2021年1月号

地域特集 鳥取県

鳥取県知事 「副業・兼業募集」で関係人口の大幅増加を目指す

平井 伸治(鳥取県知事)

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鳥取県は信じている。コロナ禍で鳥取県の価値が認められ、それを活かす時代がやってくることを。感染症対策と経済を両立させる取組や、移住施策から関係人口増加施策へのシフト、豊かな自然環境を活用した地域振興と人材育成の融合など、先進的取組を行っている。

平井 伸治(鳥取県知事)
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2020年10月22日)

――コロナ感染症対策と経済の両立について、お考えをお聞かせください。

コロナ禍における最大の経済対策は、安心できる体制をつくることだと考えています。鳥取県はコロナ禍が始まった当時、病床は12床しかありませんでしたが、病院の先生方と一緒に新型コロナウイルス感染症を治療できる病院を増やす努力をして、現在313床まで増えました。実は、全国の都道府県で初めてドライブスルー型のPCR検査を始めたのは鳥取県です。今は診療所の先生方にもご協力いただき、新型コロナウイルスとインフルエンザの両方の検査ができる体制をつくろうとしています。このようにシステマチックに検査能力と治療できる医療キャパシティを増やしています。

また当県は、まだ政府が法制の整備を検討している8月の段階で「新型コロナウイルス感染症拡大防止のためのクラスター対策等に関する条例」を制定しました。この条例をもとに、県民や事業者とともにクラスターの発生を未然に防ぐ取組を徹底しています。

クラスターが発生した時は、事業者自らクラスターが拡大しないよう対策をとりますが、もし対策がとられない場合、この条例で県に施設の使用停止を勧告する権限を持たせています。公表については、クラスターに関係した全員と連絡がつけば公表しないことを規定していますが、連絡がつかない場合は濃厚接触者等を迅速に把握するためにクラスターが発生した施設名等を公表します。同時にコロナ感染が誹謗中傷につながらないように人権を尊重し、適切なクラスター対策を講じて営業しているお店を全県民で応援しようという規定も設けています。こうした条例に基づく徹底した対策により、9月に当県初のクラスターが発生した時は迅速に収束させることができました。

安心できる体制をつくれば、お客様も安心してお店や施設を利用できます。安心の体制をつくることこそが経済を回す基礎だと考えて始めたのが「安心観光・飲食エリア協定」で、自主的に新型コロナウイルス感染症の感染拡大予防対策を徹底する観光地や飲食店街の団体と、県や市町村が協定を締結します。団体自らがエリア内の事業者の感染拡大予防対策が徹底できていると判断したら、「安心観光・飲食エリア」であることを宣言します。宣言後は、団体が定期的にエリア内の対策状況を点検し、エリア内の事業者に認証事業の認証取得を働きかけます。県は認証取得の支援を行い、市町村と連携して予防対策が継続されているかを定期的に確認します。まだしばらくはコロナ禍が続くでしょうが、感染症対策と経済を両立させる日本独自の取組というものが今進みつつあるのかなと思います。その実験的取組を先進的に進めているのが、鳥取県だと自負しています。

「鳥取県令和新時代創生戦略」第2期の基本理念

出典:鳥取県

 

「副業・兼業募集」は14社16人
の求人に約1400人が応募

――創生戦略の第2期計画で、3つの基本方針を立てられていますね。

鳥取県は全国一小さい県ですが、住民の顔が見えやすく、皆さんに様々な事業や行政プロセスに参加いただいております。おそらく、デモクラシーの理想的な運営が可能な規模なのではないかと思っています。

コロナ禍で人と出会うことや人との絆が薄れ、自分を見失いかけている人が増えている今、鳥取県のような地方の価値が見直されていると感じます。人と人との絆がしっかりと保たれて、雄大な自然の中で生活を送る。自然の中ではソーシャルディスタンスなんて意識しなくても保つことができます。当県は全国で最も通勤や通学の時間が短いので、それだけ自由な時間を持つことができます。都会のように時間に追いまくられる暮らしではなく、自分の鼓動のリズムと同じ時間の流れの中で暮らすことができます。これは鳥取県の強みなのだろうと思います。

こうしたことを踏まえて、「鳥取県令和新時代創生戦略」の第2期では、基本理念「トットリズム」として、3つの柱を立てました。1つ目は、豊かな自然でのびのび鳥取らしく生きる「鳥取+ism(イズム)」。2つ目は、人々の絆が結ばれた鳥取のまちに住む「鳥取+住む」。3つ目は、幸せを感じながら鳥取の時を楽しむ「鳥取+rhythm(リズム)」。

こうした暮らし方や社会スタイルが今後市民権を得ていくのではないかと思い、自信をもって第2期の地方創生の中で掲げることにしました。

――具体的にどのように進めていらっしゃるのでしょうか。

知事に就任した13年前、鳥取県の人口は60万人を切り「人口60万人ショック」と言われていました。そこで移住・定住施策に真正面から取り組むように政策を180度転換したわけです。お試し住宅やコーディネーターを設けて積極的に情報発信をし、移住された方にチューターとして移住希望者に寄り添っていただく制度をつくりました。その結果、移住者の数は毎年対前年の記録を更新し過去最多となり、昨年度の移住者数は2169名でした。今年はコロナ禍で記録更新は難しいでしょうが、それでもそれなりの効果は出ています。

