2019年10月号
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地域特集 新潟県

伝統工芸の銅製酒器・茶器 コアな顧客とつながる産業観光

玉川 基行(玉川堂 代表取締役)

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金属加工の集積地である燕三条地域で200年超の歴史を持つ玉川堂。伝統産業の勢いを盛り返すため、流通の改善や若者の採用を進め、売り上げを伸ばす。鎚起銅器の物語を伝える工場見学と、自社からの直販を強化している。

玉川基行(玉川堂 代表取締役)

新潟県中央部、燕市・三条市の一帯は、金属製の工芸品や日用品の産地として知られてきた。玉川堂は、燕市で伝統工芸の鎚起銅器を生産している企業だ。1枚の銅板から様々な製品の形を作りだす技術を、200年以上にわたって継承してきた。明治維新と2度の世界大戦、バブル崩壊など、事業継続を困難にする様々な出来事を経験しつつ、着実にブランドを強化し、年間売上は4億円にまで成長。その背景を、同社7代目社長の玉川基行氏に聞いた。

伝統工芸復活へメーカー直販開始

玉川氏は1995年に玉川堂に入社。その頃の同社は「バブル崩壊の影響もあり、潰れそうな状態でした」と同氏は振り返る。同社の鎚起銅器の花瓶や額縁は、当時は人気の記念品で、地元の企業がプレゼント用に盛んに購入していた。しかし、バブル崩壊に伴い法人需要が減少し、経営を圧迫していた。

贈答品に代わり、何を生産すればよいのか。顧客ニーズを知りたくても、当時の伝統工芸品は顧客の手元に届くまでに複数の問屋を経るシステムで、生産者が直接、購入者と会うチャンスがなかった。そこで玉川氏は、当時の主要販売チャネルだったデパートを訪問し、実演販売を始めた。

「職人が作っている姿を見せ、使用者と交流し、その場で購入してもらう。伝統工芸品の価値を理解してもらうため、ストーリーを語っていこうと考えました」。

併せて、問屋を介した取引を見直し、デパート向けの直販を開始。製品のラインナップも変えていった。法人需要の中心だった置物類ではなく、日用品に重点を移したのだ。その結果、同社の現在の主力商品は、広い意味での茶器と酒器。湯沸、茶筒、急須といった日本茶用の製品に加え、ティーポットやコーヒーポットなど新しい製品を加えた。酒器も、日本酒・ビール・ワイン用の器までをそろえている。

時代の変化への対応は今も続く。玉川堂では新卒者を職人として毎年採用している。枠が1~2名のところ数十人の応募があり、その多くは女子学生。若者や女性が多い環境により、鎚起銅器の新しい可能性が広がる。例えば最近のヒット作、小さな一輪挿し「フラワーボール」は若手女性職人の発案で製品化されたものだ。

若手女性職人が考案したフラワーボール(左)。玉川堂燕本店は登録有形文化財でもある。工場の祭典時は製作体験も可能

さらに、2014年には東京・青山に直営の販売店を開店、2017年には銀座にも店舗を開設した。今後は、「メーカーと顧客の距離を短くしたい。その究極形として、工場直販を強化したいのです」と玉川氏は話す。

産業観光で富裕層を誘客

日本だけでなく世界中にコアなファンを増やす製品づくりのため、燕市の工場にまで足を運んでもらえるよう、経営資源を投入していく。特に、外国人の工場見学を強化すべきだ。そう考えるようになったきっかけは、外部とのコラボにあるという。

玉川堂は2011年、フランスのシャンパンメーカーのクリュッグ社とコラボレーションしてオリジナルのボトルクーラーを制作した。その発表会を燕市の工場で行ったところ、クリュッグ6代目は工場に深く感動していた。次に、玉川氏がシャンパーニュのクリュッグ本社を訪問し、雄大なブドウ畑や醸造施設を見学した際にも、やはり大きく心を動かされた。

「シャンパーニュの醸造所には世界中からファンが見学に集まってきます。玉川堂の工場にお越しいただいたクリュッグ6代目の反応から考えて、日本の地場産業もシャンパーニュのようになれる可能性があるし、それを目標にしなければならないと思います」と玉川氏は言う。

玉川堂のブランドは海外にも知られており、すでに東京の2店舗では、売上の7割を外国人客が占めている。また、2018年に、燕市の本社工場を見学した7000人のうち400人が外国人だった。過去には、台湾から新潟空港まで、プライベートジェットでやってきた富裕層もいた。お茶やワインの愛好家には趣味への出費に糸目をつけない人もいる。燕三条の地場産業に世界中の富裕層を集めるため、「近い将来、燕三条にもプライベートジェットのための飛行場が欲しい」と玉川氏は目標を話す。

将来は、玉川堂の世界観を見せるためのミュージアムやレストラン、さらには宿泊施設などを工場に併設して、鎚起銅器の価値を知らしめていく考えだ。

地域を巻き込む産業観光振興へ

金属加工の工場を核とした伝統工芸のブランド化、観光開発は、燕三条地域としても重要なテーマになっており、工場に見学者を受け入れる「産業観光」を強化しているところだ。そのコアとなるのが毎年10月に開かれる「工場の祭典」。通常は工場見学を受け入れていない企業でも見学できる機会とあって、内外から5万人超を集める人気の観光イベントとなっている。参加企業の中には、ものづくりの現場を開放することで、顧客との接点ができ、新製品につながった成功事例も出ている。玉川堂ではイベント開始前から見学者を受け入れていたが、工場の祭典が始まってからはさらにその数が増えた。

「今後、リピーターを惹きつけるためには、地場産業だけでなく食や宿泊なども大事」と玉川氏はいう。近隣の農家やレストラン、温泉と連携して、魅力的な食、宿泊施設など、地域の観光全体を強化する必要がある。燕三条地域は新潟県の中央部に位置し、県内各地へのアクセスが良いことから、他の地域との連携も期待できる。例えば、工場の製品と新潟各地の特産品を組み合わせてプロモーションし、他地域への回遊を促す、などだ。

また、地域の産業観光の課題として、2次交通の不足があると玉川氏は指摘する。ものづくりの工場は、市街地から離れた場所に点在している。自動車を持たない観光客が利用できる公共交通機関は極めて少ない。タクシーを使うと交通費がかさむし、地元で手配できる台数も限られる。

「いわゆる普通の観光地ではないことから生じる交通の問題は、産業観光ならではの課題と言えます。行政の協力も得て解決したい」と玉川氏は話す。

新潟は、京都に次いで伝統工芸産地の産地が多い県だ。その背景には、米どころとして経済的に豊かだった地域の歴史がある。しかし玉川氏は、蓄積された地域資源が現在は十分に生かされていないと感じている。

「地場産業のブランディングを成功させなければなりません。新潟県はかつて日本一の富裕県で、当時の文化が良く保存されています。もう一度日本一を目指してもいいと思います」。

 

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