Amazonが公共セクターでも存在感 クラウドサービスで変革促す

必要に応じたITリソース活用が可能なクラウドコンピューティング。情報の効果的な共有と利活用により、行政サービスの質はどう向上するのか。中央省庁や地方自治体、医療機関やNPOで導入される先端事例を聞いた。

宇佐見 潮(アマゾン ウェブ サービス 執行役員、パブリックセクター 統括本部長)

必要な情報リソースを
柔軟かつ安全に利活用

アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)は、2006年よりコンピューティング、ストレージをはじめ、AI、機械学習、IoTなどのITリソースを提供する。クラウドとは、従量課金制で提供されるインターネット経由のオンデマンドITリソースであり、自前のデータセンターやサーバーを購入・所有・維持することなく、必要に応じてITリソースの活用が可能。企業はアプリケーションの開発と運用のため、インターネット経由でこれらのリソースにアクセスすることができる。

クラウドを使うメリットについて、宇佐見氏は「安全性、経済性、俊敏性、弾力性」をあげる。「当社はセキュリティを最重要事項とし、お客様と責任を共有する責任共有モデルという手法をとっています。このモデルは、お客様はご自身で扱うデータやアプリケーションの責任を持っていただき、サーバーの運営や物理セキュリティなどをAWS が運用、管理、統制するため、お客様の運用上の負担を軽減できます」

責任共有モデル

AWSがカバーする事業領域

クラウドの導入で、情報やデータの適切な再利用が可能になり、社会や個人に還元する「データの民主化」がもたらされる、とAWSでは考える。「これまで行政や医療機関のデータは、『ローカルな(クローズドな)情報』だったため活用の難しい事情がありました。データの民主化で、産官学などの多様なプレーヤーが連携でき、『価値の伝播』を容易に実現することが可能となります。内閣府が示した成長戦略『Society 5.0』を実現できるのが、クラウドではないでしょうか」。

クラウドの活用で、サイバー空間にある大規模な情報をビッグデータやアナリティクス、機械学習といった技術を用いて、処理・分析しフィジカル空間にフィードバックすることで、従来できなかった新たな価値が産業や社会にもたらされる、と宇佐見氏。「一連のフローの中で例えば、公的機関はより良い社会の実現のために、民間企業はビジネス的に利益を得るために、また、NPO/NGOは社会的ミッションを果たすためや、社会に福祉をもたらすためなど、組織の目的に応じた利用方法が想定されます」。

行政における情報の利活用にはセキュリティとルール付けが最重要だ、と宇佐見氏は説く。「情報をうまく連鎖させるための取り決めが重要だと私たちは考えています。クラウドによるデータの民主化が生み出すデータの付加価値に期待はする一方、お客様である企業の皆様のデータをどう保護していくか、クローズドな情報とそうでない情報の区別をお客様につけていただくことが重要です。今後一企業という枠を離れてクラウドに情報が乗せられることで、広く社会全般の発展ができるか否かという節目に立っていると感じています」(宇佐見氏)。

簡便・安価でコスト以上の価値

AWSでは、大型サーバーや専門人材を置く従来の形に比べてプラットフォームが簡便・安価に導入できる。この構図の中でITソリューションの役割も変化している。「従来IT企業は、『モノを買っていただく』という論理の中で、従属的に商品を提供する存在として振る舞わざるを得ない面がありました。クラウドを基盤にし、『異なるプレーヤーとともに新しいサービスをつくっていく』という対等な存在へと関係性が変質しています」。

具体的な導入事例は諸外国で多くみられる。「米国シカゴ市における『オープングリッド』は、行政・市民・NPOが連携した好例です。このスキームでは、シカゴ市の職員としてCDO(Chief Data Officer)がおり、市として提供してよいデータを決める権限を自治体が持っています。そして、市民から情報を聴取し、どういう情報を還元して欲しいかを訊き、その要望に応じてNPOがアプリケーションをつくる、という流れができています。この中で当社は、情報インフラとAPI(アプリケーションがやり取りするインターフェースの仕様)を提供しています。『オープングリッド』は外部委託と異なり、行政と市民が対等な存在として連携でき、シビックテックの先端的な事例と言えます」。

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