VRは「映像」から「空間」へ アルファコード水野CTOが描くデジタル空間創造の未来

VRを単なる「360度映像」ではなく「デジタル空間」として再定義し、新たな価値創造に挑む株式会社アルファコード。教育現場で教師たちが自発的に活用を始めたVRコンテンツは、同社の「作りたい人を支援する」という理念が結実した成果だ。空間プラットフォームで世界一を目指す壮大なビジョンと、技術の民主化がもたらす産業革新について、取締役ファウンダー兼CTOの水野拓宏氏に話を聞いた。

映像から空間へ パラダイムシフトが生む新市場
―VRの社会実装において、アルファコードが着目した独自の視点とは何でしょうか。

私たちは、VRを『映像技術』ではなく『空間創造技術』として捉え直しました。従来の360度映像配信とは一線を画し、ユーザーが空間内を自由に探索できる「デジタル空間」の提供に注力しています。YouTubeが映像を見せるプラットフォームであるのに対し、私たちのBlinkyは空間体験を提供します。ユーザーが「あそこを見たい」と思えば瞬時にワープできるマルチアングル機能も、空間だからこそ意味を持つ機能です。この発想の転換により、VRの活用可能性は飛躍的に広がりつつあります。

教育イノベーションの最前線

――教育分野での成功事例について、その要因をどう分析されていますか。

 転機となったのは、学習指導要領に準拠した教育コンテンツの開発です。華やかさよりも実用性を重視し、教育現場のニーズに寄り添ったアプローチが奏功しました。オーケストラ教材では、各楽器の位置で聞こえる生の音、時には「崩れた音」まで体験できます。これが新学習指導要領の「対話的で深い学び」を実現し、音楽教育に新たな可能性をもたらしました。現在では、教師たちが自主的に授業に取り入れ、継続的な活用が広がっています。単発のデモンストレーションではなく、教育インフラとして定着しつつあります。

技術の民主化が生む共創エコシステム

――BlinkyとVRiderシリーズに込められた事業哲学をお聞かせください。

 前職での経験から学んだのは、「作りたい人を支援する」ことの社会的価値です。VRider COMMSは「空間版パワーポイント」というコンセプトで開発されました。日産愛媛自動車大学校では、教員自らがVR空間を構築し、生徒が車両内部の構造を立体的に学べる革新的な教材を生み出しました。私たちの役割は、現場の創造性を解放するツールの提供です。社内では『3-3-3-1ルール』により、経営陣・管理職・顧客・一般社員すべての視点を取り入れた開発を推進しています。この多様性が、予想を超えたイノベーションを生み出す源泉となっています。

 産学連携が加速する社会実装

――大学との共創から、どのような未来が見えてきましたか。

 静岡大学との認知症体験VR研究は、技術の新たな可能性を示しています。学生たちが患者への聞き取りを基に、リアルタイムで空間を構築・修正していく過程は、まさに共創の理想形といえます。認知症の方にとって扉が壁に見える感覚を、健常者が体験できます。この相互理解の促進は、高齢社会における重要な社会貢献です。静岡理工科大学では、地域課題解決を卒業研究に組み込む革新的な産学連携モデルを構築しています。大学を共に未来を創造するパートナーと位置づけ、次世代人材育成と技術革新を同時に推進する戦略が実を結びつつあると感じています。

日本発グローバルプラットフォームへの道筋

 ――「空間プラットフォーム世界一」という壮大なビジョンの実現可能性をどう見ていますか。

 XR市場は年率40%の成長を続け、2029年には6000億ドル規模への拡大が予測されます。この巨大市場において、日本企業が主導権を握るチャンスが到来しています。市場の1%獲得でも大きなインパクトです。日本が誇るアニメ・ゲームなどのIPコンテンツと、我々のVR技術の融合は、世界市場で独自の競争優位を生み出します。言語の壁が技術革新により低くなる今後数年が、グローバル展開の好機と考えます。ゲーム産業以来、日本発の世界的プラットフォームは生まれていません。デジタル空間なら、その可能性を実現できると確信しています。全社一丸となって、この夢に挑戦し続けます。

 

水野拓宏(みずの・たくひろ)


株式会社アルファコード 取締役ファウンダー兼CTO。UEIソリューションズでの経験を経て独立し、アルファコードを創業。同社のCTOとして、没入型VR体験やメタバース空間の構築など、次世代のバーチャルリアリティ技術開発を牽引。静岡大学特任教授も務め、VR/AR分野における産学連携と技術者育成にも貢献している。