ALIGNE 「頑張りたいときに頑張れる心と身体を手に入れるウェルネスデザイン」ウェルネス専門家集団が企業の健康経営を変革

少子高齢化により人手不足が深刻化する中、従業員の健康管理は企業の生存戦略となっている。アスレティックトレーナーとして米国で研鑽を積んだ一原克裕氏が2022年に設立した株式会社ALIGNEは、組織開発コーチ、運動指導者、管理栄養士など多様な専門家を擁する「ウェルネスデザインファーム」として、企業の健康経営を根本から変革している。個社の文化に合わせた支援で、従業員の真のウェルビーイング実現を目指す同社の事業構想を聞いた。

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株式会社ALIGNE・代表取締役の一原克裕氏

米国で学んだ予防の重要性

日本で必要な発想の転換

株式会社ALIGNE・代表取締役の一原克裕氏のキャリアは、早稲田大学アメフト部の学生トレーナーから始まった。「高校までは野球をプレーしていましたが、選手としてプロに行くよりも、サポートする側で力を発揮したいと考えていました」と振り返る。

大学4年間でトレーナーの道を職業にするかどうかを決めようと考えていた一原氏だが、スポーツ環境における安全担保の不備を痛感する。

「日本の高校生以下の年代におけるスポーツ現場では、命を落としたり、適切な医療を受けられずに選手生命を終えたりする事例が後を絶ちませんでした。一方、私自身が在籍していた早稲田大学アメフト部は米国帰りのアスレティックトレーナーらによる本格的なメディカル体制が整っており、非常に恵まれた環境にいたため、このギャップをどうにかしたいと考えるようになりました」。

スポーツ現場での問題意識から、一原氏は米国の大学院でスポーツ医学を学び直すことを決意。MLBシアトルマリナーズのマイナーリーグで3年間トレーナーとして働き、大学院と合わせて計7年間を米国で過ごした。

「米国では救急車を呼ぶだけで多額の費用がかかります。目の前で骨折した選手の親が、『治療費が払えないから家に連れて帰る』と言うのを何度も見ました」。

この経験から、予防医療への投資が圧倒的に重要視される理由を理解したという。米国では、高校にアスレティックトレーナーを常駐させることが一般的だが、それは全校生徒が月数百円の負担で万が一の費用を節約出来る側面があるため、だという。

米国では企業も労災や訴訟のリスクを考慮し、事故が起きる前の環境整備に力を入れる。

「日本は国民皆保険制度で『何かあったら病院に行けばいい』という発想ですが、米国は『何かが起きないようにする』ことに徹底的に投資するのです」と一原氏は日米の違いを分析する。

企業の発達段階に応じたオーダーメイド支援

画一的プログラムからの脱却

帰国後、一原氏は母校でのトレーナー業務を経て、前職でビジネススキルを磨いた後、2022年に株式会社ALIGNEを設立した。同社の特徴は、管理栄養士、メンタルコーチなど多様な専門家を抱える「ウェルネスデザインファーム」として、企業の健康経営を個社に最適化して支援することだ。

「同じ身体を持つ人は一人とおらず、同じ動きをしても結果は異なります。企業も同様で、その会社に合ったやり方を提案することが重要です」と一原氏は強調する。

同社は企業の健康経営の成熟度を3段階に分けてアプローチしている。第1段階は健康経営に全く手をつけておらず、何か始めたいが何から手を付けていいかわからない状態。そうした企業に対しては経営課題や従業員の健康課題など現状把握から始めます。第2段階は既に取り組んでいるが数年経ち、マンネリ化する中で新たな風が必要な段階で、これまでの取り組みに繋がる新しい施策をサポート。

第3段階は健康経営のトップランナー企業だ。「健康経営が進んだ企業は明確なビジョンを持っているので、我々は必要な部分のサポートに徹します。野球でもメジャーリーガーであれば、トレーナーがあれこれ指示するのではなく、選手が自分で判断した足りない部分をサポートするように、健康経営に関しても同じことが言えます」。

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多様な専門家を擁する「ウェルネスデザインファーム」ALIGNE

中小企業こそ重要となる健康投資

人材確保の新たな戦略軸

現在の顧客は大企業が中心だが、一原氏は本来、健康投資の必要性が高いのは中小企業と分析する。「製造業などで50人以下の企業なら、1人欠けるインパクトは何千人の大企業とは比較にならないほど大きいです。その人にしかできない作業や技術があれば、例えば突然のぎっくり腰など不調が起きれば生産ライン全体が止まってしまうこともあります。そうした事態を防ぐためにも、企業としての健康投資が必要となります」。

また、健康経営は人材確保にも繋がる。少子高齢化により人材確保が困難と言われて久しいが、健康経営の取り組みは、就活においても重要な判断基準となっており、優良法人認定の有無だけで応募企業を絞り込む学生も増えているという。

「これまでは『健康は個人の責任』でしたが、もうそれでは間に合わない時代です。企業として従業員をバックアップしなければ、人材の確保も定着もできません」。

一原氏が目指すのは、従業員が自分自身で選択できる環境の整備だ。「大切なのは、企業が従業員に対して様々なニーズを満たすサポート体制を用意することで、従業員が自分に合ったものを選んで取り組めることです。1つのプログラムで全て解決するというプロダクトアウト的発想では限界があります」とヘルスケアと実務両面の専門家だからこその視点で一原氏は説明する。

教育から企業まで

ウェルビーイング社会の実現に向けた長期構想

ALIGNEの今後5〜10年の構想は、企業だけでなく教育分野にも広がる。現在、自治体と連携して探究授業や部活動の外部委託化に対応したウェルビーイング教育の設計に取り組んでいる。

「30〜50代の働く世代に健康習慣を身につけてもらうのは大変ですが、子どもの頃から適切なヘルスリテラシーを身につけていれば、将来的に健康経営そのものが不要になる可能性があります」。

究極的に目指すのは「VUCAの時代に自ら未来を創造する力を育むこと。そのためにも頑張りたいときに頑張れる自身の心身の健康を維持する力を備える」ことだ。

「20年間腰痛で悩んでいた人が、適切な知識を得るだけで改善に向かうことは珍しくありません。スポーツ界では当たり前に行われていることが一般社会にこそ求められている。まだ届いていない人に届けることに取り組んでいきたいです」。

企業をハブとして多くの人にヘルスリテラシーを届けながら、将来的には教育段階から根本的な変革を図る。一原氏の描く構想は、日本社会のウェルビーイング実現に向けた壮大な挑戦といえるだろう。