過疎地と企業の活性化を目指す シェア型保養所「カクレバ」

マンションやホテルのインテリアデザインを手掛けるデザインクラブ(神戸市)。代表取締役社長の小川千賀子氏(事業構想修士)は、過疎地の空き家問題を解決するため、古民家シェア型保養所「カクレバ」を考案。今年4月から本構想のサービスを開始した。

小川 千賀子 デザインクラブ代表取締役社長、
事業構想修士(大阪校4期生/2022年度修了)

個性豊かな教授陣や同期と
事業アイデアを「壁打ち」

かつては企業の福利厚生の代表格だった保養所。従業員であれば割引料金で利用できることから家族旅行として人気を集めたが、バブル崩壊以降は保養所を手放す企業が相次いだ。コミュニケーションのあり方を再構築しようと考える企業と、里山の空家を結びつけて、過疎地と企業を同時に活性化させる古民家シェア型保養所「カクレバ」構想に取り組むのが、デザインクラブ代表取締役社長の小川千賀子氏だ。

過疎地にある古民家を再生した新型保養所「カクレバ」

小川氏はリクルートで情報誌などのメディア運営に携わったのち、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)でマンションのインテリアデザインに従事。その後、リフォーム会社やマンション管理会社を経て、新築マンションの顧客別自由設計システムを独自に構築。同システムを事業化するため、兵庫県中小企業振興公社(現ひょうご活性化センター)の出資を受けて、1998年に住宅やホテルなどのプランニング・デザインを手掛けるデザインクラブを設立した。これまでにデザイン等に携わったホテルは全63棟9127室に達する。

事業構想大学院大学大阪校に入学したのは2021年4月のこと。経営者として数多くのキャリアを積んできた小川氏だが、「会社設立から25期という節目を控え、来るべき事業承継を意識したことや、次の世代に託す上で新しい事業の柱が必要だと考えていたところ、新聞広告を目にして入学を決意しました」と振り返る。

住まいに関わる事業者として、かねてから過疎地の空き家問題に関心を持っていた小川氏。コロナ禍でのリモートワークの普及を機に、社内コミュニケーションが希薄化する企業が増えていることを知り、「カクレバ」の構想につながった。これを具現化するために、2年次はパナソニック元役員で新規事業立ち上げの経験も豊富な竹安聡教授のゼミに所属した。「竹安先生からは論理的思考や新規事業に取り組む上での姿勢などを学びました。実際に事業が走り出した今、実務家である竹安先生が発した言葉の数々が身に沁みています」

大学院での生活や同期についても、「医師や小学校の校長、市議会議員、テレビ局社員など、本学でなければ出会うことがなかったであろう個性豊かで素晴らしい仲間に恵まれました。単にネットワークが広がっただけでなく、上下・左右・斜めの重層的な関係を築きながら、事業アイデアの壁打ちができる先生方と同期の存在は私にとって一生の宝物です」と微笑む。

恒常的な人流循環を生み出す
「カクレバ」構想

修了時に提出した事業構想計画書では、空き家の売却でも賃貸でもない第3の⽅法として「カクレバ」の構想をまとめた。法人契約をすると、福利厚生として庭付きの古民家を一棟貸し切りで利用できるサービスとし、自然と古民家を併せ持つ「地域」に、社員同士の関係性を醸成する「場」として提供することで、都心と地方に恒常的な人流循環を起こすことを狙いとしている。小川氏は、自身が日常の中に大学院という「非日常」を取り入れることで多くの刺激を受けたように、「若手社員も懐かしさと非日常性を併せ持つ古民家に集うことで、会議室では生まれないアイデアの創出や、チームとしての団結力強化につながるはずです」と力を込める。

今年3月に大学院を修了後、早速5月から兵庫県神河町、岐阜県高山市の2地域4棟でサービスの提供を開始した。今後は兵庫県朝来市生野町でも計画している。

「カクレバ」は兵庫県神河町、岐阜県高山市の2地域4棟でサービスの提供を開始

「清掃やリネンの取り替え、鍵の受け渡しなどの維持運営業務はすべて地域の方に委託しています。一方、食事については、持ち込み、自炊、近隣の飲食店で食事をするという3パターンから滞在者に選択してもらう形にしています。今後は地域の自治協議会や婦人会と連携し、地域食材を使用した料理をお母さん方が作って提供するという4つ目の選択肢を用意することで、滞在者と地域の方の交流を促し、地域経済の活性化につなげたいと考えています」

外国人の視点も取り入れ
構想にさらなる磨きをかける

大学院修了後も構想のブラッシュアップを続けてきた小川氏は、現在、会社以外の場でリアルに集まって議論することで生まれる効果についてリサーチを進めている。

「今の大学生はコロナ禍で対面でのコミュニケーションの機会が減り、人との心理的・物理的距離を感じながら過ごしてきたため、どの世代よりもリアルに人と会って本音で語り合える場を大切に考えています。そんな彼ら彼女らに本構想への意見を求めると、『社員同士の交流を図るために、家でも職場でもないサードプレイスを用意している会社にはとても好感がもてるし、そういう会社に就職したい』『しかも、そうした場所がホテルでも研修センターでもなく一軒家であることが安らげるし、自分たちが利用することで地域活性化にも貢献できるのが素敵だ』といった声が多く上がり、構想の方向性に間違いがないということを確信しました」

従業員のエンゲージメントを高めるためには、報酬や待遇を上げるだけではなく、社員同士の関係構築を支える仕掛けを用意することが重要だと考える小川氏は、今後は「カクレバ」の必要性を裏付けるデータを収集・分析し、企業に向けて効果的なPR活動を実施していく考えだ。

最後に、小川氏は将来の展望について次のように語る。

「空き家活用の成功事例の多くは、観光地やディベロッパーが開発を手掛けた場所であり、人口流出が止まらない自治体ではあまり成果が上がっていません。しかしながら、豊かな自然の中に古民家が点在している景色は日本の美しさでもあり、今後も守り続けなければならないと思うのです。最近では外国人観光客の間で里山の何気ない風景への関心も高く、外国人の方が里山の価値を高く評価していると思います。今から100年後の次世代の人達に、『この日本家屋と風景を残してくれてよかった』と言ってもらえることを目指しています」