関西経済連と事業構想大 「先駆ける関西、ファーストペンギンの心意気」開催

リスクを恐れず挑戦し、新たな時代を切り拓いてきた関西企業。月刊『事業構想』では、そのような企業を関西経済連合会と共同で取材し、「先駆ける関西、ファーストペンギンの心意気」を連載してきた。2026年2月12日、事業構想大学院大学 大阪校で総括する研究会を開催、多くの参加者を集めた。

今回の研究会開催にあたり、事業構想大学院大学の田中里沙学長は、「今求められるのは知識のフォロワーではなくリーダー。新しい知識を得て、さらに新たな知を生み出す人材です」と聴衆に語りかけた。そして、異業種の価値観に触れる越境学習の機会を提供するなど、構想が生まれる環境を整えてきた大学院の取組を紹介した。変化の激しい社会の中で、試す力・達成への執念・伝える力など、構想する力を備えた人材を育成する意義は大きい。将来の関西経済を支えるためにも、経営戦略と人事戦略を連動させ、企業変革の鍵とすることが重要になる。

イベントは、グランフロント大阪の事業構想大学院大学で開催。関西圏から多くの参加者を集めた

IoT家電で「空白期間」を埋め
暮らしのパートナーへ転換する

「ファーストペンギン」企業からは2社が登壇した。まず、パナソニックグループで家電事業を担う、くらしアプライアンス社の今村佳世氏が、約9000億円規模の事業が直面する転換点を紹介した。中国メーカーの台頭と国内市場の縮小が進む中、64眼スピードセンサー搭載のオーブンレンジや73種の銘柄を炊き分ける炊飯器など、技術の粋を尽くした製品群は高い評価を得る。一方で「レンジの温め機能しか使えていない」という顧客もいる。高機能な家電を買ったものの使いこなせず、調理をしないという負の連鎖が生じていないか。今村氏はそこに課題と機会の両方を見出した。

そこで、顧客を招いたワークショップを開催。そこから、重労働からの解放に加え、「心の豊かさ」や「家族の関係性の豊かさ」を求める声を掴んだ。「生き生きと自分らしく過ごす時間を長く続けたいという期待に応えたい」と今村氏は話す。ここから誕生したサービスコンセプトが「カジ育(かじいく)」。家事を誰か一人の負担ではなく、家族のつながりを育む行為へと再定義する試みだ。

その実現の鍵はIoT家電にある。従来、量販店で製品を購入した顧客と次に接点を持つのは故障時の修理対応のみ。その間の数年から十数年を今村氏は「空白期間」と呼ぶ。IoTで家電がインターネットにつながることで、この空白を埋める多様なサービスが可能になった。

象徴的な事例が「ビストロアシスタント」だ。LINEを通じて献立の相談から調理のサポート、完成後のフィードバックまでを一気通貫で提供する。背景には、パナソニックの研究施設「クッキングラボ」で培った調理ノウハウをAIに学習させた知見がある。料理未経験だった夫がこのサービスで腕を上げ、家庭の食卓の会話が変わったという事例も出ている。

もう1つの注目点は「音声プッシュ通知」。洗濯完了や炊飯完了をテレビが家族全員に知らせることで、子どもの自発的な行動や夫婦間の自然なケアが生まれた。3年後には思春期の息子の関心や興味に合わせて好きなアニメのセリフ風に通知を変えることで、新しい形の自立支援ができるようになった。家電が「家族の一員」になりつつある光景といえる。

このような経験を踏まえて、今村氏はCSの進化を3段階で定義した。従来の故障対応(CS)から、暮らしの中で家電の価値を広げる段階(CS+)、そしてウェルビーイングに貢献する段階(CS++)へと進んでいく。「次の100年は『心』にフォーカスし、ものを進化させたい。物心一如の世界を目指します」と語った

今村 佳世
パナソニック株式会社くらしアプライアンス社 常務 CX・CS担当

自社のセンサー技術を
世界の安全インフラへ展開

新コスモス電機代表取締役社長の髙橋良典氏は、「失敗を恐れず、挑戦する」という同社の企業文化の原点から話を始めた。

髙橋 良典
  新コスモス電機株式会社 代表取締役社長

1960年、2度の倒産を経て残った150人が資本金100万円で再建した同社。当時の主力製品はラジオやテレビの音量調整に使うボリュームコントロールだった。製造工程で溶剤のトルエンが抵抗体に浸透し抵抗値が変わるトラブルが発生した際、当時の社長が「これはトルエンを検知できるセンサーになるのでは」と直感したことが、ガスセンサー事業の出発点となった。

髙橋氏が強調するのは、日本の家庭用ガス安全の到達点。家庭のガス事故による死亡者は現在、ほぼゼロ。一方、米国では年間50〜60人が犠牲となり、100万人あたりの死傷率は日本の約10倍に達する。「国と業界とメーカーが三位一体で安全水準を高めてきた日本のモデルは、世界に誇れる資産です。これは世界の国々に届けていくべき」と髙橋氏は訴える。

現在同社はグローバル展開を加速させている。心臓部となるのがMEMS技術を応用した超小型・省電力のガスセンサーだ。電池駆動を可能にしたことで、電源インフラが整わない環境でも設置できる。ニューヨークのガス供給大手コンエジソン社には2018年に採用され、40万台を設置。すでに多くのガス漏れを検知しており、すべてが実報だったという。現在、米国6州以上でガス警報器の義務化が州議会で議論されている。

さらに、カーボンニュートラル時代を見据え、水素やアンモニア向けセンサーの準備も整えた。住宅火災対策では、煙に加えて一酸化炭素を検知する「プラシオ」を開発し、高齢者の逃げ遅れ防止にも取り組む。「世界中のガス事故をなくす。この使命を次の世代に引き継いでいきます」と力を込めた。

万博の成果を社会実装へ
構想人材が関西の未来をつくる

事業構想大学院大特任教授の小宮信彦氏は、2025年に開催された大阪・関西万博を振り返り、レガシーを分析した。同氏によると万博は、「次代の社会のスタンダードを生み出す装置」という位置づけ。そして、将来の「当たり前」を今、考えるためのバックキャスティングの重要性を訴えた。大正~昭和初期に大阪市長を務めた關一氏は、車がほとんど走っていなかった時代に8車線の御堂筋を構想した。それを可能にしたのは未来への意思だという。そして「こういう世の中を作りたいという構想力こそ、万博を経た関西から生まれるべきものではないでしょうか」と呼びかけた。

関西経済連合会常務理事・産業部長の久米一郎氏は、万博の成果を継承するため、空飛ぶクルマや再生医療など先端技術の社会実装をオール関西で支援する体制に向けて検討を進めていることを報告した。公設試験場の広域連携(関西広域産業共創プラットフォーム)では、大阪・泉南の特産品「水なす」の保存期間延長を鳥取県の技術で実現した事例も紹介。JR大阪駅前のグラングリーン大阪のJAM BASEを拠点にしたスタートアップ支援や、DX推進に向けた「KANSAI DX AWARD」など、関西の産業競争力強化に多面的に取り組んでいると述べた。

パナソニックの「モノから心へ」の事業転換、新コスモス電機の日本発の安全技術のグローバル展開という2つの挑戦が示すのは、関西の製造業が持つ技術力と構想力の融合が、次の成長を切り拓く原動力になるということだ。万博後の関西企業が真のファーストペンギンであり続けるために、企業・産業界・教育機関の連携がますます重要になっている。