2019年3月号

地域特集 静岡県

「ふじのくに」静岡県、新しい日本づくりを先導する

川勝 平太(静岡県知事)

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富士山をはじめ、多くの世界クラスの資源を有する静岡県。川勝平太知事は、「富士」について、「士」は徳のある人材を、「富」は物産の豊かさを表すと語り、人材と物産を豊かに備える、新しい日本のロールモデルとなる県づくりを目指している。

川勝 平太(静岡県知事)

「ふじ」が持つ多様な意味

――静岡県は2018年、今後10年を見据えた総合計画「新ビジョン 富国有徳の美しい"ふじのくに"の人づくり・富づくり」を発表しました。

川勝 「富国有徳」は「富士」を四字熟語で表したものです。富士の「士」の文字には、一から始まり十を目指し、また一に戻って十を目指す、すなわち常に精進し己を高める「徳のある人」という意味があります。「富国有徳」は、立派な有徳の人材が「富(豊かな物産)」を創造するという本県の理念です。

平仮名で"ふじのくに"としたことには意味があります。古来より「ふじ」には、さまざまな漢字が当てられてきました。『常陸国風土記』では幸せを意味する「福慈」、『竹取物語』では不老不死の薬にちなんだ「不死」。他にも、2つと無いという意味の「不二」、尽きることのない価値の源泉という意味の「不尽」もあります。平仮名の「ふじ」は、こうした多様な意味を包み込んでいます。

日本のシンボル富士山は信仰の対象であり、また、文化のインスピレーションの源泉でもあります。美しく調和した富士山の姿に恥じない人材と物産を豊かにもつ自立した県土づくり。それが「富国有徳の美しい"ふじのくに"」で目指すビジョンです。

静岡県の新ビジョン
「富国有徳の美しい"ふじのくに"の人づくり・富づくり」

出典:静岡県資料

 

「富」よりも先に「人」がある

――「有徳の人材」を育むには、何が重要になると考えていますか。

川勝 人づくりで目指すのは富士山のように、気品をたたえ、調和した人格を持った「有徳の人」です。

富士山には、見る人の心に影響を与える不思議な力があります。ある人は富士山を見て学問を究め、ある人は、富士山を見て志を立てて首相になり、ある人は、一流のスポーツ選手になりました。富士山に登る道がいくつもあるように、立派な人間になる道は、それぞれの人の心の数だけあります。

大切なことは、文(学問)、武(スポーツ)、芸(芸術)の3つが調和した「文武芸の三道鼎立」です。それは文・武・芸のすべてに秀でることではありません。勉強が得意でなくても学問を重んじる心をもち、下手でもスポーツを好み、芸術を愛する感性をもつことです。一言でいえば、多様性の和を重んじることが大事です。

立派な人には信用があつまり、結果的に富が入ってきます。私は道徳と経済は両輪だと考えています。生きる道の基礎は、倫理や規範です。盤石な富は、立派な人という基礎がなければ長続きしません。ですから、富よりも先に人があるのです。

人のほかにも、もう一つ富づくりの大前提があります。それは、「大地の恵み」を大切にすること。静岡県は食の宝庫であり、339品目もの農林産物がつくられ、遠州灘や日本一深い湾の駿河湾、太平洋の黒潮などによって、100品目もの海の幸がもたらされます。お茶をはじめ、全国第1位の生産額を誇る農林水産物も数多くあります。

こうした豊かな大地の恵みをもたらしてくれるのが、自然です。特に森は水の栄養分を育みますから、森が豊かであることは、海にまで影響します。また、川の氾濫など自然災害も、山が荒れていると起こりやすくなります。まさに「森は海の恋人」です。

大地を破壊した文明はいずれ滅びます。防災・減災や命を守る危機管理のためにも、自然に畏敬の念をもって、大地の恵みを大切にする。それが「"ふじのくに"づくり」の一番の基本です。

富をつくる次世代産業を創出

――さまざまな次世代産業の育成にも取り組んでいます。

川勝 本県の富づくりの指針は、経済学者シュンペーターの「経済発展の理論」です。シュンペーターは、経済発展はイノベーションによってもたらされることを明らかにしました。昨今、イノベーションは技術革新という意味で捉えられていますが、彼の言うイノベーションはもっと広義の内容で、今あるものの組み合わせをさまざまに変えることです。

新しい素材、新しい商品、新しい生産組織、新しい生産方法、新しいマーケットなど、従来のありかたを刷新する。これらはすべてイノベーションです。こうした考えの下、私たちが全力で進めているのが、産学官が技術や知見を持ち寄り、連携するオープンイノベーションです。

静岡県は、医薬品・医療機器の1兆円産業を有します。2016年9月に医療・健康関連の研究開発拠点である「ファルマバレーセンター」を開設しており、ファルマバレープロジェクトを推進して、医療・健康関連産業を輸出産業へと発展させることを目指しています。また、静岡県は化粧品の生産金額も全国トップクラスであり、当県は人々の健康と美をつくる拠点になります。

