2019年1月号

地域特集 鹿児島県

麹菌で世界の食料問題を解決 焼酎産業の会社が畜産を変える

山元 紀子(河内源一郎商店グループ)

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日本の焼酎生産を支える麹菌メーカーを核とする、河内源一郎商店グループ。代々続く研究をベースに、焼酎生産の過程で生まれる廃液を活用し、畜産向けの飼料添加剤を開発。また、麹菌を利用して、食品廃棄物を養豚飼料とする技術も実用化した。
文・嶋田 淑之(ジャーナリスト、産業能率大学兼任教員)

 

河内源一郎商店グループ 山元紀子氏

現代の焼酎の生みの親・河内源一郎

今、鹿児島県の焼酎産業が、日本、そして世界の畜産業を変革しようとしている。しかし、それにしても、なぜ焼酎産業なのだろうか?

そこで今回、夫の正博氏とともに河内源一郎商店グループを牽引し、錦灘酒造、霧島高原ビール、バレルバレー・プラハ&GENなどの代表取締役を務める山元紀子氏に、その背景や経緯を伺った。

まずは、河内源一郎商店グループとはいったいどのような存在なのか。

「明治時代のことです。当時、鹿児島県では清酒用の黄麹で芋焼酎を製造していました。そのため、味も悪く、腐敗しやすいなど品質が安定せず、商品としての流通は困難でした。

大蔵省に勤務していた祖父の河内源一郎は、この問題を解決するために研究を重ね、まず黒麹菌の分離に成功し、さらに、その突然変異でできた白麹菌を発見しました。『河内白麹菌』です。

この発見によって、現代へと続くまろやかで薫り高い焼酎の製造が可能になったといわれております。やがてこの麹を本格的に普及するために退官。そして設立したのが河内屋(今の河内源一郎商店)だったのです。

ただ、祖父が発見した河内白麹菌は、杜氏の力量に左右されやすく、品質にバラツキが出る欠点がありました。そこで、(源一郎の娘と結婚した2代目山元政明から山元姓になりますが、)政明は研究を重ね、1961年に自動製麹装置の開発に成功します。これによって焼酎の品質の安定がもたらされ、その後の焼酎ブームのベースとなったのです」。

現在では、全国の焼酎の9割以上が河内白麹菌でつくられ、全国の焼酎の8割が、この河内式自動製麹装置によって製造されている。

非連続な環境変化を商機に変える

1990年代、日本の焼酎製造業は、大きな環境変化に見舞われる。

「焼酎を1本つくるに際して、焼酎廃液が2本出ます。95%が水分で、従来、海中に投棄していました。ところが、『ロンドン条約』(1972)にもとづく『ロンドン議定書』(1996)によって海洋投棄が禁止されてしまったのです」。

多くの企業が焼酎廃液の堆肥化を模索する中、3代目の正博氏は家畜の餌にする研究を開始する。

「主人は麹菌から麹をつくるときに水が必要であることに着目し、水の代わりに焼酎廃液を用い、繰り返し発酵乾燥させることで麹飼料を開発しました。それがTOMOKOです」。

TOMOKOは添加剤であり、鶏の餌と牛の餌に添加されている。

開発に当たったグループ企業「源麹研究所」でその効果に関し実証研究を行ったところ、それまで家畜の体重を1㎏増やすには通常4kgの餌が必要だったが、TOMOKOを使うと、2~3㎏で済むことがわかった。また、鶏の卵の品質の向上に加え、1回当たり産卵数の増加、産卵可能な期間の長期化、牛の乳の品質向上と搾乳量の増加が認められた。

こうした実証研究を踏まえ、山元氏は飼料会社と連携して全国への普及を推進している。また、諸外国からも引き合いがあり、現在は、チェコ共和国の首都プラハに現地法人を置いて、ヨーロッパでの販売を拡大しているところである。

日本の食品廃棄物問題解決に貢献

2001年5月、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(通称「食品リサイクル法」)が完全施行された。

河内源一郎商店グループとしても、同法に対応することとなったが、そこから生み出されたのが、主として養豚の餌として用いる麹リキッドフィードである。

麹菌研究から、食品廃棄物を豚の飼料「麹リキッドフィード」(左下)とすることに成功。プラント(右上)で生産した餌を豚に与え、品質と生産量を向上させる

政府広報によれば、日本では年間1900万トンの食品廃棄物が出ており、これは世界の7000万人が1年間食べていける量だという。

麹リキッドフィードは、こうした食品廃棄物に注目し、そこに麹菌を加え液状化させてつくる飼料である。TOMOKO同様、源麹研究所で開発した製品であり、早速、実証実験を行ったところ、その効果は目覚ましいものだった。

「肉質の向上に加え、成長率アップで肥育期間が短縮化されましたし、母豚の産子数が通常の8頭から10~12頭に増えました。また麹菌が大量につくり出す酵素は消化を促進するため、未消化の餌による腐敗臭がなくなり、排泄物の悪臭が軽減しました。糞を用いた堆肥つくりも完熟までの期間が3~4カ月から3週間へと短縮されました」。

また、麹リキッドフィードで育った豚肉は、豚肉特有の臭みがなく、味もよいという。

麹菌は世界が抱える
課題の克服に貢献する

開発当初は、配合飼料の製造販売企業の既得権益を損なうことになり、軋轢が生じるのではないかと懸念する向きもあった。

「豚の成育のどの段階で麹リキッドフィードを与えるのが最善かは各養豚農家さんにより判断が異なるため、現在は配合飼料の会社と連携して普及を進めることができています」

養豚業界からの期待は大きく、世界に通じる画期的技術と評されていると聞く。

実際、東南アジア諸国を中心に海外へのプラント輸出も進んでいる。

日本など先進諸国における食料大量廃棄問題、そして途上国における飢餓・食糧問題の解決に貢献することが大いに期待される。

山元氏は最後に力強く言い切った。「麹菌が世界を救うのです」

 

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