新しいジャーナリズムに挑戦 新聞記者が始めた不登校支援事業

学校現場を取材し、教育の在り方などを報道してきた西日本新聞記者の四宮淳平氏(事業構想士)。報道の力を最大限に活用しながら、フリースクールを通じた不登校支援事業に挑む四宮氏に、事業構想の経緯や事業構想大学院大学での研究について聞いた。

四宮 淳平 西日本新聞記者(編集委員)、
事業構想修士(福岡校3期生/2021年度修了)

「もっと何かできるのでは」
記者と院生の“二足のわらじ”に

文部科学省の調査によると、2021年度の不登校の小中学生は全国で約24万4000人。そのうち36.3%に当たる8万8931人はどこにも相談できず、支援を受けることができなかった。そうした学校に行けない子どもたちの選択肢を拡充するために、西日本新聞は新しいジャーナリズムのあり方に挑みながら、フリースクールを運営する認定NPO法人と連携して不登校支援事業を実施している。フリースクールに登校した場合、保護者からの希望があれば、在籍する小中学校の校長の判断で学校出席扱いにすることもできる。事業の旗振り役を務めるのは西日本新聞の記者で、小中高生3人の父親でもある四宮淳平氏だ。

四宮氏は徳島県の出身。2005年に西日本新聞に入社後、九州を地盤に行政関連の取材に従事したのち、2016年頃から教育分野の取材活動に精力的に取り組むようになった。

「当時、国は『地方創生』を積極的に推進していましたが、地域はというとお祭りやイベントをやっただけというケースが多く、その取り組みはどこも似たり寄ったりでした。持続可能な地域づくりに向けて、人材育成や教育に対して問題提起できるような記事が必要だと思ったことがきっかけになりました。また、子どもの授業参観に行った際に、授業風景が私の小学生時代と変わらないことに違和感を覚えたことも影響しています」

事業構想大学院大学の存在は取材を通して知ることとなった。

「福岡県でも、全小中学生の2.9%にあたる1万2299人が不登校で、前年から2531人増加しています。“不登校傾向”を含めれば、文科省の定義する不登校の3倍以上の子どもたちが学校という場に馴染めないでいるという調査データもあります。とにかく教育を巡る状況を改善したい、という思いで教育分野の取材を続けてきましたが、いくら記事を書いても手応えはそれほどありませんでした。報道による問題提起だけでなく、もっと何かできるんじゃないかという考えが募り、以前取材したことがあった事業構想大学院大学に入る決意を固めました」。現状を変革するために、漠然とした事業構想修士(MPD)に対するイメージのまま、2020年に福岡校の3期生として入学した。

2年間の学びを通じて
財団を活用した不登校支援を考案

研究テーマは入学当初から不登校支援に決めていたが、元々はフリースクールの運営・拡充を支援する事業ではなかったという。

「無理に学校に行かせようとするのではなく、学校でも家庭でもない場で学びの機会を提供したいと考えていたため、その手段についてはかなり試行錯誤しました。1年次では、地域の高齢者と不登校の子どもをオンラインでつなぎ、高齢者と会話したり勉強を教わったりするといったアイデアを発表しました」と四宮氏は振り返る。

大学院に通いながら自身と向き合う中、自ら教育者になることも考えたが、やはり自分の強みは新聞記者として培ってきた経験やノウハウにあるという結論に行き着いた。

「記事を通じて支援者をつなげることを思いついたのですが、こんなアイデアならわざわざ大学院に行かなくても良かったのではないか、と一時は絶望しました。しかし、多様な教員やゼミ仲間、そして大学以外の人脈を辿って、いろいろな人に相談していくうちに突破口が見えてきたのです。最終的に修士論文に代わる事業構想計画書では、不登校支援をテーマにした記事を軸に、報道と連携しながら寄付プロジェクトへの賛同を呼びかけて、寄付金をNPO法人などの事業者に分配するモデルを考案しました。それまでの業務や会社を一端離れ、楽しい学びの経験ができ、キャリアを見つめ直す機会を得られたからこそ、自分の強みを再確認できたのだと思います」

2年次は、スタートアップ支援にも意欲的に取り組む白砂光規教授や、一貫して航空業界で事業戦略やマーケティングに携わってきた井手隆司教授たちから、アイデア発想やプレゼン方法などの指導を受けて、事業構想にまとめることができた。「特に井手先生は、親の立場からも親身に個別相談に乗っていただき、とても有り難かったです」

報道の力を最大限に発揮して
サポーターを集客

西日本新聞は2022年11月末より、不登校支援に取り組む認定NPO法人エデュケーションエーキューブと連携し、クラウドファンディングサイト「READY FOR」で資金を募った。

エデュケーションエーキューブは福岡最大規模のスクールで、設立以来400人超の子どもを支援

クラウドファンディング「READY FOR」を活用

ICTを活用し個別最適化された学習や、社会で必要となる様々な体験・探求型学習を提供する

「いきなり財団を立ち上げるのは難しいので、まずはクラウドファンディングのプロジェクトを報道して、どれだけ寄付が集まるかを試したところ、約2ヶ月で目標人数の150人を上回る169のサポーターから資金を集めることに成功しました」

フリースクールのビジネスモデルは収支が成立しにくい構造になっている。学校に代わる場所になるには、親の送迎がなくても通える立地が必要であり、一定品質の教育を継続して提供するには、スタッフを長期雇用しなければならず、経営には大きな固定費がのしかかってくる。そうした固定費を継続的に賄うためには、一過性ではなく継続的な支援が必要と考えて、今回はマンスリーサポーターという月額支援を募った。

フリースクール支援の仕組み

滑り出しは好調となった不登校支援事業だが、今後は一つの法人だけの支援で終わらせず、より広がりのある支援にしていきたいと四宮氏は語る。

「大学院に入学して研究を始めた矢先に、私の子どもも不登校になりました。今後の事業構想についても、親としての体験を活かせる機会は多いと思っています。フリースクールに限らず、様々な形で十分な教育を提供できる場を提供することを考えていきたいと思います」