産官学の知恵を集めDX推進 逗子市×NTT東日本

都心から1時間圏内ながら自然に溢れる逗子市では、働き方、医療介護、交通渋滞対策を重点テーマに、ICTを活用した魅力あるまちづくりをめざしている。コロナ禍で脚光を浴びる地域性を生かすため、DX推進の方策について語り合ったディスカッションをレポートする。(2021年2月8日開催)

地域課題のICTによる解決と
市役所のDXに挑む

神奈川県逗子市は三浦半島北西部、相模湾に面する人口約6万人の都市だ。明治時代には横須賀線の開通と葉山御用邸の造営とともに、全国有数の別荘地として発展。昭和40年代以降は東京や横浜のベッドタウンとしての機能を果たしてきた。新型コロナ禍以降は、海と山に囲まれた自然環境と地理的優位性に注目が集まり、子育て世代の移住が増加し転入超過傾向が強まっている。インタビューは、ICTを活用した女性の働く場の創出と新たなビジネス創出支援について、桐ケ谷覚逗子市長に尋ねることから始まった。

桐ケ谷 覚 逗子市長

「逗子市は東京や横浜まで一定程度の通勤時間が掛かることや、企業誘致のための大規模な不動産資源に乏しいという地域事情があります。一方で、育児期に女性の就業率が下がる『M字カーブ』が顕著であり、潜在的な労働力が豊かなまちでもあります。そのため、逗子にいながら仕事ができるリモートワークなど、ICTを活用した女性の働く場の創出に取り組み始めたところです」

コロナ禍以前より、企業誘致と起業促進で財政的に自走できる自治体への転換をめざしてきた逗子市は、2019年に産官学連携によるビジネス創出の場「platform ZUSHI BIZ」を設立。登録数は企業、研究機関など90に上る。

「これまでに健康医療分野と地域エネルギー分野で2つのワーキンググループが会員により設置されています。例えば健康医療分野では、電気通信大学と連携し、市民の健康増進施策に向けた医療・介護のビッグデータの活用の検討やデータサイエンティストの人材育成などを進めています」と桐ヶ谷市長。電気通信大学の社会人向けのデータサイエンティスト養成講座に市民無料枠を用意してもらったところ、予想を大幅に超える応募があったという。

今年4月の機構改革では、市役所のDXを強力に推進していくためにデジタル推進課を設置した。「総務部の情報政策課にあった情報化担当を、経営企画部のデジタル推進課として新設することで、守りから攻めの体制を構築しました。逗子市はいまだに公金の口座振込・振替業務にフロッピーディスクを使用するなどICT化では最後尾ですが、これを機に最前線に躍り出るチャンスにしたいと考えています」

ICTでシェアオフィスや
オンライン会議を活性化

地域課題解決と市役所のDXに挑む逗子市に対し、NTT東日本はどのような貢献ができるのか。ディスカッション冒頭では、中西裕信神奈川支店長からいくつかの提案があった。

中西 裕信 NTT東日本 神奈川支店長

女性の働く場の創出については、託児所を併設したシェアオフィスの設置が考えられる。モニターやセンサーを用いた見守りシステムを導入することで、安全安心を確保しながら運営負担を軽減できることが紹介された。

対面でのコミュニケーションが難しい今、「platform ZUSHI BIZ」を通じて多様な関係者と連携し新事業を創出していくためのポイントについて、中西支店長は「NTT東日本では、ICTを活用したまちの活性化に貢献する実効性の高いソリューションを用意しています。技術的には、働き方、医療・健康・介護、防災・防犯などの多様なニーズに対応できますが、まずは具体的な課題と原因を洗い出した上で、目的と予算に合わせてツールを選ぶことが重要です」と語る。

ICTを活用した「まちの活性化」イメージ
~ ニューノーマル(非対面・非接触)が変革のベースに ~

出典:NTT東日本

 

「例えば、オンライン会議の『会議が盛り上がらない』という課題に対し、原因が『画面越しでは相手の感情が読み取れないこと』だと仮定すると、AIを活用して顔画像や音声から発言者の感情を分析する方法が考えられます。あるいは、『画面や音声が乱れること』が原因だとすれば、高度で安価な通信環境を整備することが解決策となります。また、『議事録作成の効率化』という課題に対しては、音声認識で発言をリアルタイムでテキスト化するツールがあります。単語の利用頻度や感情まで可視化できるため、どんな発言があると会議が活性化するのかといったことまで分析できます」

また、高齢化が進む逗子市では、神奈川県警察との連携による特殊詐欺対策が喫緊の課題になっている。中西支店長は「啓発活動と併せて、通話音声機能付き端末を使った対策が有効です」と指摘する。録音した通話内容を特殊詐欺対策サーバに転送し、詐欺犯の声をAIで検知・分析した上で、詐欺が疑われる場合は契約者の親族などに通知する機能が紹介された。

「逗子は変わった」という
市民の声を目標に

後半のディスカッションでは、桐ケ谷市長から住民サービスの向上として、ICTを活用した交通渋滞緩和策への期待が示された。

「逗子市では、週末を中心に慢性的な渋滞に悩んできましたが、この数年でかつてない交通渋滞が発生しています。住むまちとしての価値も低下しかねず、渋滞状況が可視化できるシステムの開発などが待たれるところです」

これに対し、中西支店長は「地域課題を複眼的に捉えることで、渋滞緩和にとどまらないICT活用の可能性があると思います。まずは交通状況をモニターで監視し、渋滞の現状をつぶさに把握し、集まった交通ビッグデータを解析すれば、渋滞を予測し電車など他の交通機関に誘導できるほか、事件発生時には被疑車両の特定にも役立つ可能性があります」と語った。

また、市役所DXを進めるポイントについて、中西支店長は「現在の業務プロセスを見直し、簡素化できる部分はないか、そもそも不要な業務はないかなどを検討し、業務をできる限りスリム化することが重要です。まずは紙の情報をデジタル化することから、一歩ずつ着実にDX推進のご支援ができればと考えています」と言及した。

これを受けて、桐ケ谷市長は「ICTの活用により、業務の効率化にとどまらず、行政サービスの向上や都市機能の強化を図ることで、住民から『逗子は確実に変わった』と言っていただけるようになることが目標です。DXの推進は市役所だけでは到底なし得ないため、産官学連携のもと、オール逗子の体制で進めていく考えです」と締め括った。

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