災害の発生通知と未来予測を実現 100自治体採用のAIサービス

SNS等の投稿情報をAIで解析し、災害情報を自動収集・通知するサービス「Spectee(スペクティ)」。自治体や報道機関、企業の災害対策ツールとして多数採用され、災害の未来予測に関する技術開発も進んでいる。村上建治郎CEOに事業の独自性や構想を聞いた。

データ解析力を強みに
正確性の高い情報を提供

「Spectee」は、SNSやライブカメラ、各種公共データなどを活用し、災害や危機の発生を迅速に通知、さらに刻々と変化する状況をリアルタイムに解析・配信するAI防災・危機管理ソリューション。現在採用自治体は100、省庁は20、企業は600社を超える。

AI 防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」

リアルタイムに河川氾濫の浸水推定図を作成する技術も開発

Specteeがリリースされたのは2014年で、当初は報道機関を主な対象としたサービスだった。Twitter、Facebook、Instagram、YouTube等を情報ソースに、ニュース性の高いワードや特定エリア内での急激なワードの使用数上昇、動画や画像の中に映っている対象物などを検出し、独自のアルゴリズムで分析、災害や事件の発生をテレビ局や新聞社の報道センターのパソコンにアラーム音と自動音声で速報していた。その機能自体は今も変わらないが、「主要顧客が報道から企業や自治体へと移るなかで、求められる機能をアップデートしてきました」とSpectee代表取締役CEOの村上建治郎氏は言う。

村上 建治郎 Spectee 代表取締役CEO

「とにかく早く、たくさんの情報が欲しいのが報道機関で、得た情報の最終的な選別や事実確認は報道機関が行います。一方、企業や自治体では事実確認する術がないため、求められるのは、事実確認がしっかりされており、正確で、かつ自分たちにとって必要な情報です」

もともとSpecteeはデータの解析力が強みで、データ解析に関する特許を複数取得している。その技術力をもって膨大な量のデータを解析し、顧客にとって必要な情報を届けてきた。

情報の正確性を保つのは技術力だけではない。Specteeは24時間体制で情報の正確性を判断する情報監視チームを置いている。必要な情報を特定する技術やノウハウ、情報の正確性は、実際に導入企業や自治体から高く評価されている。報道向けにサービス展開していた時は類似するサービスもあったが、現在競合するところはほとんど見あたらず、「自治体はほぼ独占状態に近い」という。

地図上に被害状況を可視化
海外の災害やテロにも対応

Specteeは2020年、危機を可視化することをミッションに掲げ、企業や自治体の危機管理向けに機能を大幅拡張した「Spectee Pro(スペクティプロ)」をリリースした。

企業や自治体は地震が発生したことをわざわざSNSで知る必要はない。発生そのものは地震速報などさまざまな情報で知ることができるからだ。それよりも重要なことは、自治体であれば管轄するエリアのどこに被害が集中しているのか、どういった被害状況なのかといった情報だ。企業であれば、取引先や自社工場などの被災の有無や、被害状況を知りたいだろう。

「以前のSpecteeと一番違う点は、地図と情報を連動して被害状況などを見る機能を追加したことです。地図上で特定した場所の状況を、SNS、気象データ、道路や河川に設置されたライブカメラ、人工衛星などのデータなどを活用し、被害の状況や予測値を見られるようにしました」

Spectee Proでは、こうした情報を国内に限らず世界規模で出しており、海外で発生している災害やテロなどの状況も見ることができる。海外までカバーしているサービスは他になく、グローバル企業や外務省などの中央省庁などの導入が進んでいるという。

一方で、多様な業界のユーザーが利用するようになったことで、それぞれ違ったニーズのユーザーに合わせて優先順位の高い情報を的確に選別し提供することが必要になってきた。そこで今、AIでユーザーが欲しい情報を適切に選別する技術開発を進めている。

「AIに同一業種や同一職種のデータを機械学習させて、その企業にとって優先順位の高い情報を類推してカスタマイズする仕組みを作ろうとしています。顧客にとって重要な情報を見逃さずに、最適化した情報を提供できるようにしたいです」

「今」の分析から「未来」の予測へ
災害対応を的確にサポート

Specteeは、災害対応をより充実させるために、セキュリティサービス企業や、道路カメラや車両運行データの解析技術を保有する企業など、さまざまな企業との連携を進めている。

「SNSは1つのソースに過ぎず、災害時の被害状況の判断にはできるだけ多くの情報が必要です。道路カメラや各種センサーの情報など網羅的にデータを取得できるように、さまざまな企業と連携を進めています」

技術的な面で、今最も注力しているのが「予測」だ。現在、河川の氾濫直後にほぼリアルタイムで浸水範囲と浸水深を推定し、2Dおよび3Dのマップ上に再現する技術の開発を進めている。

このほか、名古屋市の課題提示型支援事業に採択され、AIを活用した避難情報支援システムの構築に取り組んでいる。河川の水位状況や現在の降水量、今後の予測雨量、気象警報の発表状況などの情報から、危険度判断・避難指示発令を支援するシステムの開発を目指す。

「これまで蓄積されている気象データや河川の氾濫が起きた時のデータなどをAIで解析することで、例えば台風の発生と同時に風雨による被害が起こる場所や程度を予測する、そういう予測解析に力を入れています。避難指示ひとつとっても、これまでは自治体の危機管理部門の担当者の経験値や勘に頼っている部分も多かったと聞きます。しかし、最近では想定外の災害が毎年のように起こり、経験値だけでは対応が難しくなっています。手遅れになることを恐れて、実際には避難の必要がないケースで避難指示が出たため、住民に対する避難指示の効力が失われるケースもあるようです」

今起きている災害情報だけでなく、これからどうなるのかを明確に予測できれば、災害対策の計画を立てやすくなり、より迅速で的確な対応が可能になる。

「最終的な判断は現場の人がします。我々はそのサポートになるように、“今”だけに留まらず、“未来”を可視化するシステムを作っていきます」と村上氏は力強く語った。

 

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