“もったいない”から始まる未来設計 ── サティスファクトリーが挑む、廃棄物ゼロの仕組みづくり

「このゴミ、どうしてこんなにコストがかかるのだろう」 ── そんな素朴な疑問から、廃棄物のあり方そのものに向き合う事業が始まった。
株式会社サティスファクトリーは、排出事業者と処理業者をつなぐ中立的な立場から、持続可能な循環型社会の実現を支援してきた。業界横断の静脈インフラネットワークと再資源化の知見を活かし、今や全国2万以上の事業拠点を支える。
“廃棄物ゼロ社会”という構想を、いかにして現実の仕組みへと落とし込んでいるのか──その歩みと展望を聞いた。
飲食業の現場から見えた“矛盾”
サティスファクトリー創業のきっかけは、代表・小松武司氏がかつて経営していた飲食店での経験だった。経営者として日々の業務に取り組む中で、「この程度のごみの量で、どうしてこんなにコストがかかるのか」「何をどこにどう捨てるのかが、なぜこんなに不透明なのか」といった疑問が膨らんでいったという。
「いち排出者の目線で見ると、業界の仕組みがとても見えづらいんです。当時は、料金の基準も不明瞭だし、契約内容も曖昧。現場が負担を抱えながら、仕方なく回しているような構造でした」
処理を担う業者、規制を定める自治体、契約を結ぶ事業者 ── それぞれの立場や事情が絡み合う中で、情報や権限が分散し、業務の非効率やムダ、実現が難しい課題が放置されていた。そうした状況を変えて進展させるには、構造全体を見直し、仕組みを作り運営する存在が必要だと考えた。
排出と処理の“間”に立つ、独自の支援モデル
サティスファクトリーが担うのは、「収集・運搬を行わない中立的な立場からの業務設計」というユニークなポジションだ。排出事業者の立場に立って課題をヒアリングし、必要に応じて複数の処理業者と連携。排出・収集・処理・再資源化といった一連の流れを、クライアントごとの業態や地域性に応じて最適化していく。
特に大手チェーンや多拠点展開企業では、自治体ごとに異なる条例や処理ルールに対応するだけでも業務負荷が大きい。サティスファクトリーは、各地のルールや処理実態を把握したうえで、契約・業務管理・法令対応・再資源化を総合的に支援する。
「業務管理に加え、資源化の提案までできるのが当社の強みです。たとえば、処理コストだけでなく、環境負荷やリスクの低減など、複数の軸で価値を出すことが求められています」
現在では全国約4,000の静脈インフラパートナーと連携し、約2万の拠点にサービスを提供。顧客業種も外食・小売・宿泊・製造・商業施設・自治体など多岐にわたる。
アップサイクルと地域共創 ── 新たな価値を生む挑戦
同社の支援は、排出物を“処理する”にとどまらない。“活かす”ことを前提にした再資源化・アップサイクルの取り組みも進んでいる。
たとえば、自治体や農業法人と連携し、規格外の農作物や食品残渣(ざんさ)を活用した食品商品を共同開発。素材の風味やストーリー性を活かしたプロダクトに昇華させ、地域の特産品として販路開拓を含めて支援するプロジェクトなどがある。
「『これまでは廃棄していたけど、視点を変えれば資源になる』という発見があると、関係者の行動が変わっていきます。生産者・自治体・消費者が一体となってつくれる地域循環があるんです。」
再資源化製品の例としては、地域の子供たちが回収してくれたペットボトルキャップを原料に作ったごみ袋が、環境意識を持つきっかけづくりとして学校の指定ごみ袋になったことがある。飲食店で不要になったパネルを知育玩具に生まれ変わらせ、施設の子どもたちに使ってもらえた。そこには「製品に意味やストーリーを持たせて価値観を伝える」という意図も込められている。
ネイチャーポジティブ──“自然とともにある経済”の実装
サティスファクトリーの事業構想の根底にあるのが「自然との共生」だ。環境への影響を弱め、生物の絶滅速度を減速させるためには、自然を回復させる観点から事業を考えるべきだ。環境省も掲げるこの概念は「ネイチャーポジティブ」と呼ばれ、自然を回復軌道に乗せることを意味している。
同社は、ネイチャーポジティブにはサーキュラーエコノミー、つまり資源循環が大きな役割を担うと断言している。
「自然環境を汚染するような廃棄物をゼロにするために、“循環できる仕組み”を設計する。それが私たちの役割です」と小松氏は語る。
企業にとって、環境活動は義務ではなく“未来に向けた投資”であり、ネイチャーポジティブの視点は経済合理性と両立するというのが同社の立場だ。その思想は、次世代への教育にも波及している。

教育と共創 ── 次の世代へ「価値のバトン」を渡す
同社では、環境教育プログラム「eduCycle」も展開。子どもたちに廃棄物のことを伝える出張授業や、アップサイクル素材を使った工作ワークショップなどを通じて、“楽しく学ぶ循環”の意識醸成に取り組んでいる。
加えて、社内外での起業支援・事業開発支援にも力を入れており、環境軸のビジネスアイデアを持った社員や若手チームに対し、チーム編成・出資・販路支援といったサポートを行っている。
「自社で全部をやるというよりも、パートナーと一緒に価値をつくっていく。それが一番大切だと思っています」
「環境社会創造企業」として、世界を変える仕組みを描く
サティスファクトリーが目指すのは、環境に配慮する企業ではなく、環境社会を創造する企業だ。単に廃棄物を減らす支援ではなく、業界の構造や産業プロセスを再設計することで、“循環”という自然のもつ合理性に則り、持続可能性を“仕組み”として社会に根づかせていく。
ネイチャーポジティブに資する循環の仕組みづくりのために、製品の設計段階からライフサイクルを考える事業も進行中だ。
廃棄物からはじまる、未来のあり方のデザイン。サティスファクトリーの取り組みは、環境と経済、そして人の意識をつなぐ“仕組みの再設計”そのものである。