大阪市とテックタッチの官民連携実証 現場とデータが主導する業務改革
人口減で職員確保が困難になる「2040年問題」を前に、自治体は限られた人員で行政サービスの質を維持・向上する必要に迫られている。鍵となるのは、システム導入後の現場定着(DAP*1)と、市民ニーズの的確な把握(EBPM*2)の2つだ。大阪市とテックタッチは、連携協定に基づき、これらに正面から挑んだ。
*1: DAP(Digital Adoption Platform)… 導入システムの定着・現場活用を促進するデジタル支援基盤
*2: EBPM(Evidence-Based Policy Making)… エビデンス(データ・統計)に基づく政策立案
構造的課題を抱える自治体現場
その解決策を探る
デジタル化の恩恵を自治体・地域社会が享受する際に、立ちはだかる2つの大きな壁がある。1つは、行政現場において、職員が情報システムを十分に活用できないこと。多くの自治体では2〜3年ごとに、部門の範囲を超えた大幅な人事異動が行われる。一方で業務システムは、設計から教育、リリースまでが一つの調達に束ねられ、複数年に跨って実施されることが一般的だ。このため、利用に習熟する前に異動あるいは更新になる、操作性の改善の際に現場の声が反映されにくい、といった問題が生じがちだ。このギャップは、構造的な行政課題となっている。
もう1つが、住民の声を政策立案に活かせないこと。SNSやデジタル世界の口コミなど、多くの意見があふれる中で、今も行政が住民の声を拾う手段は年1回のアンケートや問い合わせフォームに偏りがち。日常の困りごとなど「見過ごされがちなニーズ」の継続的把握には限界があった。エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の要請が高まる中、AIによるソーシャルリスニングが、この空白を埋める新たな選択肢として浮上している。
大阪市とIT企業のテックタッチは、2025年9月12日に連携協定を締結。半年間にわたり、「バックオフィスDX(DAP)」と「EBPM(ソーシャルリスニング)」の並行トラックで実証を行った。この協定は特定製品の調達を前提としないオープンな枠組みとして、大阪市が募集しているデジタル技術を活用した提案に応募し、DX戦略との整合性・公共性・実現性の観点から審査・締結された。実証成果は2本の調査研究報告書として、全国自治体への知見共有を目的に公開されている。
実証で現場主導の改善を実現
SNSの声を施策の起点に
事前アンケートでは、アンケートの対象とした内部事務システムについて職員の87%が操作上のつまずきを経験し、80%がDAPのガイド機能が有用と回答した。システム開発企業4社へのヒアリングによる従来型改修の試算では、軽微な改修1件あたり約304万〜458万円のコストが発生するなど、外部委託でガイド機能を付加することの限界が浮き彫りになった。
これに対し、今回の実証では大阪市職員自らがDAPを用い、ノーコードで内製を達成。「職員自らが即座に改善できる仕組み」が技術的に成立することを確認した。2028年1月に予定される、2万人規模のシステム移行に向けた知見が蓄積された。
もう一方、EBPM実証の核心は、テックタッチが提供する意思決定支援AI「AI Central Voice」を活用し、X(旧Twitter)上の妊娠・乳幼児の子育て当事者と推定される投稿1000件をAIが構造化分析した点にある。AIは投稿を親子カテゴリと感情の軸で整理し、「課題感」「すぐにやれる施策」「抜本的に変えるための施策」の3点で素案を生成した。
抽出された具体例は示唆に富む。AIは、日常生活(食事準備・調理)の場面では、産後の体力不足で惣菜・宅食依存が常態化しているという課題が発見され、すぐできる対策として地域飲食店との連携、抜本的な改善策として産前産後の食事支援の制度化を挙げた。夫婦・家族関係の場面では、配偶者の帰宅が遅いことによるワンオペ化や寄り添い不足の心理的負担を抽出、家事シェアリングの中長期的定着を提案した。
これらAIの出力に対し、大阪市デジタル統括室職員26名へのアンケートでは、85%が「SNS/Webデータを市民の意見として扱える」、62%が「少しの手直しで根拠資料として使える」などと回答。注目すべきは、これまでの実績を重視する職員ほど、AIによる分析を「意思決定の裏付け」として高く評価する傾向が見られた点。経験に基づく暗黙知としての政策立案センスを、AIが補完・客観化する協働モデルが、行政実務の中で機能し得ることが示唆された。
留意点は、SNSデータは「一部の声」に偏りがちで代表性に課題があること、AIの出力結果に対する人間による精査の必要性、職員のデータリテラシー向上が不可欠であること。これらを踏まえ、最終判断は必ず人が行う運用が前提となる。AIが整理し、人が解釈する。この役割分担こそが、EBPMを実装可能な形へ落とし込む鍵となる。
DAPは「現場の運用力」を、EBPMは「政策の起点となるデータ」を、それぞれ底上げする。両輪が揃って初めて、データで政策を立案し、現場で確実に運用するサイクルが回り始める。テックタッチは今回の実証で得たモデルを全国の自治体へ展開する方針だ。
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