遅れている。そうした社会課題に挑むのが、2023年10月に設立されたMichikusa株式会社だ。「AIのことなら何でも相談できる会社」を掲げ、企業・教育機関向けのAI研修と組織変革支援を手がける。同社代表取締役・デジタルハリウッド大学 特任准教授の臼井拓水氏はSNS総フォロワー50万人超を誇る、AI情報発信者における第一人者でもある。創業の経緯から社会へのビジョンまで聞いた。

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Michikusa 株式会社 代表取締役・デジタルハリウッド大学 特任准教授 臼井拓水 氏

「道草」の先にあった確信

「AIのことなら何でも」の原点

「スパッと登る山を決められる人の方が、世の中には少ない」と語るのは、Michikusa株式会社 代表取締役・デジタルハリウッド大学 特任准教授 臼井拓水氏だ。社名「Michikusa(道草)」には、人は明確な目標がなくとも、様々な経験を積み重ねる中で「本当にやりたいこと」に辿り着けるという信念が込められている。同社は、「AIの力で時間を作り、人生にミチクサを。」をミッションとして掲げているが、AIによる時間創出こそが、現代人に「道草を食う余白」を与え、社会貢献に繋がると考えた。

臼井氏は起業前、国際基督教大学(ICU)在学中に、AI特化のスタートアップや大企業でインターンを掛け持ちした後、アマゾンジャパン合同会社へ就職、入社初年で優秀な営業成績を残した。しかし、そんな華々しい経歴とは裏腹に、幼少期には何度もプログラミングに挑戦しては挫折を繰り返したこともあったという。2023年10月にひとりでMichikusa株式会社を設立した際には、その頃の経験が生かされていた。

「コードが書けるようになったときに感じた感動を、AIが瞬時に再現してくれました。一瞬で"これだ"と気づいた瞬間でした」と当時を振り返る。幼少期の苦手意識があったからこそ、AIの革新性を誰よりも鮮烈に実感できたという。コーディングや営業、インターンといった学生時代の多様な経験が、AIとの出会いで一気に結びついたのだ。

「ツールを渡して終わり」からの脱却

AIを活用した次なる組織改革への展望

2023年の創業後、2期目で法人100社、個人3万人にAI研修の実施を行った同社が提供するAI支援の核心は、「研修を作って終わり」にしない点にある。「他社さんはe-ラーニングを外部委託して作るケースが多いです。しかし、それでは内容はすぐ古くなり、現場のニーズと乖離してしまうケースもあります。最前線のキャッチアップと顧客理解が重要」と臼井氏は指摘。

同社の研修では、クライアント企業の事業内容と業務フローを事前にヒアリングし、実際の業務に即したカスタマイズ事例を構築したうえで提供する。こうして、受講翌日から即座に活用できることが最大の強みだ。

企業からの相談は大きく2種類あるという。一つは「生成AIを導入したが社員が使っていない」という具体的な活用支援、もう一つは「会社全体をAIネイティブな組織にしたい」というマインドセット変革だ。「最近は、単なる業務効率化ではなく、組織のOSを根本から変えたいというご依頼が増えています」と臼井氏は語る。

こうした背景から、研修事業の枠を超え、クライアント企業の経営レベルにまで踏み込んだ組織変革支援も視野に入れているという。AI活用には、ワークフローへの組み込みと活用人材が不可欠だが、業務改善の手前にある「制度設計」や「意思決定の仕組み」から変えていく提案ができる会社を目指す。

日本での課題解決がAI利活用に繋がる

ロボティクスと介護領域の可能性

臼井氏はSNS総フォロワー50万人超を誇る、日本有数のAI活用に関する情報発信者でもある。過去には南米パラグアイ向けにSNS発信を行い、一定の知名度を得た、というユニークな経歴と発信力を事業の背景に持ちながら、自らのポジションを「AIとの架け橋」と表現する。似た用語として、最先端の科学技術を社会一般に分かりやすく伝える職能の「サイエンスコミュニケーター」が欧米では一般化しているが、臼井氏はAIの文脈でそれを体現している。「どれだけAIが凄くても、現場に落とし込めなければ意味がありません。技術と社会の間の摩擦をなくし続けることが、今の自分の役割です」と語る。

そんな臼井氏に、日本のAI開発・活用について質問を投げると「基盤モデルの開発競争では、米中に正面から対抗するのは容易ではありません。日本が勝負すべきは、日本固有の課題領域です」という答えが返ってきた。特に期待を寄せるのがロボティクスと介護領域だという。「日本は少子高齢化という固有の課題を抱えています。その現場でAIとロボットを組み合わせる余地は非常に大きいです」と語る。基盤モデルの開発では米中に大きく後れを取る日本だが、それを「使いこなす側」に徹することで独自の強みを発揮できるという考え方だ。

一方、国内のAI規制についてはポジティブな見解を示す。「Web3の時には規制が多く、産業が育たなかった、という反省がありますが、現状、AIには過度な規制がかかっていません。これはいいことだと思っています」と評価する。規制が少ない領域では、トップランナーとその他の差が広がる傾向にあるが、ギャップを埋め、摩擦を無くすのが臼井氏のSNS発信の一つのテーマである。

『Can』『Must』の先の『Will』

余白を生み出した先に、技術の最前線へ

AIに関する情報発信を行い、知名度と影響力を得た臼井氏だが、ビジネス界における自らのポジションについては、冷静に分析している。「スタートアップとしてグローバルに展開したり、エクイティを調達して一気に拡大したりすることは、得意領域ではないことは、自分が一番理解しています」と率直に語る。「しかし、全てのことを一定レベル以上出来るのが私の強みでもあると思っています」と語る臼井氏。自らの『Can(できること)』と『Must(やるべきこと)』を着実に広げながら、今の自分が世の中に対して最大の価値を発揮できる場所を見定め、アクションをすることが大事だと考えているという。

「世の中に対して編集権限を持ちたい」という言葉の通り、実際に人・モノ・金を動かせる力を持つこと、その力を少しずつ広げることが、日々の原動力なのだ。

そうした前提の上で、自身の『Will(したいこと)』についても言及し、「いつかのタイミングで、技術を開発する側、いわば最前線に踏み込んでいきたい」と語る。「今の『道草』は、そのための準備期間だと思っています」。AIを通じて、道草を食う余白を生み出し、技術の最前線を見据える。臼井氏の言葉は冷静だが、確かな視線がそこにあった。

 

臼井 拓水(うすい・たくみ)氏
Michikusa 株式会社 代表取締役・デジタルハリウッド大学 特任准教授