社員の「考動力」が成長の礎 V字回復を遂げ、さらなる高みへ

福岡市に本社を置く菱熱は、空調・衛生・電気設備の総合エンジニアリング企業だ。建設不況が続く中、2014年トップに就任した野口社長の下、5ヵ年計画の目標を前倒しで達成した。創立60周年を迎えた2019年、さらなる成長に向けて動き始めた同社の戦略とビジョンに迫る。

野口 俊郎(菱熱 代表取締役社長)

就任当初の課題は、
社員のマインドを高めること

1959年、三菱重工業製の冷暖房機器の販売代理店として誕生した菱熱(りょうねつ)。九州をベースに、空調設備・給排水設備などの衛生工事を主力として、設計から施工、メンテナンス、リニューアルまでトータルで手掛けられることが強みだ。近年は電気工事・建築工事にも事業領域を拡大し、「電・管・建」の一括受注を推進している。

菱熱の主要株主は、三菱重工業と新菱冷熱工業、九州電力。安定した経営基盤にも支えられ、バブル崩壊やリーマンショックなどによる不況の荒波を乗り越えてきた。施工実績の例を挙げると、三菱重工品川本社ビルや福岡市の電気ビル共創館、福岡銀行本店といったオフィスビル、福岡空港や九州新幹線水俣駅、九州国立博物館など、広く知られた施設が名を連ねる。

2014年12月に菱熱のトップに就任したのが、九州電力で常務執行役員東京支社長を務めていた野口俊郎社長だ。当時は日本全体が建設不況から抜け出せず、菱熱も厳しい状態が続いていた。野口社長は就任前の半年間、顧問として各部門へのヒアリングを重ね、現状把握に努めた。

「本音を聞き出してみると、長引く不況で社員たちのマインドが下がっているのを実感しました。決まったことをきっちりやる真面目な社員たちでしたが、裏を返すとチャレンジ精神が不足していた。そこで、社員のマインドを前向きにすることを経営の第一の目標に据えたのです」

経営ビジョンを掲げ、社内を改革

社長に就いた2014年12月、『再創菱熱』をスローガンに掲げ、創立60周年に向けた5ヵ年計画の経営ビジョンを3つ明示した。1つは「生産性の向上」であり、1人当たり売上高を4000万円から5000万円にすること。2つ目は「毎年売り上げ1割アップ」として、各部署の売上げを1割向上させて、社員250人から300人体制を目指すこと。そして3つ目「従業員満足と顧客満足の両立」では、社員の成長や達成感の高まりが生産性の向上をもたらし、結果として顧客満足度の向上につながると説いた。

「社員からは、無謀なビジョンと思われたかもしれません。でも私は、全社一丸となれば絶対に達成できると信じていました。そのために一番重要なのは"人財"の育成。自分の業務についてより強く深く考え、誰かではなく自分がやるという気概を持ち、知恵を絞って行動に移す『考動力』(こうどうりょく)を発揮できる人を育てようと、人材育成の研修内容などを一から組み立て直しました」

新入社員には座学と現場研修を行い、仕事の覚え方や進め方の基礎を固めた。仕事内容や自分の思いを書くノートも導入し、上司とのコミュニケーションツールとしても活用した。また、工事現場への配属は2人1組のチーム制にして、助け合い、意見を言いやすいようにした。

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