金沢市・計画や戦略、アクションプランとデジタル化の推進

金沢市では、2019年から本格的にデジタル化を推進。ICT活用推進計画を皮切りに策定された、金沢市デジタル戦略や金沢市DXアクションプラン等のもと、現在も様々な取組を進める。その内容と成果、セキュリティ対策、今後のさらなるDX推進について、自治体DXセミナーにおける講演から紹介する。

髙尾昇平 金沢市デジタル行政戦略課長

成果を生んだ
RPAやフリーアドレス

金沢市が2019年度に、2022年度までの4年間の計画として策定したのがICT活用推進計画だ。「RPA、AI-OCR、議事録AIの導入などのほか、2020年にはフリーアドレスやテレワークの導入を進めてきました」と話すのが、金沢市デジタル行政戦略課長の髙尾昇平氏である。

具体例としては、まず、災害対策基本法に則り行われていた避難行動要支援者名簿の作成を、AI-OCR、RPAを導入し自動化。約5000時間の業務時間削減を達成した。その後2022年度には100を超える業務にRPAの適用を拡大している。

フリーアドレス化については、2020年度、金沢市の第二本庁舎の開庁に合わせ、まずは第二本庁舎の全部署に導入。その後、第一本庁舎でも全部署で導入した。「デジタル化を進める大前提として、『紙が邪魔になる環境』を作る目的でフリーアドレスを推進しました。机は引き出しがない状態にし、退庁時、自分の道具や荷物はすべてロッカーの中に片付けます。半年後のアンケートで、これを快適と回答した職員は63%。コミュニケーションの活性化や生産性向上につながったとする回答も70%となりました。付随的に、電気料金や紙の印刷費用など、年間1000万円程度の削減にもつながりました」と話した。

集中的な実施へ
新しくデジタル戦略も策定

このICT活用推進計画の終了を待たず、2021年に新たに策定されたのが、金沢市デジタル戦略である。コロナ禍や国の自治体DX計画が契機となった。「この頃には国でも、デジタル庁創設が議論され、デジタル社会への意識が加速。本市においても、2021年度と2022年度で集中的にデジタル化を進めるため策定しました」。

同戦略には、大きく4つの内容が盛り込まれた。庁内横断推進本部の体制の充実、金沢市DX会議の開催、ペーパーレス会議の推進、デジタル人材の育成だ。

庁内横断組織は、従前、副市長を本部長としていたものを、市長をトップにした組織とし、デジタル戦略における各種施策の進捗管理を行った。金沢市DX会議については、大学教授や企業から6名の外部委員を招聘。DX推進についての意見や提言を行う組織を構成した。ペーパーレス会議の推進では、市長や副市長のヒアリングにおいてモニター活用によるペーパーレス化を推進。課内、係内の打ち合わせでも同様の環境を整えている。電子決裁も浸透し、「現在では押印決裁の方が稀なものになっています」と髙尾氏。2023年4月からは財務起案も電子決裁となり、市長が出張する際も出張先で決裁ができるため、金沢市では、市長の海外出張時の職務代理を置かずに業務を遂行している。

デジタル人材育成については、金沢市の全一般職2000人を対象に基本的なデジタル知識の研修を実施。さらに若手100人を、デジタル行政推進リーダーとして育成していく。「デジタル化は、私たち担当部署職員だけがデジタルに詳しくなるだけでは進まない。各業務に精通する各現場の職員が、現場発の業務改善をDXで進めることが重要であると考えています」。

毎年の自己診断テストや研修で
ヒューマンエラーを防ぐ対策

2023年度からは、2025年度までの計画として、金沢市DXアクションプランを策定した。国のデジタル田園都市国家構想を踏まえて、市の行動計画を取りまとめたものだ。基本理念を「全ての人が便利に暮らし、幸せを実感するまちへ」とし、産業、地域、文化、教育という4つを軸に、行政庁舎内だけではなく、市民サービスの向上にも力を入れている。特に3つ目の文化に関しては、「金沢には江戸時代から受け継がれる伝統文化や工芸があり、それらを、デジタル技術を活用して未来に継承することに力を入れています」と髙尾氏。

住民サービスの向上については、多くの自治体と同じように「書かない・行かない市役所」をコンセプトにした取組が進められている。2016年度のマイナンバーカードを活用した住民票のコンビニ交付サービス導入を手始めに、電子申請サービスを拡大した。年間で100件を超える申請数があるものから電子申請サービスを開始。2022年度は1300を超える様式に対応し、電子申請数は8万件を超え、前年度から約3倍の伸びとなった。「付随効果として、市役所内の業務でもペーパーレス化が促進。そのほかの具体例としては、児童扶養手当の新規受付をデジタル化しました。申請書に何度も同じことを書く必要がなくなり、その時間を相談に充てていただけるようになりました」。

こういったDX推進の中で、金沢市でも、多くの自治体と同じく、基本方針と対策基準からなる金沢市情報セキュリティポリシーを策定している。

「物的対策、技術的対策、人的対策の中で、国内の情報セキュリティに関するインシデントは人的要因が多いことから、特に人的対策に注力しています」と髙尾氏。その1つが、全職員を対象とした毎年の情報セキュリティ自己診断の実施だ。「確認テストのような形になっており、毎年高い数字が出ていますが、ヒューマンエラーはどこで起きるか分かりません。定期的に実施し、意識を改めてもらうことが重要だと考えています」。そのほか、新しく管理職になった職員や新規採用職員ごとの階層別の集団研修、情報システムを所管する課、マイナンバー等を所管する課などに対応する担当部署ごとの集合研修も実施している。また、国が示す原則であるクラウド・バイ・デフォルトに即し、ガバメントクラウドへの移行も準備中だ。「日々出てくる新しい技術に対しても、セキュリティポリシーで対応していくことが必要だと考えています」。

図 セキュリティ自己診断の正答率

金沢市では人的要因による事故防止のため、セキュリティに関する自己診断を毎年実施している

出典:金沢市

最後に髙尾氏は、今後の取組にも言及した。1つ目は、金沢スマートサービス基盤構築事業。市が発行するカード類をデジタル化し、スマートフォンに集約する。2023年度は、図書カードの実装に向けた取組が進められている。

2つ目がデジタルミュージアム構築事業。金沢市にある約20の文化施設が保有する約10万点の所蔵品をデジタルアーカイブ化し、デジタルミュージアムとして公開する計画だ。

デジタルミュージアムでは、金沢市の文化施設が保有する所蔵品のデジタルアーカイブ化を目指す

3つ目は、スマート林業推進事業。金沢市の約6割を占める林地の管理や経営の効率化に、デジタルを活用していく。さらに金沢市独自の取組として、マイナンバーカードを活用した職員の出退勤管理システムの構築も計画されていると紹介し、講演を締めくくった。