魅力的な地域づくりのためのDX施策 デジ電構想の現状と展望

政府は「デジタル田園都市国家構想総合戦略」に基づき、デジタルの力を活用した地方創生の取り組みを加速している。ウェビナーの基調講演では、デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の小林剛也参事官が総合戦略のポイントや主要施策について解説した。

小林 剛也(内閣官房 デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
参事官)

日本の人口は2008年の1億2,800万人をピークに減少し続けており、2050年には1億400万人、100年後には5,000万人を切り大正時代前半の水準に戻る可能性がある。また、地方から大都市への人口移動は止まらず、2022年の東京圏の転入超過は9.4万人となった。地域では生産労働人口の減少や産業・経済の衰退が深刻だ。

一方、デジタル化の進展やコロナ禍に伴うテレワークの定着は、地域に新たな可能性をもたらしている。例えば2022 年に首都圏から本社を移転した企業は335 社で、2年連続で転出超過(77社)となり、移転先は大都市部だけでなく地方にも広がっている。また、東京23区企業のテレワーク実施率は2023年3月時点で51.6%と高水準を維持する。内閣府の調査によれば、東京圏在住者のうち地方移住への関心を持つ層は全年齢層で増加している。

デジタルの力を地方創生に活かすために、政府は従来のまち・ひと・しごと創生総合戦略を抜本的に改訂し、新たに「デジタル田園都市国家構想総合戦略(2023年度~2027年度)」を2022年12月に閣議決定した。「戦略の基本思想は、デジタルの力を活用して地方創生を加速化、深化し、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指すこと、そして地方で都会に匹敵する情報やサービスを利用できるようにし、地方の社会課題を成長の原動力とし、地方から全国へとボトムアップの成長につなげることです」とデジタル田園都市国家構想実現会議事務局の小林剛也参事官は説明する。

図 デジタル田園都市国家構想交付金の概要

出典:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局資料

 

優良事例を広く横展開する

「キーワードは横展開です。各地におけるデジタル活用の優良事例や、これまでの地方創生の取組みで蓄積された成果を、ただコピーをするのではなく改善しながら全国的に展開し、地域の活性化につなげることが重要と考えています」

施策の方向性として①地方に仕事をつくる、②人の流れをつくる、③結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④魅力的な地域をつくる、の4つを掲げた。また、デジタル実装のための基盤条件整備として①デジタル基盤の整備、②デジタル人材の育成・確保、③誰一人取り残されないための取り組み、の3つを挙げる。

その上で、2030年度までに全ての地方公共団体がデジタル実装に取り組むことを見据え、デジタル実装に取り組む地方公共団体を、2024年度までに1,000団体、2027年度までに1,500団体とするKPIを設定した。

2023年6月には、特に緊急を要する、あるいは加速していくべき重点検討課題として「デジタル実装の優良事例を支えるサービス及びシステムの横展開の加速化」「モデル地域ビジョンの実現支援策の強化・地方創生の先進事例の横展開の推進」の2つを設定、施策の深化・具体化や新規施策を検討し、年末に改訂する総合戦略に盛り込む方針だ。

「行政サービス分野では、『書かないワンストップ窓口』に関するSaaS機能をガバメントクラウド上で提供するほか、窓口業務改革に関する人的・財政支援の充実を図る方針です。防災や医療・健康・子育て、公共交通、教育等の主要分野の優良DX事例を支えるサービス及びシステムについて、ベストリファレンスのカタログ化に取り組みます。先行自治体で上手くいっている理由や、どのようなソフトウェアを使えばいいかなど、具体的な情報を全国の自治体にお届けしていきます」と力強く述べた。

企業版ふるさと納税の
さらなる活用を

デジタル田園都市国家構想の実現に向けた具体的な施策として、小林氏は次の4つを紹介した。

1つ目はデジタル田園都市国家構想交付金だ。2023年度当初予算案の1,000億円に、2022年度の補正800億円を加えた1,800億円を確保し、「デジタル実装タイプ」「地方創生拠点整備タイプ」「地方創生推進タイプ」の3種類の交付金を用意している。デジタル実装タイプは、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、デジタル実装に必要な経費を支援するもので、「優良モデル導入支援型」「データ連携基盤活用型」「マイナンバーカード高度利用型」を展開する。地方創生拠点整備タイプと地方創生推進タイプは、デジタルの活用などによる観光や農林水産業の振興等の地方創生に資する取組みや拠点施設の整備などを、ハード・ソフトそれぞれの面で支援する。

2つ目は地方創生移住支援事業だ。地方での子育てを希望する若い世帯の移住を後押しするなど、地域の将来を担う人材を確保することが目的で、首都圏から地方への移住者を2027年度までに年間1万人に増やすというKPIを定めている。具体的には、東京23区に在住または通勤する世帯が地方へ移住して起業や就業を行う場合に、起業ならば最大300万円、就業であれば最大100万円を支給する。

3つ目は企業版ふるさと納税だ。2020年度税制改正による税額控除割合の引上げ等もあり、2022年度の寄附実績は金額が前年度比約1.5倍の341.1億円、件数が約1.7倍の8,390件とそれぞれ伸長した。より一層の活用促進に向け、関係府省との連携等による企業等へのアプローチの強化や、地域別マッチング会の開催などで地方公共団体支援の充実を図っていく。

最近では、企業版ふるさと納税を活用してサテライトオフィスを整備する事例も出てきている。様々な人が利用できるようなサテライトオフィスは、人と人との交流が生まれ、ビジネスアイディアの交流につながるというメリットもあるだろう。

そして4つ目がDigi田(デジでん)甲子園だ。これはデジタルの力を活用して地域課題の解決や地方創生に取り組む事例を募集・発信するものである。2022年度は夏・冬に分けて開催し、地方公共団体、企業、大学など様々な優良事例の表彰を行った。「2023年度はDigi田(デジでん)甲子園2023として10月22日までの募集期間で、幅広い団体の取り組みを募集しておりますので、ぜひ奮ってご応募下さい」と小林氏はアピールした。