日本企業のIoTを支える先進都市 「深セン」と組むメリットとは?

IoT普及にはハードウェアの視点が欠かせない。「ハードウェアのシリコンバレー」「スタートアップの聖地」といわれ、双創(創新:イノベーション、創業:スタートアップ)の場として知られる中国深センが日本の製造業復活に不可欠な存在となりそうだ。

藤岡淳一 ジェネシスホールディングス代表取締役社長

深センには、設計から認証、基板実 のニーズに合わせてハードウェアを伴装、部品調達、組立、物流まで、電子機器産業における世界一のサプライチェーンを誇るエコシステムがある。藤岡淳一氏率いるジェネシスホールディングスはこのエコシステムに入り込み、自社工場を立ち上げ、日本企業向けに電子機器の受託製造を行っている。普通、非常にローカルな深センのエコシステムに、外国人は入れてもらえない。ところが、藤岡氏は20年近く中国に滞在する経験から、深センの製造サプライチェーンに入り込んでいる稀有な人物だ。

IT企業と深センは相性がいい

ジェネシスホールディングスは、日本交通グループのタクシー専用ドライブレコーダーやイオンの格安スマートフォンなど、250以上のIoT機器の製造実績を誇る。あらゆる産業分野における知見を有する藤岡氏は、「特にIT企業と深センのサプライチェーンは非常に相性が良い」と指摘する。/p>

工場のみならず、飲食店、塾、学校、ドラッグストアなど、あらゆる場所でIoT化が進む中、ソフトウェアを中心に事業を展開してきたIT企業が顧客のニーズに合わせてハードウェアを伴うIoT領域に参入することは珍しくない。しかし、参入にあたって様々な課題がある。

第一に、ソフトウェアとハードウェアのリリースに至るまでのスピード感のズレだ。大手メーカーは1年以上かけてものづくりを行うことが普通であるのに対し、IT企業の場合はソフトウェアのサービスを3か月で生み出すなど、スピード感が全く異なる。IT企業にとって、ハードウェアで1年以上かかってしまうと、サービスの展開が難しい。ところが、深センのサプライチェーンは非常に素早く、発注から2~3か月で量産して納品まででき、IT企業のニーズに合致する。

第二に、製造ロットの問題だ。IT企業にとっては、製品をモノとして売るのではなく、サービスとして提供することが多い。その為、いきなり何万も製造するのではなく、小さなロットで刻み、在庫リスクや初期投資を小さく抑えたい。これも深センでは可能だ。

リードタイムが短く、小ロットでの製造が可能なこと以外にも、「多品種」「高性能」「低コスト」で製造が可能な点も見逃せない。このように、新規にIoT分野へチャレンジしたいIT企業にとって、深センは非常に魅力的なパートナーといえる。

図 深センと日本それぞれでセットトップボックスを製造した場合の比較

出展:「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム(藤岡淳一著)

日本も徐々にIoTが普及

日本においてIoTは普及するのか?中国では無人コンビニやキャッシュレスが広がるなど、日本よりもIoTが圧倒的に浸透している。この背景には、「割り切りの違い」があると藤岡氏はいう。中国においては、アリババやテンセントといった巨大プラットフォーマーが無料でサービスを提供し、個人情報を活用することに抵抗がない。そのうえ、深センは20代~30代前半のスマートフォンを持っていることが前提の人々が暮らす街だ。これらを踏まえると、確かに日本では中国と同じようなスピードでICTの導入は進まない。しかし、人口減少・少子高齢化が進む日本において、AI活用の前提となるIoT化は確実に進行し、IT企業におけるデバイス需要は増加する。

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