自治体の脱炭素エネルギー調達 選択肢と注意点、成功事例
脱炭素に向けて、全国の自治体で再生可能エネルギーを導入する動きが加速している。自らの組織が使用する電力を、100%再生可能エネルギー由来のものに切り替える際にはいくつかの選択肢がある。具体的な再エネ導入の手法や留意点、全国の自治体における事例などについて解説した。
再エネを調達する6つの手法
環境省が進める「脱炭素先行地域100選」の認定獲得を目標に掲げるなど、脱炭素の取組を推進する機運が全国の自治体で高まっている。再エネ導入のDXを推進する企業、デジタルグリッドのプラットフォーム事業部 REC Manager 池田陸郎氏はまず、このような現在のトレンドを紹介。これをふまえ、企業において国際的な再生可能エネルギー調達のベンチマークになっているRE100(企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)に準拠した再エネ調達手法、すなわち「このやり方であれば再エネを100%調達していると言ってよろしい」とされる6つの方法を説明した。
その6つとは以下の通り。(1)企業が保有する再エネ発電設備による発電、(2)企業の敷地内に設置した、他社が保有する再エネ発電設備からの電力購入、(3)企業の敷地外に設置した再エネ発電設備から専用線を経由して直接購入、(4)企業の敷地外に設置した再エネ発電設備から系統を経由して直接調達、(5)電力小売との契約、(6)再エネ電力証書の購入。
再生可能エネルギーの導入方法
RE100 における再エネ活用の履行方法(技術要件)。脱炭素を目指す企業では、6つの方法からRE100の達成方法を選ぶ。実際には複数の方法を組み合わせることが多い
このうち(1)~(3)については「敷地内、敷地外問わず発電設備から出てきた電気が最終的な需要拠点に対して直接的に供給されるようであれば、再エネを使用しているということが言えます」と述べる一方で、(4)や(5)のように系統を経由する場合「逆潮流(系統連系している設備から発電した電力の全てまたは余剰電力分を系統へ逆流させること)をさせるための系統連携が難しい場合があります。耕作放棄地に太陽光パネルを置いたり、風力、水力発電設備を整えたからといって、再エネを使っていることにはならないケースがあるので注意してほしい」と呼び掛けた。
また(6)については「化石エネルギーから流れてくる電気を使っていたとしても、それと同じ量の非化石エネルギーを流通できるように証書化した環境価値を買うことによってできる再エネ価値創出の仕組み」と説明し、具体的にはJ-クレジット、非化石証書、グリーン電力証書がある、と説明した。
全国自治体における
先進的な再エネ導入事例
池田氏は次に、全国の自治体における先進事例を紹介した。1つ目が、神奈川県小田原市における「住宅環境価値のクーポン還元システム」だ。太陽光パネルを家庭に設置した市民が自家消費した分の電気を市が一元的に束ね、地域の電力会社の再エネ電力と合わせて環境価値として見える化。この環境価値を求める店や企業につなぐことで、店や企業が100%再エネを利用できるようにする仕組みだ。
2つ目が、京都府、京都市の連携による「京都0円ソーラープログラム」。太陽光パネルを設置したいが設置やメンテナンスにかかる費用を高いと考える家庭や事業所に対し、「ゼロ円ソーラー事業者」がそれらの費用を負担して設置する手法だ。事業者は発電した電気を購入する際の電気代で費用を回収するため、住民、事業所はゼロ円で自宅へ太陽光パネルを設置できる。10~20年の契約期間終了後はパネルが住民、事業所へ無償譲渡される。これについて池田氏は「再エネを地域に増やしていくための有効な手法です」と評価する。自治体と事業者が連携してこうした手法を推進することも可能で、そうしたアドバイスは同社でも行っているという。
3つ目が、ふるさと納税「電力」の返礼品だ。地域の再生可能エネルギー由来の電力をふるさと納税の返礼品とし、ふるさと納税で地元の電気を得たい人は、再エネ電力を扱う新電力会社等と契約することで自分が寄付する自治体から電力の供給を受けられる。支払う電気料金のうち、寄付額の3割までの金額を割り引く仕組みだ。新電力会社を地域に設立する場合、電力の需給管理のハードルが高いこと課題だが、そうしたバックヤードのソリューションサービスについてもデジタルグリッドでは提供しているという。
4つ目が、「補助金によるEVの導入と再エネ充電による脱炭素化」。2021年度補正予算と2022年度予算(原付など)にてCEV(クリーンエネルギー自動車)への補助金が設けられた。「EVの充電に再エネ価値を用いることで、当市の車両は再エネ100%で走行しています、というようなことをアピールできるのです」と、同氏はメリットを強調した。
最後に紹介したのが、京都市が4月に発表した「非化石証書の購入による庁舎電力の再エネ100パーセント実現」で、全国初の事例だ。入札により、仲介事業者を通じて490万kWh分の非化石証書をkW当たり0.44円で購入した。この京都市の事例の場合、490万kWh分の電力がどこの電源から生み出されたものかを記した非化石価値販売証明書が制度の事務局であるJEPXから発行されている。証書は温対法における排出量の削減調整の書類として活用することができる。
民間との連携で課題を解決
池田氏は「自治体がこれから脱炭素を地域で進めるうえでの課題は山積しています。どう再エネを調達したらいいか、また太陽光パネルをどこに設置しその電力はどうするかなど、推進していく上での情報と解決手段・技術がないためです」と現状を分析。これらの課題は「民間と組むことで前進することが可能」と言う。
ただ、環境コンサルや新電力など、個別の企業ではサービスを網羅して提供できないケースがある。池田氏はデジタルグリッドの強みは、足りないピースを補いつつサービスを提供できる点だと考えている。「例えば再エネ調達の基礎情報に関するレクチャーから、CO2排出量の算定、市内における再エネ調達の計画立案、市民や事業者の再エネ調達、地域の森林資源等のCO2吸収量などの可視化など、最終的にCO2ゼロのまちづくりを実現するストーリーを網羅的にお手伝いし、伴走することができる」と話した。