官民の取り組みで地域価値向上を実現

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、政府は今年6月、「地域脱炭素ロードマップ」を公表した。ロードマップでは、官民連携による脱炭素への取り組みを通じた地域価値の向上を目指している。

飯野 暁(環境省地域脱炭素政策調整官補佐)

2021年夏に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が公表した「第6次評価報告書」の「第1作業部会報告書」は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたこと」について「疑う余地がない」とし、従来の報告書より確度を上げた。

さらに今世紀半ばまでは、どのようなシナリオでも気温上昇は続くとしながらも、温室効果ガス排出量を大幅に削減すれば、平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃未満程度に抑えられる可能性が高いとした。

「このような中、我が国も2050年度のカーボンニュートラル、そして2030年度の排出量46%削減(2013年度比)という目標を掲げています。また、今年6月に決定した『地域脱炭素ロードマップ』の実施で、脱炭素を通じた地域価値向上や地方創生を目指します」。

環境省地域脱炭素政策調整官補佐の飯野暁氏は、こう語る。国内ではこれまで、490以上の自治体が2050年の「ゼロカーボンシティ」実現を宣言しているほか、大幅な排出削減目標を設定する企業も増えている。「自治体の方々にはぜひ、地元の企業に『一緒にやりましょう』と働きかけていただきたいです」と飯野氏は呼びかけた。

地域共生・地域裨益型の再エネ事業を推進

「地域脱炭素ロードマップ」では、まず2030年までは既存の技術をフル活用し、できることから実行するとしている。例えば、未利用の場所における再生可能エネルギーの最大活用や、使用済み製品のリユース、資源循環の促進、住宅・公共施設の省エネ性向上、再エネ電力を使った電気自動車(EV)のカーシェアなど様々な重点対策を実施していく。さらに、全国で100カ所以上の脱炭素先行地域を創出する目標も立てている。脱炭素先行地域では、それぞれの地域特性に合わせ、脱炭素に向かう取り組みを先行して実施する。

「一番大事なことは地域価値の向上で、そのために国の補助金を使ってほしい。環境省だけでなく、他の省庁の出先機関も一気通貫のサポートをしていきます。自治体や金融機関、中核企業の方々にはエリア単位で、業種業態を超えて連携して取り組んでいただきたいです」。

再エネ事業では、収益が地域内に留まって地域課題の解決に活用され、地域価値向上に役立つ「地域共生・地域裨益型の事業」を推進する。また、全国的な「脱炭素ドミノ」を起こすためには、従来の枠組みの転用ではない「追加性」を織り込んだ事業設計も求められる。

「政府も率先して行動していく。例えば、2030年度までに太陽光発電を設置可能な政府及び自治体の建築物などの50%以上で、実際に発電の設備を導入していく方針です。これは、2030年度までに6ギガワットの追加的な再エネの導入に相当します」。

2022年度予算では、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」として200億円を、財政投融資では「脱炭素のための新たな官民ファンド」として200億円を要求している。また、二酸化炭素(CO2)排出削減の度合いに比例した補助金を通じて、中小企業等の脱炭素設備投資も支援する方針だ。

「企業の方には、地域を元気にして自分たちの事業活動の生産性を上げるため、国の補助金も使うという目で見ていただきたいです。環境省は皆さんと一緒に、官民協働で地域脱炭素を実現します」。