AIが支える「新たな地域医療モデル」 医療過疎に挑むスタートアップの挑戦

現代社会において過疎化が進む地方では、医師や看護師などの医療人材の不足は深刻さを増し、地域住民が適切な医療サービスを受けられない「医療過疎」の状況が生まれている。この状況は、地域全体の活力を低下させ、持続可能な社会の実現を阻む要因ともなりかねない。このような背景の中、株式会社PrimaryTouchは、AI技術を駆使して地域医療の人手不足問題に挑んでいる。同社共同代表で、事業構想大学院大学修了生の廣川佳嗣氏は、その事業構想の核には、創業当初からの「困っている人を助ける」という普遍的な思いと、事業構想大学院大学での学び、そして国内外での多様な経験を通じて培われた「進化する構想」があると言う。本稿はXで音声配信した内容を記事化した。

「困っている人を助ける」
普遍的な想いから始まった事業

廣川 佳嗣

廣川 佳嗣

株式会社PrimaryTouch 共同代表
1978年生まれ。2004年株式会社オウケイウェイヴ入社。法人営業、事業開発、事業企画、経営企画に従事。2019年事業構想大学院大学修了。2023年独立、個人事業GOODNARR ATIVE立ち上げ。2025年4月株式会社 PrimaryTouch設立。
https://www.primarytouch.co.jp

── 創業当初から一貫して掲げている「困っている人を助ける」という理念について、具体的にどのような体験から生まれたのでしょうか。

私が新卒で入社したIT企業時代から、ずっと心の中にあったのが「困っている人を誰かが助ける事業をつくりたい」という想いでした。前職では事業開発や経営企画に携わっていましたが、どこか物足りなさを感じていました。それは、自分の仕事が本当に社会の役に立っているのか、という根本的な疑問でした。事業構想大学院大学に入学したのは2017年。当時は社内で新規事業を生み出す必要性を強く感じており、1社での経験だけでは視野が狭まると考えて、もっと幅広い知識や視点を得たいという思いから入学を決めました。入学当初は地域医療を直接的なテーマとしていたわけではありません。しかし、前職でのコミュニティ事業を通じて培われた「助け合う場所づくり」という概念は、今のPrimaryTouchの事業の根底に繋がっています。大学院での学びを終え、前職を退職した後、イスラエルやイスタンブールへのバックパック旅行を経験しました。海外の発展を目の当たりにし、「日本はこのままで大丈夫なのか」と考える中で、社会貢献性の高い分野で事業を立ち上げたいという思いが強くなりました。そんな時にご縁があったのが、岡山県津山市で医療経営を行っている理事長との出会いです。地域医療が「待ったなし」の状況にあることを知り、ITや事業開発の経験で何か貢献できないかと考えたのが、現在の事業に本格的に取り組むきっかけとなりました。

CRMからCCRMへ
ビジネスモデルの進化

── 前職でのCRM事業の経験が、現在のCCRM( Community Care Relationship Management)という概念にどのように発展したのでしょうか。

これは私にとって最大のブレイクスルーでした。前職でCRM(Customer RelationshipManagement)事業に携わっていた経験が、医療現場の課題を深掘りしていく中で活きました。チームメンバーと医療の観点、ビジネスの観点から医療現場の課題と本来のあり方についてディスカッションしていく中で、「これはCCRM(Community Care Relationship Management)の視点が重要ではないか」というひらめきがありました。従来の医療は「外来中心」でしたが、厚生労働省の調査では、2025年を境に外来受診がピークアウトし、在宅医療が中心になっていくと予測されています。交通手段の減少や運転免許の返納などで、病院に通うことが困難になる高齢者が増えることを考えると、この「外来中心」という医療のあり方そのものが転換期を迎えています。そこで気づいたのが、退院後の患者さんの「空白期間」をどう見守るか、在宅での生活をどのようにサポートしていくかという課題は、CRMの概念でいう「顧客との継続的な関係構築」と非常に近い構造ということでした。私たちが目指すCCRMは、患者さんが病院に来た時だけでなく、在宅での生活を含めた空白期間における継続的なケアを重視します。このコミュニケーションのプロセス自体が貴重なデータとなり、予防医療や未病の領域に貢献すると考えています。IT業界でCRMが一大産業に発展していく様を見てきたように、医療業界でもCCRMの概念が新たな産業として確立される可能性を信じています。

AIが切り拓く
非同期オンライン医療

── AI技術を医療に導入するという発想は、どのような体験から生まれたのでしょうか。

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