また、今後の柱となる新産業として、光・電子産業とバイオテクノロジーにも力を注いでいます。

光・電子産業では、2017年4月に「フォトンバレーセンター」を設置しました。このセンターがある浜松地域は、ニュートリノ観測装置「カミオカンデ」の光電子増倍管を開発した浜松ホトニクスを中心に、静岡大学や光産業創成大学院大学などの技術が集結しています。地域企業の発展促進のほか、世界的なネットワーク構築の支援を行い、世界のフォトンバレーになることを目指しています。

バイオテクノロジーは、農・水・林の3部門でイノベーションを進めています。2017年8月にオープンした「AOI-PARC(アオイパーク)」では、理化学研究所と慶應義塾大学が入居し、農業の生産性向上や関連産業の育成、ビジネス促進に取り組んでいます。

林業では、県内の豊富な木材を活用したセルロースナノファイバー(CNF)の研究開発を富士市で行っています。CNFは、木のセルロースをナノレベルに微細化したもので、鉄の5倍の硬さを持ちながら重量は鉄の5分の1という、硬くて軽い新素材です。これがさまざまな用途で実用化する予定で、世の中に大きなブレークスルーをもたらすことが期待されます。

水産業は、2018年11月にマリンバイオ産業の振興を図るための協議会を発足させました。「バイオ」と「海洋」をキーワードに、駿河湾の海洋資源を活用した「マリンバイオ産業振興ビジョン」を取りまとめ、研究開発拠点の設置や支援機関の設立などを行います。

こうしたオープンイノベーションによって、静岡県から世界の人々を幸福にする富づくりを行っていきます。

静岡県が掲げる「地域づくりの基本方向」

出典:静岡県資料

 

世界レベルの資源を活かし、
観光を活性化

――観光振興については、どのように 進められていきますか。

川勝 富士山が世界遺産に登録された2013年以降、国際機関が認定する本県の「世界クラスの資源・人材群」は1ヵ月に1件以上のハイペースで急増しています。2018年は「静岡水わさびの伝統栽培」が世界農業遺産に、伊豆半島がユネスコ世界ジオパークに、ふじのくに地域医療支援センター理事長・本庶佑先生がノーベル医学生理学賞受賞など、18件が加わり、この5年半でその数は82件に達しました。(2018年12月末時点)

近年は世界に認められた"ふじのくに"を見ようと、国内外から観光客が訪れます。観光客数は年々増加しており、2017年度は1億5000万人を突破しました。今年は「ラグビーワールドカップ2019」、来年の「東京2020オリンピック・パラリンピック」では自転車競技が開催されるなど、国内外から注目を集めており、今後、観光客数はますます増加すると予測されます。

川端康成は伊豆半島の自然を「伊豆は海山のあらゆる風景の画廊である」と表現しました。それは本県全体に当てはまります。本県では、屋外広告の規制地域を設け、世界クラスの美しい景観に磨きをかけており、県全体を海や山の美しい風景を楽しむ「ふじのくに回遊式庭園」にする構想を進めています。

ソフト面の充実も図っており、「農芸品」の開発に力を注いでいます。農芸品とは、「農産物の芸術品」で最高品質のブランド農産物です。静岡に来れば最高級の農芸品や、とれたての新鮮な海産物を味わえます。これらは観光地としての大きな魅力です。また、ムスリムの方でも安心して来ていただけるように、早くからハラール食への対応を進めてきました。

観光は、安心して訪れることができる平和が条件です。安全で平和な地域にし、産業に携わる人材を磨く。それが観光化に結びつき、たくさんの人に来ていただけるようになる。結果として経済が潤います。観光産業は平和をつくる仕事です。「金は天下のまわりもの」であり、金儲け自体を目的にはしない。これが富国有徳の思想です。

「新しい日本」のロールモデルに

――知事は「静岡県が『ポスト東京時代』の新しい日本づくりの先導役を担う」と発言されています。

川勝 「"ふじのくに"づくり」は、静岡中心主義ということではありません。富士山は日本のシンボルであり、"ふじのくに"は、日本そのものを指すと言って良いと思います。「"ふじのくに"づくり」とは、「日本づくり」でもあります。

明治維新から東京偏重の時代が続いてきた日本は今、東京一極集中の問題に直面しています。この状況を打開するには、地域が自立し活性化して、多様な地域と文化からなる国づくりに変えなければなりません。

今、憲法改正論議が盛んですが、私は、新しい時代を拓く憲法をもつべきであると考えます。憲法の第1章は国民の統合の象徴としての天皇が謳われています。日本は国民と国土からなります。それゆえ、第2章は国土の規定、国土統合のシンボルとして「富士山」を謳うのが適切だと考えます。日本の国土が美しく後世に継承されるためにも、国民と国土をともにどうすればよいのか、そのための憲法について真剣に考えるべきです。

静岡県は、世界クラスの資源や人材に恵まれ、豊かな自然環境に培われた活力ある産業を有する「ミニ日本」です。この環境を活かし、国籍を問わず、誰もが努力すれば夢を叶えて幸せを実感できる「ふじのくにドリカムランド」の実現に全力で取り組んでいます。「"ふじのくに"づくり」は新しい日本づくりを先導するものです。

 

川勝 平太(かわかつ・へいた)
静岡県知事

 

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