再生可能エネルギーと企業間連携で「タフなコミュニティ」実現へ
九州で太陽光発電やオール電化設備の販売を手がけるリフェコは、2022年7月、「体験型スマートホーム『くまもとルーフ・ルーフ』」をオープンした。プロジェクト責任者の辻基樹専務取締役(事業構想修士)に、新事業創出への挑戦や大学院での体験について聞いた。
「脱FIT」後を視野に
新規事業開発を目指す
リフェコは1995年に宮崎県宮崎市で設立され、「ゆめソーラー」ブランドのもと、住宅用太陽光発電設備の販売・メンテナンス事業を展開してきた。2011年に福岡県福岡市に本社を移転したあとは、太陽光の余剰電力買取制度(2009年~2012年)や再生可能エネルギーの固定価格買取(FIT)制度を追い風に成長し、現在は福岡県、熊本県、佐賀県を中心に太陽光発電や蓄電池、オール電化などの販売・施工に取り組んでいる。訪問販売ではなく、ショッピングセンター内などの店舗を活かしたプル型営業によって適正価格で設備販売する点がリフェコの強み。商圏を九州に絞るのは、システム設置後のアフターフォロー体制を充実させたいという考え方からだ。地場ハウスメーカーや、九州でのEV販売で先行する日産自動車ディーラーとも密接に連携している。
専務取締役を務める辻基樹氏は、建築を学び、住宅リフォームを手がける工務店勤務を経て、2014年にリフェコに入社した。辻氏は、同社を取り巻く経営環境の変化が、大学院入学のきっかけになったと話す。
「以前は既存住宅への太陽光発電システム追加が主流でしたが、今後はハウスメーカーが新築住宅に太陽光発電システムを標準化するようになると感じていました。設備単価も下がっており、さらには卒FIT(2019年)を迎えてユーザーの目的は売電から自家消費に移り始めており、当社も事業構造の転換や新規事業の育成を迫られるようになりました。
福岡市に事業構想大学院大学ができる、という話を聞いたのはそうした時期です。経営や新規事業開発を体系的に学びたいという気持ちに加えて、当時、卒FITを視野に大手発電設備メーカーや自動車メーカーから当社に協業打診が寄せられるようになっていたため、異業種との協業でシナジーを生み出す方法にも関心があり、多様な業種から教員・院生が集まる事業構想大学院大学に興味が湧きました」
再エネとVPPで
「タフなコミュニティ」づくり
2018年、辻氏は事業構想大学院大学福岡校の1期生として入学。修了時に提出した事業構想計画書のテーマは「再生可能エネルギーを活用してタフなコミュニティをつくる」。住宅地や公共施設などの一定規模のコミュニティに、太陽光発電による創エネ設備と、蓄電池、エコキュート、EVによる蓄エネ設備を導入し、電気・熱エネルギーを需要家と電力会社へ相互融通する地域循環型のVPP(仮想発電所)事業を構想した。環境負荷を抑えながらエネルギーの地産地消を実現し、分散型電源とすることで、災害時にも強い、まさにタフなコミュニティを形成できる。
「ゼミの主指導教員の坂本剛先生(QBキャピタル代表パートナー)には投資家ならではのシビアな目線で構想を評価してもらえました。頭の中が整理され、きれいに棚卸しできるような刺激的な指導でしたね。副指導教員の大野尚先生(ビッグ・フィールド・マネージメント代表取締役)からは、枠に囚われない柔軟かつ豊かなアイデアを得られました。このほか、石井歓先生(元西日本新聞社取締役、元福岡地所代表取締役社長)にも絶えず相談に乗ってもらいました。『ミニマムな規模ではなく大きな構想を描け』といったアドバイスが印象に残っています。修了後も度々相談させてもらっています。
2年間、仕事と大学院を両立できたのは、同期の院生たちのおかげです。皆が『何かしてやろう』という高いモチベーションを持っていたので、それに負けないようテンションを維持しました。アイデアや知識だけでなく、気持ちの面でも得られたものは大きかったと思います」
モデルハウスを協業の
プラットフォームに
「タフなコミュニティ」の実現に向けて、リフェコは2020年以降、経済産業省のVPP実証事業などに参加し、新技術の検証や、VPPビジネスを展開する上での課題の洗い出しなどを進めてきた。
そしてこの7月には、「体験型スマートホーム『くまもとルーフ・ルーフ』」を熊本市にオープンした。太陽光発電、エコキュート、蓄電池、そしてEVに蓄えた電力を家庭用の電力供給源として利用するV2H(Vehicle to Home)などを揃えたモデルハウスは、VPPを構成する要素を具現化したものであり、「2025年の少し先の日常」を可視化する場所である。
辻氏は、モデルハウスを企業同士の協業、あるいは産官学連携を通じて地域のVPPを考えていくためのプラットフォームとして機能させていく考えだ。現在、10社を超える企業とプロジェクト運営をしており、参画企業は徐々に増えているという。
「例えば自動車メーカーやディーラーは、EVを売りたくても、エネルギーの地産地消やV2Hのメリットなどの具体的な話まではできません。ハウスメーカーも太陽光発電や蓄電池まで自社でフォローするのは無理があります。当社が業界をまたいで関係各者の知見やノウハウを統合して、モデルハウスを活用しながら、創エネ・蓄エネをパッケージとしてお客様に提案できればと思っています」
辻氏は、企業それぞれにメリットのある「一石五鳥ぐらいの取り組み」にしていきたいと語る。また、VPPや再エネ活用の重要性を消費者に真に理解してもらうことも、「タフなコミュニティ」の実現に不可欠だ。そのためモデルハウスでのイベントなどを通じて、SDGsやカーボンニュートラルを身近なものとして消費者にも伝えていく。EVの電力を使う料理教室や海洋プラを使ったアクセサリーづくりなどのイベントを毎週末開催していく予定だが、これらは事業構想大学院大学で出会った異業種の同期たちと共に企画したという。
再生可能エネルギーの普及に向けて辻氏が現場で重ねてきた経験と学びは、事業構想大学院大学での研究と刺激的な体験や出会いも糧に、新たな段階に入りつつある。