地域交通を持続可能に 自宅から2km圏の移動を再設計
アフターコロナ時代、地域のくらしを支える地域交通を持続していく仕組みづくりが喫緊の課題になっている。国土交通省では、コミュニティを起点としたリ・デザインにより、持続可能性の実現を検討している。地域交通における官民、他分野の共創について、今後の政策を解説する。
アフターコロナの地域交通
2011年の東日本大震災、2020年からのコロナ禍を経て、地方の人口減少と社会の少子高齢化に拍車がかかった。これは、人々のくらしや価値観にも影響を与えている。
このような中で、国土交通省 総合政策局 地域交通課長の倉石誠司氏は「地域の交通を考えるとき、日常の登場人物を増やす、という新しい観点で考える必要があります」と話す。
例えば、神戸市長田区にある、多世代型介護付きシェアハウス。入居人は高齢者のほか、シングルマザー、アーティスト、外国人など多種多様。学校帰りの子どもたちが遊ぶスペースもあり、入居している高齢者が近隣の人々と自然と触れ合える、地域のコミュニティが生まれている。
「これまで、外出せず家にこもっていた人たちが、どんどん外へ出ていく仕掛けを作る。それにより、地域の住民が日常で接する『登場人物』は増やせます。住民が住みたいと思うまちになればなるほど、地域のインフラを支える業者も住民も利益を得られる関係を実現すべきです。すなわち、1つのエリア、地域を盛り上げていく場づくり、空間づくりを持続可能なビジネスとして行っていく。アフターコロナの地域交通は、そうした視点も踏まえて考えていく必要があるかと思います」。
東日本大震災、コロナ禍を経て、それぞれが暮らしている周辺、地域コミュニティを原単位とした社会が、より重要となっている。
「地域交通で言えば『ちょい乗り』の自宅から1~2km圏内。買い物、近所の病院、介護施設、子どもの学校・塾への送迎などが該当します。ここで、自分で自家用車を走らせられなければ外出できない状況を変えなければなりません。これは、地域における登場人物を増やしていく文脈でも非常に重要です」。
人口減、少子高齢化が進むなか、世界はSDGsへ、企業はESGへ向かう。そして、政府は『新しい資本主義』を掲げ、官民の共創や『デジタル田園都市国家構想』を推進し、地方からのボトムアップでの国の成長を目指している。
「こうした変化、時代の潮流を捉えつつ、アフターコロナの地域交通を考えていく必要があります」。
ファーストワンマイルの発想
2021年11月、国土交通省は、地域交通の持つ価値や役割を見つめ直し、移動サービスの質・持続性を向上するため、「アフターコロナ時代に向けた地域交通の共創に関する研究会」を設置した。交通のネットワークを木になぞらえると、幹は飛行機や新幹線など、枝はローカル鉄道や幹線バス、そして葉がタクシーやデマンド交通などとなる。
図1 地域の活力のカギは「葉の交通」
交通のネットワークを木になぞらえた国土交通省の「アフターコロナ時代に向けた地域交通の共創に関する研究会」資料
同研究会では、ファーストワンマイル(自宅から最初の移動)を発想の起点とし、主に「葉の交通」について、多様な主体の共創を実践することで、くらしのニーズに基づく持続可能な交通を実現するモデルを研究する。
「これまで、幹から枝、葉へというベクトルで、『ラストワンマイル』と呼ばれてきました。しかし『ファーストワンマイル』にもしっかりと目を向ける必要があります。地域のくらし、そのための生活交通をどうしていくか。ファーストワンマイルは今後、どんどん大事になっていきます」。
地域の足を充実させるためには、多様な主体の共創が重要だ。同研究会では、コミュニティ、ガバナンス、ファイナンスの3つの切り口から地域交通を議論。ニューノーマルにおける新たな移動需要創出の観点や、コミュニティを核として地域のくらしを充実させる観点から、官民や医療・介護、子育て・教育、商業、エネルギーなど、他産業の垣根を越えた取組みや、移動目的を生み出すまちづくり全体から交通を捉えた取組みを、共創の発想で進めていく。
例えば、香川県三豊市では、「ちょい乗り」サービスを地元企業で共創して支える仕組みを作り、実証実験をスタート。群馬県前橋市では、交通事業者6社が共創する共同経営を実現した。同市ではデジタル基盤整備をベースに個別最適化した交通サービス「MaeMaaS」を展開している。
研究会では2022年3月に中間整理を行い、様々な事例をまとめているところだ。また、国土交通省では、2022年4月から「共創モデル実証プロジェクト」として、交通を地域のくらしと一体で捉え、行政や金融機関と連携して取組む、様々な分野(エネルギー、医療、教育など)との垣根を越えたプロジェクトを募集。審査選定を経て、この夏から全国のモデル事業がスタートする。
地域交通の〈リ・デザイン〉
また同研究会では、2022年3月の中間整理を経て、「アフターコロナに向けた地域交通の〈リ・デザイン〉有識者検討会」を立ち上げた。
図2 アフターコロナ時代の地域交通のミッション
有識者会議では①官民共創、②交通事業者間共創、③他分野共創の大きく3つを議論。地域交通を持続可能な形で〈リ・デザイン〉する方策を探る。
官民共創では、意欲ある地域・自治体と事業者等が、能動的に安定的な交通サービスの提供を実現するための制度設計について検討。路線ごとではなくエリア、面で捉えた補助予算の設定や、交通事業者の経営努力、収支改善努力に対するインセンティブの設定。官民共創での取組みに対する、国としての複数年での支援などを検討する。
交通事業者間の共創では、共存をキーワードにバスと鉄道とタクシー、バス事業者相互間などで、垣根を越えた交通サービスの展開を図る。
さらに他分野との共創では、エネルギー、医療、教育など、くらしに関わる産業領域が一体となって支える地域交通について考える。三豊市では、例えば、月額6万円で、ベーシックなインフラを享受できる「ミニマムグリッドモデル」などの展開を目指している。
「地域交通は、あくまで地域でデザインする交通ですが、国としてどんな支援ができるかを検討し、制度に落としこむことで、そうした動きをサポートしていきたいと思います」と倉石氏は話した。