「事業規模に関係なく、良いものが世界に届く」 インターネット黎明期の構想が生んだ3つの事業と次なる挑戦

インターネット黎明期の2000年、「インターネット広告は、事業の規模に関係なく、本当に良いものが世の中に出せるインフラになる可能性があるのではないか」という構想を持って創業したブレイク・フィールド社。それから25年、月間800万ユーザーを誇るメディア事業、アジア展開する海外事業、そしてデジタルマーケティング事業の3本柱で成長を続けている。メディア企業が成長し続ける組織作りと今後の事業展開について、代表取締役社長の井田正幸氏に話を聞いた。

イノベーターとして生きる決意が創業の原点

—ベンチャーキャピタルから起業家への転身。その背景にはどのような構想があったのでしょうか。

元々ベンチャーキャピタルで働き、多くの起業家に会う中で自分もやってみようと思いました。2000年はインターネット黎明期で、当時の広告はテレビや新聞など大企業のものでした。しかし、インターネットの登場で、企業規模に関係なく良いものが世界に届くインフラになる可能性を感じたのです。

創業の背景には、事業構想大学院大学の初代学長でもある野田一夫氏の教えがあります。野田氏は、多摩大学の初代学長でもあり、私は3期生でした。

人の生き方には、イノベーター、フォロワー、トラディショナーの3つがある。どれが良い悪いではなく役割だという言葉に共感し、自分はイノベーターとして生きたいと強く思いました。ベンチャーキャピタルなら新しい産業の育成に関われる、起業すれば新しい産業を作れる。そんな思いで、ネット広告代理店事業からスタートしました。

創業当時はネットは怪しいと言われ、様々な事件などもあり逆風でしたが、必ず時代が来ると信じて続けてきました。

信頼できる情報で800万人の課題を解決

—メディア事業のファイナンシャルフィールドはどのような構想から生まれたのですか。

ネット広告代理店として順調に成長する中、今度はユーザーの課題解決をメインとしたメディアを作ろうと考えました。インターネットが普及してフェイクニュースが問題になった時期に、特に暮らしとお金の分野で信頼できる情報が必要だと感じたのです。

そこで作ったのがファイナンシャルフィールドです。特徴は、全ての記事をファイナンシャルプランナー(FP)が執筆または監修していること。編集部員も全員FP資格を持っています。

FPが普段相談を受けている内容や、暮らしに役立つお金の情報を、信頼性を担保しながら提供しています。現在は月約1,000本の記事を配信し、多い月は800万ユニークユーザーが訪れます。

Yahoo!ニュースやLINEニュースなど大手メディアにも記事提供しており、記事提供料とアクセスによる収益モデルを確立しています。さらに今後は、記事だけでなくより直接的にユーザーの暮らしとお金の課題解決できるサービスも提供していきたいと思っています。


アジア20億人市場への挑戦

—海外事業を10年以上展開されていますが、どのような手応えを感じていますか。

ベトナムは2014年から、タイは2016年から展開しています。ベトナムでは医療保険の比較・紹介サイトを運営し、保険代理店のライセンスも取得してコールセンターで直接医療保険の販売もしています。日本と違って皆保険ではないので、豊かになると民間医療保険が必要になる。しかしまだ加入率は20%弱で、大きな成長余地があります。

タイではクレジットカードとパーソナルローンの比較サイトとデジタルマーケティングサービスを展開しています。海外事業は順調に伸びており、売上の約20%に迫る勢いです。アジアにおいて、暮らしとお金は成長分野で、東南アジアで約6億人、インドを含めれば約20億人の市場で、金融商品を適切に選べるメディアやサービスを作りたいと考えています。

また、今後は、、日本企業の輸出支援にも取り組んでいきたいと思っています。現地法人を持たない輸出企業には、現地のマーケティング機能がありません。我々が10年かけて培った現地でのデジタルマーケティングのノウハウを提供する事ができると思っています。

思いが良くて達成力が高い人を育てる

—御社独自の人材育成方法について教えてください。特に商売力というキーワードが印象的でした。

採用と育成の軸は、思いが良くて達成力が高い人です。達成力が弱くて思いが悪いのは最悪。達成力が弱くて思いが良いのは事業向きではない。達成力は強いけど思いが悪いのは、ドラマの半沢直樹のような世界になってしまう。切磋琢磨しながらも、足の引っ張り合いではない組織を作りたいのです。

この理念を浸透させるため、毎週私と社員でディスカッションする時間を設けています。最初は私が話していましたが、今は社員がテーマについて発表し、議論する形に進化しました。

特に重視しているのは商売力のある人間の育成です。企画営業力とも言えますが、アイデアを持って顧客のところへ行き、こんな課題ありませんかと聞ける人材。10社回れば相当ブラッシュアップされた企画になります。これがマーケットインの企画で、多くの新規事業が失敗するのはニーズがないからです。

外貨を稼げる企業への変革

—今後10年、20年の構想についてお聞かせください。

大きく3つの方向性があります。まず、メディア事業では暮らしとお金以外の分野でも、多くのユーザーの課題を解決するメディアを作りたい。また、ユーザーを集めた後は、その分野の課題解決できるサービスを提供していきたいと思っています。

海外事業では、少なくとも売上の半分を海外で稼げる企業を目指します。日本は島国ですから、外貨を稼ぐことは、日本に貢献することになるとと考えています。東南アジアの金融商品普及はまだこれからで、我々の役割は大きい。また、日本企業の輸出支援という新たな事業機会にも取り組んでいきたいと思っています。

デジタルマーケティング事業は常に進化が必要です。自社メディアで年間数億円の広告を出稿しているため、その最先端のノウハウをクライアントに提供できます。また、今はAIを使った記事構想の開発も進めています。

野田先生がよく言われていた、成功の反対は失敗ではなくチャレンジしないこと、という言葉を胸に、これからも挑戦を続けていきます。成功した経営者は皆、失敗談を武勇伝のように語る。失敗を糧にできる組織文化を大切にしながら、次の構想を形にしていきたいですね。

井田 正幸(いだ・まさゆき)株式会社ブレイク・フィールド社 代表取締役社長。ベンチャーキャピタルでの勤務を経て、2000年に株式会社ブレイク・フィールド社を創業。インターネット黎明期に「インターネット広告は、事業の規模に関係なく、本当に良いものが世の中に出せるインフラになる可能性があるのではないか」という構想を持ち、ネット広告代理店事業からスタート。現在は月間800万ユーザーを誇るメディア事業「ファイナンシャルフィールド」、2014年から展開する海外事業(ベトナム・タイ)、デジタルマーケティング事業の3本柱で事業を展開。多摩大学で野田一夫氏(事業構想大学院大学初代学長)の薫陶を受け、イノベーターとしての生き方を選択。「思いが良くて達成力が高い人」を理念に、独自の人材育成を実践。本社は千代田区一番町、熊本に事務所、ベトナムとタイに子会社を持つ。