新しい技術が社会で受け入れられるために 社会への広報の重要性

AIやIoTを始めとした先端技術によって、次々に革新的なサービスが生まれている。その一方で、地域社会や国民が受け入れられる「社会的受容性の向上」が技術的進化に伴って益々重要な意味を持つようになる。(社会情報大学院大学の講義より抜粋要約)

AIやIoTの進化によっての新たな商品やサービスが次々に開発されている。しかしその一方で、社会的に受け入れられるための、法制度の整備や対応した商品・サービスの開発は、遅れがちである。

国立研究開発法人情報通信研究機構理事長を務める徳田英幸氏は、「技術だけが進化していくのは不健全。健全な状態は、テクノロジーシェーピング(新しい技術の創出と社会的受容性の向上)とソーシャルイノベーション(新しい社会的枠組みの創出)の両方を同時に進めていくことが重要」と指摘する。

自動運転を例に考えてみる。自動運転の技術が進化すると、人間が全く手動しない完全な自動運転が実現していく。その際に、テクノロジーシェーピングの観点に立てば、サイバー攻撃による故意の事故を防ぐ技術開発が必要とされる。また、米国で2018年3月に起きたウーバー社による自動運転中の死亡事故は、「なぜそのような運転方法をとったのかという、説明可能なAIである必要性」を現実に直面する問題として、提起させる結果となった。

また、ソーシャルイノベーションでは、例えば、自動運転による事故が起きた場合に、法的な責任をだれがとるかという、法制度の改正等も含めた、新しい社会的枠組みの創出が必要となる。

では、こうした技術と社会をつなぐ役割はだれが担っていくことになるのか?徳田氏は、「生活習慣病の予防のため、たばこをやめようといった、公共的なコマーシャルと似ている。一企業だけではなく、民間企業が一緒になって取り組んでいくことが必要で、同時に国や自治体などの公共部門の取り組みも必要」と話す。

技術開発する企業にとっては、「最も初歩的、基礎的な段階として、デザイナーが技術視点だけでなく、利用する多様なユーザーの視点に立ってホーリスティック(包括的)にデザインすることが必要」(徳田氏)と言える。

Mobileeye社によると公開された事故当時の映像を分析すると被害者の人物を衝突の1秒前に検出できていた。Uber車は、何らかの原因で検出できなかった。

出典:Intel Newsroom / Prof. Amnon Shashua, SVP Intel, CEO & CTO of Mobileeye https://newsroom.intel.com/editorials/experience-counts-particularly-safety-critical-areas/

米国では、すでにウーバーやグーグル、アップルを始めとしたIT企業が自動運転の公道実験を始めている。日本でも、すでに自動運転の公道実証実験は始まっており、完全自動運転が実用化する日は遠い未来ではないと考えられる。

出典:日本郵便と日本青年会議所による「自動走行公道実証実験」(2018年7月21日)

自動運転の実現が
新規事業開発をどう変えるか?

自動運転のレベルにもよるが、完全自動運転(レベル5)に近づけば近づくほど、社会へのインパクトは大きく、近い将来に、限りなく完全自動運転に近い状態が達成されようとしていることが窺える。このような状況で、新規事業担当者にとって、広報の視点から検討すべきことは何だろうか。

第一に、自動運転に関連する産業の新規事業担当者は、技術的な発展とともに生ずる社会受容性について検討する必要がある。

第二に、自動運転を前提とした、社会制度の変革について検討の必要がある。これは一社だけで取り組むのではなく、複数の企業と公共部門(国・自治体等)との取り組みが必要だ。

第三に、自動車産業に直接的に関係する企業や公共部門とだけでは不十分で、自動運転ほどの社会的インパクトがあるものならば、あらゆる産業を巻き込んで、考えていく必要がある。

例えば、自動運転は、地方創生に寄与すると言われている。過疎地の高齢者、東京都市部ですら存在する買い物難民は、人口減もあり採算の取れない公共交通機関が撤退をする中、増加の一途だ。このような中での自動運転の導入は、多くの買い物難民を救う可能性がある。これは、極めて社会的意義が高い事業であり、自動運転がこのような社会課題を解決する可能性を秘めていることを示している。

成熟した従来の自動車業界での活動は、このような社会課題への取り組みが、今後の自動運転の普及期に入っていく段階と比較すれば、方向性が違うと捉えられるかもしれない。しかしその一方で、社会課題に着目し、その解決に自動運転がどのように活用できるか?という視点で新事業開発を行うのならば、今までにはなかった新たな市場を開拓できるだろう。

 

 

徳田 英幸(とくだ・ひでゆき)
情報通信研究機構 理事長