IoT活用でコンポストを楽しく 社内外で新規事業に挑戦する修了生

大手製造業に勤務しながら、個人でIoTセンサを使ったデジタルコンポスト「コンポスペット」の事業開発を行なっている濱谷政士氏(事業構想修士)。事業構想大学院大学の2年間で「自分は何をやりたいのか」を突き詰めて考え続けたことが、現在の挑戦に繋がっていると話す。

濱谷 政士 ブラザー工業 新規事業推進部 技術推進1グループ シニア・チームマネジャー、コンポスペット代表、事業構想修士

生ごみを微生物の力で分解し、堆肥化する「コンポスト」。古くから存在する技術だが、社会全体の環境意識の高まりやSDGsといったムーブメントを背景に、近年改めて注目を集めている。ただ、やり方がわかりにくい、においや虫が心配、置く場所がないといった点が課題となり、なかなか普及は進んでいない。

こうした課題解決を目指したユニークな製品が、IoTセンサを使った新しい室内用コンポスト「コンポスペット」だ。コンポストの中の微生物の活動状態をセンサで把握し、アプリ上で確認することができ、さらにデジタルペットの「ボルボックスくん」が堆肥化のアドバイスをしてくれる。また、容器の二重構造と光触媒による消臭機能で、においを気にせず室内で使えるようにしている。

IoTセンサを使った新しい室内用コンポスト「コンポスペット」

クラウドファンディングサイトの「CAMPFIRE」で支援を募り、約1ヶ月で目標金額を達成。3月頃のプロトタイプ開発、年内の正式リリースを目指している。

クラウドファンディングサイトの「CAMPFIRE」で支援を募り、約1ヶ月で目標金額を達成

自分自身を見つめ直した2年間

開発者の濱谷政士氏は愛知県名古屋市在住、プリンターやミシンの製造販売を行うブラザー工業に長くエンジニアとして勤め、現在は複業という形でコンポスペットの開発を行っている。事業構想大学院大学での学び直しが自身の転機になったと濱谷氏は話す。

「入社以来レーザープリンターの開発に取り組んできました。この数年はマネージャーに就き、新商品開発チームを立ち上げたりしましたが、なかなか成果が出ないことが課題でした。自分に何か足りないことがあるのではないか、社外に出て学び直そうと考え、事業構想大学院大学名古屋校に一期生として入学しました」

2019年4月の入学からの2年間を、濱谷氏は「一言で表すならばカルチャーショック。本当に学びしかなかった」と振り返る。

「自分の知っていることは狭すぎたと痛感しました。例えば少子高齢化や地方創生という言葉や事実は“ただ知っている”だけで、自分ごととして腹落ちしていませんでした。新商品開発もこれまではプロダクトアウト型の発想で、社会を変える、社会に良いインパクトを与えるという事業構想的な視点はありませんでした」

多様な教員や同期、社会課題の第一線に立つゲスト講師との交流を通して、「大学で初めて今の日本を知り、『自分は何をやりたいのか、何ができるのか』を突き詰めて考えるようになりました」という。

こうしたマインドセットだけでなく、新規事業の立ち上げやフィールドリサーチのロジカルな手法を身につけられたことも大きかったという。

「特に、ゼミの西根英一特任教授(ヘルスケア・ビジネスナレッジ代表取締役社長)には大きな影響を受けました。先生の専門はヘルスケアでしたが、あらゆる分野に応用できる方法論を身につけられ、今までの事業開発でのもやもやを取り払うことができました」。同期についても「同じ方向を向いた人がこれだけ集まること、年代も職種も、スキルもバラバラな人たちが肩書を取り払って学びあえる環境は、すごく充実していました」と話す。

消費社会から循環型社会へ

濱谷氏は現在、2つの新規事業開発に挑戦している。ひとつはブラザー工業での空気清浄機開発プロジェクトで、大学での研究成果を社長にプレゼンして新規事業部門に異動し、事業開発に取り組んでいる。そしてもう一つが、社外でのコンポスペットの開発だ。

「2年間、自分自身を見つめ直して辿り着いたのは、自分はモノづくりが好きだということ。でも、モノは必ず壊れてしまいます。つまりモノづくりは“ゴミづくり”に繋がっている。作って終わりのものづくりから脱却し、『つくって、つかって、使い続けるサイクル』を創造して消費社会から循環型社会への転換を図りたい、そのための新製品や新サービスを提供していきたいと考えるようになりました」

そんなときに出会ったのがコンポストだった。

「とにかく面白いんです。燃えるごみの量が明らかに減り、生ごみが分解される過程で温度が上がって湯気も出たり、ペットのような愛着が湧きます。コンポストを実施してから家庭菜園を始めたり、環境に優しい買い物をするようになったり、生活も大きく変わりました。ただ、コンポストはにおいが出るため屋外で使用する必要があり、屋外だと虫が発生してしまう。なんとかできないかと考えて、大学院修了間際の2020年3月に、IoTとアプリで管理できて、『デジタルペット』としても親しみを持てる室内用コンポストサービスを着想しました」

スタートアップスタジオなどを活用してプロジェクトメンバーを募り、すぐに事業開発をスタート。大学院で知識として身につけたユーザー調査などを実践し、行政や企業の支援プログラムも活用しながら試作品を開発、ビジネスプランコンテストに出場してフィードバックをもらい製品・サービスを改良することを繰り返した。クラウドファンディングが成功し、まもなくプロトタイプを支援者に届ける。

「銀行に事業計画を提出して借り入れをしたり、普通の会社員では味わえない苦労を修了後の2年間でたくさん体験しました。先生や同期にもたびたび相談し、支援をしてもらっています」と濱谷氏。

コンポストペットは濱谷氏にとって循環型社会への転換を目指す製品・サービスの第一弾であり、「川上ではなく川下から、身の回りの生活を変える製品にこだわっていきたい」と言う。「製品を作る過程を含めて、ゼロ・エネルギー化にチャレンジしていきたいと思っています。こんな考え方ができるようになったのは、やはり大学院での研究と学びがあったから。社会変革を目指して、会社員としても個人としても挑戦を続けていきたいです」と濱谷氏は笑顔で語った。