江戸期から400年の伝統を継承、甲州印伝の魅力を世界に発信

鹿革に漆を載せる伝統技法で、バッグや革小物を作る甲州印伝。江戸時代から独自技法を受け継ぐ印傳屋上原勇七は、地場産業としての印伝を育てつつ海外にも進出。常に革新を続ける老舗の想いと展望について、上原重樹社長に話を聞いた。

上原 重樹(株式会社印傳屋上原勇七 代表取締役社長)

武将や江戸の洒落者に愛好された
伝統工芸品「甲州印伝」

鹿革に漆を載せる独特な技法が特徴の「甲州印伝(いんでん)」。語源こそ「印度(インド)伝来」だが、輸入された鹿革を使い、400年以上かけて独自の発展を遂げた山梨の伝統工芸品だ。鹿革は人肌に近く柔らかで、丈夫かつ軽量。その性質から戦国時代には武者の鎧兜の補強や装飾に用いられ、江戸時代には武具や巾着、莨入れとして武士や庶民に愛好されてきた。

そんな甲州印伝のトップメーカー「印傳屋上原勇七」の創業は1582年。3社ある甲州印伝業者のうち、唯一戦前から続く老舗だ。甲州印伝は1987年に国の伝統的工芸品に、94年には山梨県郷土伝統工芸品に指定された。

「使い込むほど手に馴染み、長く持つほど愛着が湧いてくる。それが今なお愛され続ける印伝の魅力です」と代表取締役社長の上原氏は語る。

印傳屋が守り続ける伝統技法は3つある。まず代表的な技法として、鹿革に手彫りの型紙を置き、ヘラで漆を塗り込むことで模様を浮かび上がらせる「漆付け技法」。遠祖・上原勇七が江戸期に考案した技法で、甲州印伝の始まりとされる。そして、筒に鹿革を張り、藁を焚いて燻して褐色に染める「燻(ふす)べ技法」。また、1色ごとに型紙を替え、漆ではなく顔料を重ねる「更紗技法」も根強い人気がある。

「鹿革という柔らかな天然素材に、西洋ではジャパン( japan )と呼ばれる日本の美を象徴する漆を載せる。そんな豊かな発想に驚かされるとともに、鹿革と漆の特性を巧みに融合させてきた先人たちには多大な苦労と工夫があったのだろうと感じます。しかも、漆は温度と湿度に非常に敏感です。甲府盆地は高温多湿ですが、それでも空気が乾燥する冬場は工房を加湿し、逆に湿気の多い梅雨や夏場は除湿しなくてはなりません。これほど扱いが難しい天然素材で作るからこそ、印伝には奥深さや味わいがあるのです」

3つの技法にはそれぞれ専門職人がいて、各工程を分業することで印傳屋の製品が作られている。上原氏によれば、どの工程も高度な技と研ぎ澄まされた勘を要するという。各工程に熟知した職人たちが丹念に作り上げた製品の数々は、丁寧に扱えば孫子の代まで使い続けることができるそうだ。

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り64%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。