まちも人も自然の力で元気に 薬草事業で地域循環をつくる

岐阜県飛騨市は地域資源の薬草に着目した地域づくりを続けている。その中で、薬草を事業に結びつけ、市と民間を繋ぐ役割を果たしている岡本文氏がいる。彼女の薬草との出会いと地域での活動から、コロナ社会で「生きること」、「地域が循環すること」のヒントを探る。

聞き手 : 高橋 恒夫 事業構想修士

 

岡本 文 飛騨市薬草ビレッジ構想プロジェクトマネージャー

飛騨市は富山県境に近い岐阜県北部の市である。森林が面積の9割以上を占めている中、同市には245種類もの、体に有効な成分を含有する植物が自生しているという。住む人々はその薬効を自然と体に取り入れて暮らしてきた歴史があった。同市が2004年の市制を敷く前の旧古川町、旧河合村においても薬用植物調査や薬草の栽培が行われていた。

花から生きる力を知る
薬草との出会い

岡本氏は大学卒業と同時に2006年に都市銀行に就職した。お客様の夢に向かって一緒に考えていく個人営業の仕事に誇りを持っていたものの、いつしか心身ともに疲労が溜まっていた自分に気が付く。そんな時、花を見ることで心を落ち着かせていた彼女が選んだ道は花屋への転身だった。2012年に銀行を退職すると、友人の紹介で渡仏、2年半の間に5か所の花屋で装飾などを学んだ。

「フランス人の男性が花束を抱えている光景が素敵だった」と彼女。花が街中に溢れ、生きることを楽しむ人々の姿にも心を動かされ、植物の力が生きることの原点だと感じた。

帰国後も都内の花屋で仕事をしていたが、2018年、岡本氏は、岐阜県飛騨市の薬草料理を出す老舗旅館「蕪水亭」の記事を見た。「薬草料理ってどんな味だろうか」。興味津々の彼女は、居ても立っても居られず飛騨市に向かった。出された薬草料理は、独特の風味、苦味が肉や魚料理に美味しく味付けされていた。「一般の会席料理と変わらず美味しかった」。旅館のご主人の薬草の説明に彼女は益々入り込んでいく。薬草は自然に生えている雑草、「それなのに、料理に使えるばかりか体を元気にする不思議な力がある」と岡本氏は薬草に魅かれた。

岡本氏は、飛騨市が薬草を活用して地域づくりをする「飛騨市薬草ビレッジ構想」実現のために、地域おこし協力隊(以下協力隊)を募集していることを知った。同構想とは、「薬草が人を健康にし、人が自然を守り、自然が薬草を育む」循環の中で、薬草を体感する。つまり、収穫する、知る、食べることを人々の暮らしの中に取り入れるものである。

岡本氏は、「植物の力で自分自身が元気になりたい」とともに、「捨てられてしまう雑草が実は素晴らしい地域資源になる」という飛騨市の考え方に共感し、住んでいた千葉から移住、協力隊の一員となった。

薬草への関心を広める
ことに注力した3年間

岡本氏は2018年に協力隊になると、飛騨市内をひたすら回り、あらゆる地域グループの活動に顔を出した。飛騨市の薬草ビレッジ構想である「薬草を取り入れる暮らし」、「健康づくりと薬草」について、地域の方と考えを共有することに力を注いだ。

「極端な話、1人1人に会って、その人に必要な薬草を見つけてあげたかった」と彼女。しかし、考えを共有できるのは、その人が薬草に興味を持ってこその話だ。つまり、無関心層をいかに巻き込むかに苦労したそうだ。

そうした中、ある地区の老人会が薬草の種類や効能などに強い関心を持ってくれた。「ほんの一握りだけど、手ごたえを感じた」と岡本氏。

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