AIチャットやAR・VR面接で、学生に役立つ就職支援を実現
労働市場の多様化と変動で、新卒大学生の就職活動は激しさを増している。多くの大学ではキャリアカウンセラーを配置して支援体制をとるが、資源は不足している。「学生の役に立つ支援」を掲げ、社会の一翼を担う構想を聞いた。
学生のニーズを見出す
もともとMPDに進学した動機は、「事業承継に必要な実践知を体系的に学べ、自分の事業計画にプロットできる」といった考えからだった、と語る岡崎氏。ハローワークや大手人材派遣会社との差別化が事業課題であった。
まず、1期生同士でコラボレーションを試みるなど、企業と大学の連携を通じて「学生の役に立つキャリア支援」の提供に取り組んだ。次に、国家資格であるキャリアコンサルタント養成課程と連携し、大学のキャリア支援の平均的な質向上を目標に掲げた。「日本生産性本部と連携し、『大学キャリア・コンサルタント養成講座(現名称は、大学キャリア・アドバイザー)』を設置しました」(岡崎氏)。
「1000人規模の大学でも、就職支援担当者の人員は数名にすぎないという状況は珍しくありません。ところが就職活動の時期には問合せが殺到し、業務過多に陥ります。実態を調べたところ過半数が定型的な質問に限られてくることがわかりました。どのような大学でも毎年コンスタントに予算を計上できる機関は多くありません。4年ほど前にチャットボットの存在を知り、これを活用することで、学生のニーズに応じたキャリア支援と、それを担う職員の業務省力化が同時にはかれると考えました」
来たるときに備えた独習も
岡崎氏は、構想を実現する過程で、システム開発のスキルを自ら身につけたほうがよいと考え、一昨年から公立の専門職大学院である「首都大学東京産業技術大学院大学(専門職大学院)」にも通い始めた。AI・データサイエンス系科目を中心に、現在は橋本研究室にて機械学習をテーマとしたプロジェクトに参加している。その傍ら、独学の上、プログラミングスクールにも通い、就活生向けのLINEチャットボットを自ら開発。「女子美術大学や聖心女子大学ではこの自作チャットボットを試験的に導入しました。地方国立大学でも、拠点がグローバルに分散している場合、ネットを使った遠隔での大学院生の就職支援が大きなコスト削減につながり、ひいては大学職員への働き方改革にも貢献します」
チャットボットのメリットは「学生が必要とするときに、必要な支援ができる」「定型的な質問に対して、半自動的に応答できる」こと。米国ではイェール大学が最近導入したが、岡崎氏は未だチャットボットが極めて珍しい存在であった3年ほど前から、大手IT企業と共同開発し導入している。
VR模擬面接も、今後はインターネット回線が5Gに進歩することで、カウンセラーと学生が、場所を選ばず、お互いに遠隔でキャリアカウンセリングを受けることができる。これは、採用活動の現場でもイノベーションが起きると考えている。「当社の強みとしてリアルのカウンセラーの質が非常に高いことが挙げられます。バーチャルと組み合わせて意識的に推進しているキャリアカウンセラーは全国でも私ぐらいではないかと自負しています」
大学では、「MESH(ソニー開発のIoTブロック)でプログラミングを体験するワークショップ」など、未経験者でもスマホで簡単にプログラミングができる演習を実践。「ボタンを押すと光る」「ひっくり返すと音が鳴る」などの原理を視覚的に施し、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」の理解を促す教育教材として開発している。昨年はソニー協力のもと、都内女子大の学生を対象としたMESHを活用したワークショップを実施した。また、最近ではUnity(ゲームエンジン)を学びたい美大生有志(OG含む)を集めて、Unity部(仮)を立ち上げた。まだ10名程度の人数ではあるが、すでにゲーム開発に向けて動いている。これから世の中に必要とされる最新のスキルを習得するには、大学の履修科目だけでは対応できないケースもある。まずは自分自身が率先し、新しい取り組みに挑戦していきたいという。
事業・サービス提供のポイントは学生中心主義だ。「学生像は、時代と社会動向に応じて変化します。例えば現在の大学生は18歳人口がほとんどですが、将来には社会人大学生や定年後の大学生、留学生、通信教育生など、年齢層も多様化してくると想定されます。そこで人生・キャリアを支援できる体制が求められてくると思います。ITを駆使し、各大学の個性を活かしつつ、一人ひとりに合ったサポートができるサービスを、洗練し提供していきたいと考えています。最近ではチャットボットの他に学生たちと共同で製作したVtuber(雫澪-シズクミオ-)を活用したキャリア支援にも取り組んでいます。日本が最先端で質の良いものを提供していると言われるよう努力したいです」
地域の大学では留学生への支援など、多言語化や国際化に対応するために努力を重ねている。「地域の大学は教員・学生共に高い水準の人材を獲得していかないと競争に生き残れません。日本から外国へ積極的なアプローチをかけ、居ながらにして通信教育制で外国の優秀な学生を獲得していくという方向性はあると思います。更に『日本で働きたい』という本人の意向がある際、キャリア支援も重要な事業の一つであると考えています。
新事業を志すには、まず自分ができるようになり、次に仲間を増やすことが秘訣と語る。同業者のキーパーソンに自分が成功した実践を普及啓蒙すれば、迅速な普及も夢ではない。「そのためには、自分が多くの失敗と試行錯誤を重ねること」と岡崎氏は語る。「東英弥理事長の『社会の一翼を担う』という言葉を、在学中から今に至るまで、とても大事にしてきました。また大学院在学中は田中里沙ゼミに属し、事業を『世の中に伝える力』を学びました。広報を意識した事業を考えることは普及に繋がる大きな秘訣です。たとえ良い取り組みであっても、世の中の人々に周知され、浸透しなければもったいないですよね。このほど5月末から東京女子大学で導入され、私が開発協力した『VR模擬面接』は、大学職員の方々と密な連携を重ね、キャリア支援的な効果だけでなく、大学広報としても有効な取り組みになるよう意識しました」。
2019年度中に承継起業を予定しているという岡崎氏。大学院在学中から現在に至るまで培った実践知と人脈を糧に、更なる躍進を誓う。
- 岡崎 浩二(おかざき・こうじ)
- 岡崎人事コンサルタント 取締役社長、事業構想大学院大学 1期生[東京校・2012年度入学]