『AI時代のスポーツアナリティクス』
『AI時代のスポーツアナリティクス』
- 藤井慶輔 著
- 本体3,200円+税
- 東京大学出版会
- 2026年5月
スポーツの世界では、試合映像やセンサーから膨大なデータが取得されるようになり、AIを活用した分析は競技力向上や戦術立案に欠かせないものとなりつつある。本書は、そうしたスポーツアナリティクスを体系的に学べるよう、映像からのデータ取得、分析・予測、プレー評価、戦術生成、そして実装までを一貫した流れとして扱っている。
AIを導入すれば自動的に成果が出るわけではない。著者は、AIは「魔法」ではなく、質の高いデータ、適切な前処理、妥当な評価設計、人間の専門知がそろって初めて価値を発揮すると強調する。大規模言語モデル(LLM)や画像認識技術への期待がどれほど高まっても、現場の課題を理解し、説明責任を果たす主体は人間であるとする。この立場から、AIの可能性を語るだけではなく、現実的な運用条件や限界にも目を向けながら、人とAIが協働するための考え方を示す。
まず第1章でスポーツアナリティクスの目的や扱うデータを整理した後、第2章では映像からデータを作る技術、第3章では予測分析とプレー評価、第4章ではシミュレーションを用いた戦術生成へと進む。そして第5章では、著者らが開発に関わる解析基盤「OpenSTARLab」を用いて実際に分析を行い、第6章ではスポーツAIの将来像を展望する。理論だけでも実務だけでもなく、その両者を往復しながら学べる構成になっている。
例えば第2章では、スポーツ分析の出発点として、映像から何を取得するのかを整理し、位置座標データ、イベントデータ、姿勢データという3種類の情報を軸に説明する。選手やボールの位置、パスやシュートといったプレー、さらには身体の動きまでをどのようにデータ化するのかを示し、そのためのコンピュータビジョン技術を解説する。
特徴的なのは、技術の紹介にとどまらず、スポーツ映像特有の課題にも目を向けている点だ。高速な動きによる追跡の難しさ、天候や照明による映像品質の変化、大量データの処理負荷、プライバシーや倫理への配慮など、実運用で直面する問題を取り上げながら、データ取得の現実を描き出している。さらに最新の研究動向も踏まえ、「何をデータとして取得し、それをどう分析につなげるのか」の枠組みを提示している。
本書は、AIを使ったスポーツ分析に関心を持つ学生や研究者はもちろん、指導者、アナリスト、競技団体の関係者に大いに役立つはずだ。さらには、試合をより深く理解したい観戦者を含め、スポーツとAIの接点をデータ取得から意思決定までの一連の仕組みとして理解したい人にとって、非常に興味深い入門書といえるだろう。
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