産官学の有識者で検討 再生医療の産業化に必要な要素とは

日本が再生医療で世界をリードしていくための課題をふまえ、そのための構想を考える「再生医療で描く日本の未来研究会」の第1回会合が7月25日、東京都内の事業構想大学院大学で開かれた。来春までに5回の研究会を開き、提言をまとめる。

研究会では、日本が再生医療で世界をリードしていくための構想を5回にわたって考えていく

2040年のあるべき姿から
バックキャスティング

研究会は、「再生医療の産業化」「再生医療の普及」「国民負担の在り方」「再生医療の価値」「国民の理解向上」などをテーマに取り上げ、政産官学が連携し、今後の社会の一翼を担う構想を考えていくことを目的に設置した。「再生医療が一般的な治療選択肢として社会実装される」「日本が再生医療で世界をリードし、再生医療を輸出産業としている」「再生医療で培われた要素が科学技術の次なるイノベーションを生み出す新科学技術立国となる」の3つのゴールが実現している2040年からバックキャスティングし、2030年頃には何ができていなければならないかという観点で議論を重ねていく。

事業構想大学大学院が事務局を務め、参議院議員の古川俊治氏、日本再生医療学会理事長 岡野栄之氏(第1回研究会は、代理として同学会理事・藤田医科大学医学部准教授の馬渕洋氏が出席)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授の後藤励氏、日本総合研究所理事長の翁百合氏、再生医療イノベーションフォーラム会長の志鷹義嗣氏の5名で本研究会の委員を構成。また、内閣府、厚生労働省、経済産業省、文部科学省の担当者がオブザーバーとして参加している。

再生医療を
取り巻く現状について

古川俊治 参議院議員

まずは、議論のたたき台となる再生医療を取り巻く現状について論点を整理するため、3人の演者が講演を行った。「日本における再生医療のこれまでとこれから」の演題で講演した参議院議員の古川俊治氏は「これまでの再生医療の製品は、体性細胞や体性幹細胞を活用したものが中心であったが、細胞の不均一性、使用可能な細胞数に制限があるなど制約が多い。そこで患者自身の細胞から作れるため拒絶反応が起こらず、かつ様々な細胞に分化でき、無限に近い形で増殖させられる多能性幹細胞(iPS細胞)への期待が高まっています。また、誰に移植しても拒絶反応が少ないユニバーサルiPS細胞の開発も進んでおり、この領域で日本が世界をリードできる可能性は高い」と述べた。

また、今後については「自家(患者自身の細胞をもとに増やす)でつくること、組織・臓器への再生へと導くことが期待される」と話した。一方で産業化をふまえた課題として「いかに大量培養するか」「価格をどうするか」の2点を挙げた。特に後者については「再生医療等の製品の多くは非常にコストがかかるため、健康保険適用と保険外治療の併用を認めるなどの配慮が必要だ」という。

松尾泰樹 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局事務局長

次に内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局事務局長の松尾泰樹氏が「再生・細胞医療・遺伝子治療をめぐる政策動向について」のテーマで講演。現在はiPS細胞を使った再生医療の実用化の支援のなかでも、特に大学の持つシーズを外に出し事業化していくことに注力している現状を説明した。スタートアップ5カ年計画では、2022年10月から活動を開始し、人材、資金、オープンイノベーションを組み合わせて支援、再生医療を含む創薬スタートアップ投資に3000億円の資金を用意したことについても触れた。

ただ、事業開始の後、産業化・実用化に導いていくための資金確保が課題となり、その為には民間企業の資金力も必要と見ている。「大学を中心としたエコシステムを強化することが急務」であることも強調した。

佐野圭吾 厚生労働省 医政局 研究開発政策課 再生医療等研究推進室室長

また、厚生労働省 医政局 研究開発政策課 再生医療等研究推進室 室長の佐野圭吾氏が「再生医療を取り巻く現状について」のテーマで、研究促進のための法整備と研究支援の状況について説明。再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにすべく2013年5月に施行された「再生医療等安全性確保法」について、「再生医療の提供については、リスクにより分類され、高リスク(ES細胞、iPS細胞等など)、中リスク(体制幹細胞)、低リスク(体細胞)に分け、リスクに応じ手続きを定めている」と解説した。再生医療等提供計画の件数は2023年5月末時点で治療が5198件、研究が106件となっている。2022年6月には法改正に向けた取りまとめを公表し、細胞加工物を用いない遺伝子治療(in vivo遺伝子治療)に対する規制を検討していることにも触れた。

細胞の質の担保、
価格制度について

この後、意見交換が行われた。細胞の質の担保について、馬渕氏が「細胞は生きているものなので各過程でトレーサビリティを確保するためのプロセスの標準化も求められる」と述べたほか、藤田医科大学橋渡し研究支援人材統合教育・育成センター教授の八代嘉美氏は「細胞の性質をしっかりと理解して開発ができる人材が少ない。そのような人材を育成するアカデミックな場所を検討してほしい」と要望した。志鷹氏は「細胞は“Process is Product”であり、プロセスの最終化は製薬企業に経験がある。ある一定のところまでできたら製薬企業に頼った方が国民に早く届く」と述べた。

また、再生医療等製品の価格について翁氏は「古川さんが、イノベーションと親和性のある価格制度を考える必要性について触れたが重要な視点です。現状を見ると、価値の低いものが保険対象となっており何を保険対象とするのかの議論も必要。保険外併用療養制度についてもしっかりと考えていく必要がある」と指摘した。古川氏は「従来の仕組みは、すべて保険に入れる考えであったが、医療の財源が限られていることもあり、どのようにGDPを上げて医療財源を増やすのか、という観点で議論を進めることも重要」だと述べた。また後藤氏は、「製薬や医療機器は貿易赤字が大きいという話もあるが、ヘルスケアセクターの収支ははっきりしない部分もある。ルールを決めて知の部分とモノの部分のバランスを評価ができたら良いと考えている。OECDでも同様のものを作ろうとして頓挫しているが、再生医療についても必要と考える」と語った。

最後に古川氏は、「皆様と集まり議論する以上は、成果を必ず出したいと強く考えている。この成果が、速やかなイノベーションにつながることを期待する」と本研究会に期待する思いを述べ、第1回が閉会した。

再生医療の産業化に焦点を当てた第2回は9月に開催される。