3Dアバター使用のヘルスケアアプリで健康増進と働き方改革に貢献

キャッシュレス決済サービス事業を展開するジィ・シィ企画は、健康経営を推進する企業向けに、3Dアバターを使用した初のヘルスケアアプリ「NUCADOCO(ぬかどこ)」をリリースした。開発を手掛けた村本充氏に、開発の経緯やSDGs新事業プロジェクト研究での学び、今後の事業構想について聞いた。

村本 充 株式会社ジィ・シィ企画 パーパスブランディング室室長、SDGs新事業プロジェクト研究(東京・第6期)修了生

パーパス経営の一環として
ヘルスケア業界に新規参入

約20年にわたり、キャッシュレス決済システムを開発してきたジィ・シィ企画。「社会にとってなくてはならない会社」を経営理念に掲げる同社は、社会課題を解決するための新規事業として、2020年からアバターを利用したサービスの研究開発に着手した。そして2022年1月、健康経営を実践する企業向けに、ヘルスケア業界では初となる3Dアバターを利用したアプリ「NUCADOCO(ぬかどこ)」をリリース。同社パーパスブランディング室室長の村本充氏は、サービス開発の経緯を次のように話す。

アバターを利用した健康経営サポートサービス「NUCADOCO」。自身の体型を可視化したり、
理想体型を3Dアバター越しに見せることで、健康意識の変容を促す

「NUCADOCOの開発は、当社の代表から『パーパス経営を推進する中で、本業を意識せず、社会課題を解決する新規事業を開発してほしい』と言われたことがきっかけで始まりました。そこから部署内で様々な議論を重ねたところ、『お客さまの事業を持続可能にするサービスを提供する』というテーマに辿り着き、そのためには従業員の健康づくりのサポートが必要だと考えたのです」

村本氏が事業構想大学院大学のプロジェクト研究に参加したのは、2021年1月のこと。「かねてから仮想空間を使った未来の働き方に興味があり、2019年頃から仮想空間とSDGsを絡めた事業を構想していました。そんな折、SDGs新事業プロジェクト研究の募集告知を目にして、オンライン説明会に参加しました」と振り返る。SDGs新事業プロジェクト研究では、新規事業に取り組む上での姿勢や、アイデアを実装につなげる方法論などを学んだ。

「以前からNUCADOCOの構想はありました。当時、健康経営への注目が高まっていたこともあり、アバターを使ったヘルスケアの仕組みであれば需要が高いだろうと考えていたのです。それが研究会に参加することで、多様な業種業界から集まった研究員同士の交流が大きな刺激となり、事業アイデアのブラッシュアップに大変役立ちました」

従業員の健康づくりと
ライフスタイル向上に寄与

近年、健康経営施策として企業の間でヘルスケアアプリの導入が進んでいるものの、利用率や継続率に伸び悩むケースは少なくない。村本氏はそうした課題の解決のためには、「アバターを使って理想体型や今の生活を続けた未来体型を示し、憧れや危機感を持たせることで健康意識の向上につなげることが重要」だと語る。

「NUCADOCOでは、従業員の運動・食事・睡眠を可視化し、そのライフログによってアバターの体型や表情、モーション(動作)が変化することで、従業員の行動変容を促します。また、AIによる画像認識機能を搭載し、食事の写真から自動で摂取カロリーを計算するため、総合的に健康管理をサポートできます」

健康的な生活を送っていたり、毎日ログインしているとボーナスポイントが付与されるなど、毎日の健康管理をゲーム感覚で楽しめる点も大きな特徴だ。さらに、管理者機能では、ダッシュボードから従業員の利用状況が確認できるため、ヘルスケアを部下との面談や人事評価制度へ活用することもできる。

将来的にはアニメアバターだけでなく、3Dスキャンの技術により、本人の顔や体型を忠実に再現したリアルアバターを場面に応じて使い分けられるようにする予定だ。

「現段階ではリアルアバターの体型は変化させられませんが、専用スキャナーで全身を撮影してリアルアバターを生成し、アプリ内でモーションや表情の変化を楽しむことができます。契約企業には年に一度、スキャナーを貸し出し、従業員のリアルアバターの生成と3D身体測定を行います」

今後は様々なバーチャル空間サービスとアバターを連携させ、新しい働き方も提供していく。

「リリース時から様々なメタバースとの連携を進めてきましたが、2023年2月にはグリーの子会社であるREALITYとPoC(概念実証)を開始しました。現在は我々のメタバースオフィスをつくり、社員とアバターが共働する新しい働き方を進めているところです。本物のオフィスにいるかのようなコミュニケーションが図れるため、従業員の健康管理や健康意識の向上はもちろん、従業員のライフスタイル向上と労働人口問題の解決にも寄与できます」

メタバース連携には、REALITYが提供する3Dメタバースプラットフォーム「REALITY Spaces」を採用。メタバースオフィス空間を構築してPoCを開始

共創プロジェクトで
新たな事業領域を開拓

同社は、2022年初めより鍼灸治療を研究する当時慶應義塾大学医学部漢方医学センター講師の鳥海春樹氏との共同開発により、未病ヘルスケアの領域にもチャレンジしている。

「東洋医学では、コリは血流を阻害して自然治癒力を低下させると考え、自然治癒力よりも疾病の方が強い状態を『未病』と呼びます。鍼灸治療でコリが消えると自然治癒力が強くなり本来の姿に戻るのですが、鳥海先生は鍼灸治療前後のコリを3Dスキャンで計測する未病パラメータ測定システム『CORIMAP(コリマップ)』を開発しました。現在、このコリマップとNUCADOCOを組み合わせることで、コリを早期に発見・解消し、企業の生産性やエンゲージメントの向上に寄与できるかどうかの検証を進めています」

昨今は従業員の健康に対する投資収益率(ROI)を測る指標として、プレゼンティズム(健康問題による出勤時の生産性低下)が注目されており、その損害額は年間で数百万円にも及ぶと言われている。

「NUCADOCOと併せて従業員に鍼灸治療を受けてもらえば、従業員のパフォーマンスも上がり、より生産性を高められます。今後は全国の鍼灸院や接骨院とも連携し、スキャナーに加え、電子カルテや予約システムも治療院に提供していきたいです。さらに、今後の展開としては、アパレルメーカーやスポーツブランドとも共創し、アイテムのバーチャル試着から購買につなげるなど、ファッション×デジタルの新たな可能性も探ります。人体の3Dデータは世界的にも少なく、ライフログデータと人体3Dデータを合わせたデータは非常に価値のあるビッグデータになると考えます。最終的には、AI社会にも貢献できるデータビジネスの構築を目指していきます」