ただ、こうした従来のやり方には限界も感じています。今回私たちはコロナ禍によって、必ずしも会社に行かなくても仕事ができることや、直線的なキャリアではなく、2つ3つのポジションや働き方を持ちながら人生をデザインしていけることを学びました。これからの時代は暮らし方や働き方にバリエーションが出てくると思います。

例えば、鳥取県で副業や兼業をする人を募るため、昨年10~11月に「鳥取県で週1副社長」というタイトルで副業・兼業求人をウェブサイトに掲載しました。すると、14社16人の求人に対して約1400人もの応募があったのです。

2019年10~11月に16人の副業・兼業人材を募集したところ、約1400人の応募が殺到

また、昨年11月には鳥取の企業を訪問する定員20人の「鳥取企業スタディツアー」を実施したのですが、参加者名簿を見て驚きました。それはもう名だたる大企業の方々ばかりで、今まで鳥取では採用できなかった人材でした。これは企業の考え方も変わってきたのではないか、社会は副業や兼業、ワーケーションや二拠点居住の方向に動き始めているのではないかと思いました。今年もコロナ禍の中で副業・兼業求人をウェブサイトに掲載しましたが、1000人近くも応募がありました。鳥取で優秀な人材が得られることがわかり、地元企業の求人も増えています。

2019年11月開催の「鳥取企業スタディツアー」の参加者たち

地域振興と人材育成は
融合して成果をあげる

――知事は以前からワーケーションにも力を入れておられますね。

ワーケーションも進展しています。例えば、米子市にある皆生温泉に皇族がお泊まりになるような格式の高い老舗旅館があるのですが、そこがワーケーションのオフィス化を始めています。Wi-Fi環境が整っているロビーで仕事をしてもらい、商談などには客室を利用していただく。お腹が空けばおいしい食事もとれますし、疲れたら温泉に入ることもできます。

中山間地の八頭郡にある学校を改造したシェアオフィスやコワーキングスペースを提供している「隼Lab.(はやぶさらぼ)」も、ベンチャー系を中心とした県外の企業で満杯になったので、増設を計画しています。入居者の方々は村の祭に参加するなど、地域との交流も生まれています。中には海外のシステムエンジニアもいらっしゃいます。中山間地が、今までになかった姿に変わりつつあります。

いきなり「移住」はハードルが高いけれど、副業や兼業、ワーケーションなどで関わりを持った「関係人口」を増やす方がよほど現実性があるのではないか。そう思うようになり、私たちは政策の重点を関係人口にシフトしたらどうかと考えています。今年8月には日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)さんとワーケーション推進に向けた包括連携協定を締結しました。JMAMさんは、ワーケーションの語義である「働く+遊ぶ」に「学び」の要素を付加した「ラーニング・ワーケーション」を提唱されています。鳥取砂丘や大山などの雄大な自然を企業研修型のワーケーションプログラムに採用いただき、地域振興や関係人口の形成を図っていきたいと考えています。

――地域振興と人材育成の両方が進んでいく感じですね。

最近、そこが融合し始めているように感じます。当県では2009年4月に「日本一の鳥取砂丘を守り育てる条例」を施行しました。落書きや、花火やゴルフなどの人に害を及ぼすおそれのある行為や、ゴミのポイ捨てや砂丘海浜での遊泳などを禁止する条例です。

国内最大級の海岸砂丘である鳥取砂丘。独特の地形や起伏に富み、固有の貴重な植物が自生する

発表当時、「砂の上に文字を書いて処罰対象になるのは味気ない」と新聞に書かれました。以前は砂丘に自分の名前などを落書きする人がたくさんいたのです。砂丘を背景に記念写真を撮りたい方々にとって、砂丘にどうでもいい名前が書いてあるのは興ざめです。美しい砂丘を保全するために皆さん協力しましょうという地域のテーマを掲げた条例ですが、実は議論を呼ぶために敢えて仕掛けたところもありました。狙い通り新聞などで取り上げられて鳥取砂丘が注目されたわけです。

例えば、美しい湿地帯の尾瀬にはいろいろな規制がありますよね。尾瀬はルールがあるからこそ、より尊い自然だと認識され、観光地としての魅力が増すところがあると思います。「日本一の鳥取砂丘を守り育てる条例」によって、鳥取砂丘の自然についてみんなで学んだり、保護活動をしたりすることで、美しい鳥取砂丘が自然を大切にする心を育む場所に変わりうるのではと思っています。そのような意味で、観光客に砂丘の雑草を抜いてもらう美化ツアーもつくりましたが、思いのほか多くの方にご参加いただいています。

――最後に、知事がこれから目指す鳥取の姿について教えてください。

新型コロナウイルスという歴史的な災禍で社会が止まり、孤独の中で思い詰める人が出かねない状況です。この病がもとで命を落とす人があってはならないと強く思っています。鳥取県は大都会にはない、包容力のある「ひとりも取り残さない社会づくり」に取り組んでいきます。鳥取県出身の俳人尾崎放哉に「咳をしても一人」という有名な句があるのですが、こんなに切ない孤独を抱えた人が一人も出ないように、私たちはこの鳥取で、人との絆を結びながら雄大な自然とともに自分の時を刻むことができる、そういう社会の実現を目指しています。

 

平井 伸治(ひらい・しんじ)
鳥取県知事

 

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